因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ第44回公演『お茶と同情 Tea and Sympathy』

2018-08-09 | 舞台

* 関根信一作・演出 公式サイトはこちら1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20) 下北沢・OFFOFF劇場 12日まで
 今年の新作の題名は、同名の舞台作品を原作にしたアメリカ映画(1957年公開)から取ったとのこと。ある高校にやってきた教育実習生の男性が、実習を前に自分はゲイであると生徒たちにミングアウトしたいと教師たちに告げた。さっぱりと受けとめるものあり、激しく動揺して生徒への悪影響を言い立てるものあり。そこから生徒たち、友人たちを巻き込んでさまざまにひろがってゆくセクシュアリティをめぐる物語だ。

 物語の堅固な構築の上に多彩な人物を配置し、絶妙な台詞運びで物語を展開させる関根の作・演出は、ますます脂が乗った印象だ。過去作品の人物(関根演じるレズビアンマザーの中野友理)をひとり置き、その周辺の人物については台詞のなかだけに登場させることで、抑制による効果を上げている。友里の息子の雄太が高校生になったんだ、元気にしているかなと、2016年上演の『Family,Familiar 家族、かぞく』で雄太を演じた中嶌聡の渋い学生服すがたが鮮やかに蘇り、しみじみと懐かしい。ひとつの劇団を何年も続けて見ることの幸せである。

 出演者のひとりが体調不良で降板したこともあり、今回の上演にはさまざまな困難があったと察するが、それとわかる綻びは全く感じられなかった。互いの信頼関係が強固なることを証左であろう。

 実習生のカミングアウトに大反対する副校長が、登校する生徒への声かけのために、朝7時30分に登校の指示を出す。そうするために実習生とその指導教官は前日遅くまで残業しなくてはならず、「学校のブラック企業化」が内部にも原因があることが示される。自分もこうやってきたのだからと疑いを持たず、相手に対しても同じ働き方を当然のように強いるところなど、学校という職場、教師という職業の内実を印象づける。
頑なで、聞く耳を持たない人物の典型のように造形されているが、いろいろな出来事を通して、副校長の心の向きが次第に変容する。彼が家庭のことを語る場面では、台詞だけでなく何らかのシーンによって知りたい。また実習生に対して、あからさまに反抗的な振る舞いをする男子生徒は、ほんとうはどんな少年なのか。演じている岸本啓孝をもっと演劇的に活かすことも可能ではないか。

 5月の関根信一短編戯曲リーディング公演『アナグラム~ユルスナールの恋~』 を観劇した際、作品のなかに、人間が「生きる」ことの賛歌だけでなく、誰も逃れることができない「死」が密やかに影を落としているという印象を持った。今回の新作も同様で、「自分たちのことを知ってほしい」という願い、自分自身がよりよく生きたいという願いが、「伝えておきたい」という「継承」への希求に結びつきはじめている。

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