消せない不安から、彼女の前から隠した。それを…「分かった」と頷き、すっと脇差を取り、横に寝かせて彼女に渡した。
能子「御預かり致します」一礼し、刀を持った。ズシッ…少し重い。
数歩下がって立ち上がり、義兄を見た。そして、私の、刀の使い方をお見せします、と目で伝えて「ちょっと、借りるわね」と、
継「あ…」と、鉢巻をひょい取り上げ、舞台中央に進み座った。刀を置き、鉢巻をかざし、きゅっと縛った。この井出たちは、天岩戸の神楽、舞装束だった。
カタッ、神域と俗界に一線を画するように脇差を手前に置き直し、月見台に座する神々に礼した。顔を上げ、姿勢を正し、大きく息を吸い込み、
ふぅ…と呼気を出して緊張を解し、刀を手に持った。そして、立ち上がり、
すぅ…と吸気と共に神力を入れて抜刀し、立てに構えた。
高らかに掲げた刀は月光で、キラリ、光った。それは、刀が月光を吸い込み、私の手を通して血流と共に力が流れてくるようだった。刀に神気宿るとされるのは、この事かもしれない。
バンッ、足踏み(地鎮)の合図で舞い始めた。それは、東北伝統の鎮魂舞、
池田「剣舞(けんばい)…」東北 奥州平泉の没落した源氏氏族の鎮魂舞で、念仏舞踊ともいう。
継「ほえぇ」刀の型が美しく「やっぱ、血は争えネェな」ツネと同じ、太刀筋がいい。
能子「ハッ」と胎から一声上げて、刀を斜めに振り下ろし、神域と俗界の結界を断ち切った。この宴の場に神と人の境はいらない。我が身に神を降ろし神人一如の神がかり(神楽)舞、これこそが人が神に変わる瞬間で、私の体は無となり、体を神に預けて舞に酔う。
シャンシャン…腰につけた巾着の鈴が激しく鳴り、無という空間の中に住まう鬼(おん)が、目には見えない影が切りつけられ、泣くようで、
シャンシャン…シャンシャン…この泣き声で、人の弱さを深く知る。強く在りたい、乗り越えたい、弱くなった己の影を切って、切って、絶ちきり、生まれ変わり(再生し)たい…その一念で刀を振る。ズシリと重かった刀はいつしか重さが無くなり、軽やかに空を裂いていた。
次第に次第に陶酔し…夢幻と現(うつつ)の中で、私は神に酔いしれた。無の中で神が酔いから醒めるまで、どのくらい舞っただろう、時空の感覚が無くなり、体が自然に動き、回り回って舞となり、刀が風を巻き起こし龍が嘶く。刀が龍に化わり、天地裂く、その割れ目から己の影が消えていく。スッと足を止めた刹那、リン…鈴の音が、小さく泣いた。最後の鬼が消えて、チン…刀が鞘に収まり、神の酔いから覚めた。
「ふぅ」と息を付き、我に返り、初めて、神がかりが終わった、と気付いて…あん「れ?」
能子「御預かり致します」一礼し、刀を持った。ズシッ…少し重い。
数歩下がって立ち上がり、義兄を見た。そして、私の、刀の使い方をお見せします、と目で伝えて「ちょっと、借りるわね」と、
継「あ…」と、鉢巻をひょい取り上げ、舞台中央に進み座った。刀を置き、鉢巻をかざし、きゅっと縛った。この井出たちは、天岩戸の神楽、舞装束だった。
カタッ、神域と俗界に一線を画するように脇差を手前に置き直し、月見台に座する神々に礼した。顔を上げ、姿勢を正し、大きく息を吸い込み、
ふぅ…と呼気を出して緊張を解し、刀を手に持った。そして、立ち上がり、
すぅ…と吸気と共に神力を入れて抜刀し、立てに構えた。
高らかに掲げた刀は月光で、キラリ、光った。それは、刀が月光を吸い込み、私の手を通して血流と共に力が流れてくるようだった。刀に神気宿るとされるのは、この事かもしれない。
バンッ、足踏み(地鎮)の合図で舞い始めた。それは、東北伝統の鎮魂舞、
池田「剣舞(けんばい)…」東北 奥州平泉の没落した源氏氏族の鎮魂舞で、念仏舞踊ともいう。
継「ほえぇ」刀の型が美しく「やっぱ、血は争えネェな」ツネと同じ、太刀筋がいい。
能子「ハッ」と胎から一声上げて、刀を斜めに振り下ろし、神域と俗界の結界を断ち切った。この宴の場に神と人の境はいらない。我が身に神を降ろし神人一如の神がかり(神楽)舞、これこそが人が神に変わる瞬間で、私の体は無となり、体を神に預けて舞に酔う。
シャンシャン…腰につけた巾着の鈴が激しく鳴り、無という空間の中に住まう鬼(おん)が、目には見えない影が切りつけられ、泣くようで、
シャンシャン…シャンシャン…この泣き声で、人の弱さを深く知る。強く在りたい、乗り越えたい、弱くなった己の影を切って、切って、絶ちきり、生まれ変わり(再生し)たい…その一念で刀を振る。ズシリと重かった刀はいつしか重さが無くなり、軽やかに空を裂いていた。
次第に次第に陶酔し…夢幻と現(うつつ)の中で、私は神に酔いしれた。無の中で神が酔いから醒めるまで、どのくらい舞っただろう、時空の感覚が無くなり、体が自然に動き、回り回って舞となり、刀が風を巻き起こし龍が嘶く。刀が龍に化わり、天地裂く、その割れ目から己の影が消えていく。スッと足を止めた刹那、リン…鈴の音が、小さく泣いた。最後の鬼が消えて、チン…刀が鞘に収まり、神の酔いから覚めた。
「ふぅ」と息を付き、我に返り、初めて、神がかりが終わった、と気付いて…あん「れ?」