5月末の決着とは:米軍再編計画では普天間戦闘部隊は2014年までにグアムに移転する

日本国民の大多数の民意に応えるのが政治であり、民意をくみ取らない政治は民主主義とは言えません。鳩山総理が見つめ心を寄せるべきは、沖縄県民の心であり大多数の日本国民の心でなければなりません。沖縄県民や大多数の日本国民が、総理に裏切られたと失望しないよう、鳩山総理は今こそ全力を尽くすべきです。

外務省・防衛省はいまだ18,000名にこだわっていますが、米国防総省の公式発表や沖縄県の調査によって、在沖海兵隊員の数は12,400名(2009.6.30現在)であることがほぼ確定しています。2006年5月の日米ロードマップによると、そのうち8,000名(米国グアム環境影響評価書によれば8,522名)+その家族9,000名が2014年までにグアムに移転することになっており、NHK沖縄が行った当事者たる海兵隊司令部へのインタビューなどからも、その移転計画が実行に移されつつあることは事実です。

2010年2月に報告された、オバマ政権で初めてのQDR(Quadrennial-Defense-Review 4年ごとの国防戦略の見直し)にも、「グアムを地域の安全保障の拠点(hubハブ)にする」と明記されています。太平洋およびインドまでの東アジア地域を統括する太平洋海兵隊司令部(ハワイ)は、将来的な米軍再編計画の上で、グアムを、現在沖縄に司令部を置く第3海兵隊遠征軍(ⅢMEF)の司令部・本拠地とすることに、大きな意義を見出しています。

この、司令部を含めたⅢMEF8,000名(8,522名)とその家族9,000名の2014年までのグアムへの移転は、ロードマップに明記されていますが、一方、普天間飛行場代替施設の建設については、ロードマップには「2014年完成を目標にする」と記されています。

今、5月末決着として問題とされているのは、普天間代替施設をどこにもっていくかという議論ですが、5月末までに普天間代替施設の移設先を決めなければロードマップに反するというものではありません。5月末というのは、鳩山総理が自ら課したタイムリミットであり、米国にとってⅢMEFに関する新年度予算(2010年10月-2011年9月)の計上に係るタイムリミットなのです。

従って、日本政府が5月末までにしなければならないことは、60.9億ドルのグアム移転費用を負担することを約束したグアム協定の維持・遵守を新政権としてあらためて表明し、普天間基地移設問題については、更に両国で協議をするという姿勢を示すことなのです。

普天間代替施設の建設地をどこにするかという問題は、8,522名の海兵隊がグアムに移転した後、いったい何が残るのかがはっきりしない限り議論にはなりません。今年4月2日に閣議決定された答弁書では、政府は「グアムに移転する在沖縄海兵隊の部隊については、米国が今後移転に関する具体的な計画を作成する過程において更に検討することとされており、現時点では決定されていない」と答弁しており、従って、残る部隊も決まってはいないのです。

現在普天間基地所属の海兵隊員は約2,000名で、米国グアム環境影響評価書より抜粋した防衛省の資料によると、グアムに移転する海兵隊の航空戦闘部隊は1,856名となっています。普天間基地施設管理部隊は約330名なので、2014年までに普天間基地所属のほとんどの海兵隊員が、グアムに移転して居なくなってしまうのです。

ところで、ⅢMEFが司令部ごとグアムに移転しても、その配下にあるキャンプ・ハンセンに司令部を置く第31海兵隊遠征隊(31MEU)は、グアムとハンセンのダブル拠点体制をとるのではないかと想像されています。31MEUの航空部隊は、ヘリ25機とハリアー攻撃機4機ですが、31MEUは、米国と同盟関係にあるタイ・フィリピン・オーストラリア・韓国・日本を、ローテーション展開しています。31MEUの司令部をキャンプ・ハンセンに継続したままでも、常駐するのは基地管理部隊であって、多国籍訓練をはじめとする訓練の多くは、新設されるグアムやテニアンの訓練基地で行われることになると太平洋海兵隊司令部も想定しています。

これまでのところ、戦闘地域に派遣される海兵隊部隊の最終チューンナップは、沖縄で行われてきました。グアム・テニアンに新しい訓練基地を設けてもなお、最終チューンナップが沖縄で行われる可能性は高いと考えるべきだとは思いますが、いずれにしても、ⅢMEFがグアムに移転すれば、沖縄に常駐するのは基地管理部隊であって、戦闘部隊の常駐は現段階の計画ではほとんどないことになります。

ⅢMEFグアム移転後に何が残るのかをはっきりさせて、代替施設はゼロベースで協議すべきですが、それでも沖縄に普天間に代わる滑走路がどうしても必要ならば、キャンプ・ハンセンの山側部分あるいは既に海兵隊が使用している伊江島補助飛行場の活用などで、地元沖縄そして米国と今後時間をかけて協議をしていくしかありません。

普天間基地移設問題は、2005年に交わされた「日米同盟・未来のための変革と再編」を見直す好機ともなりました。ここには、島嶼部への侵略については日本自らで防衛・対応すると記されており、例えば尖閣諸島が中国軍に侵略されたとしても、まず対処するのは自衛隊であって、米軍は支援するだけで米軍が日本のために戦うことはありません。更に、抑止力とは報復力と接近拒否力であり、空軍力と海軍力です。有事の際の機動部隊である海兵隊は、抑止力そのものではありません。

抑止力という観点で言えば、昨年5月国会で承認された「グアム協定」には、「グアムが合衆国海兵隊部隊の前方での駐留のために重要であって、その駐留がアジア太平洋地域における安全保障についての合衆国の約束に保証を与え、かつ、この地域における抑止力を強化するもの」と記されており、グアムに移転することは、むしろ抑止力の強化になるというのが日米両国政府の認識です。

一方、アジア太平洋を統括する太平洋海兵隊司令部は、将来的にはグアムがアジア太平洋のトランスフォーメーションのハブになると明言しています。普天間基地の殆どの海兵隊員がグアムに移転することが決まっている以上、今議論の的になっている「普天間代替施設」がそのとき担う機能は、実はそれほど大きなものではないと考えるのが妥当です。

米国にとって5月末決着に必要な要素は、新年度予算に計上するグアム移転費用の裏付けです。鳩山総理には日本国民の代表として、沖縄県民・日本国民と心を一つにして、米国に「グアム移設先行案」を示し、堂々と交渉してもらいたいと思います。

あわせて、在日米軍基地問題を国民全体で考えていくためにも、徹底した情報公開を政府には求めます。普天間の航空戦闘部隊の殆どがグアムに移転してしまったら、普天間代替施設には何が残るのか?国民全体がこの問題を受け止め考えていくためには、2014年までにグアムに移転する部隊・装備等を明確にして、残る部隊・人数・装備・常駐か一時滞在か・MV22オスプレイは配備されるのか、配備されるのならどのように運用されるのかなどの基本情報を、日米両国政府は公開しなければなりません。そうでなければ、議論を始めることさえできないのです。
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