因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サスペンデッズ『MOTION&CONTROL』

2008-08-25 | 舞台
*早船聡作・演出 下北沢OFF・OFFシアター 公式サイトはこちら 公演は24日で終了
 小さな舞台で時間と空間が自在に行き来する。友人の葬儀に向かう列車の座席、大学の映画研究会の部室、映画撮影をする公園、どこかの町の喫茶店。いまだに疼く恋の痛手や、生活のため家族のために諦めた夢など、誰にも身に覚えのある感覚だろう。これからいろいろなことができる、無限の可能性があると思われた大学時代は、案外と何もできずに過ぎてしまうものだ。志を得て夢を実現させられる人は僅かである。自分にはいろいろな面でそれほど能力がないことを認めざるを得なくなる。平凡な選択をし、普通の中年になっていく。

 当日チラシに作・演出の早船聡が、ある演出家から「いい加減自分の事を書きなさいよ」と言われて本作の執筆、上演になった経緯を書き記している。結果は「自分の事なのか、そうでないのかよくわからない作品になりました」とのことだ。過去を振り返り、自分の人生を見つめ直すことは悪くない。しかし個人的な体験や思い出を投影した場合、それらがほんとうに劇作家自身の体験なのかどうかはさておき、舞台上にその劇作家自身がいることが濃厚に、というかベタに感じられる作品は少々引く。いや、上演前にこの挨拶文を読まなければよかったのかしら。

 本作を青春へのノスタルジーに収めてしまうのは惜しい。劇作家は戯曲を書く、舞台を作るという志を得た人だ。もっと深くもっと強いものがほしい。早船聡が今回が初見の劇作家である。12月に他カンパニーへの書き下ろしを控え、サスペンデッズは年明けシアタートラムに進出する。見逃すまじ。

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