電気用品安全法(PSE法)と松下電器 3月26日

電気用品安全法(PSE法)に関する3月24日(金)の経産省の対応は、考えれば考えるほど、法治国家としての日本に対する冒涜としか思えないものだ。国会は、法治国家の根底を覆すような経産省の横暴を、このまま看過してはならない。経産省は、法律をねじ曲げてわけのわからない解釈をしようとしているが、法律の解釈を是か非か判断するのは、経産省ではなく司法だ。明らかな脱法行為を経産省自らが中古品販売業者や消費者に押し付ける3月24日の経産省解釈の矛盾を、国会は追及し、最終的にはねじ曲げた解釈をしなくても良いように法改正する必要がある。

PSE法に関する経産省の一連の対応は、不可解な点が多い。やっと今年1月、経産省は内閣法制局と相談して、中古品もPSE法に含まれるとの判断を下し、同月20日その旨を正式に発表した。それまで経産省は、PSE法では中古品をまったく想定していなかったのだ。何故、この時期、経産省がこのような判断を下したのかというと、昨年大騒ぎになった、松下電器産業(ナショナル)の石油温風暖房機による死亡事故問題が関係しているのではないか。

TVコマーシャルで回収を呼びかけ、日本国中の全世帯にハガキを出す異常さからも、この問題が非常に深刻であることがうかがえる。が、昨年来回収を呼びかける松下の対応は、実は遅きに失しているのだ。1985年製~1992年製の石油温風暖房機が対象機種だと松下側は発表しているが、一連の機種は、1980年の時点で欠陥が発生していることが判明している。当時、青森県八戸市にあったマンデーという量販店は、当該機種を381台仕入れ、200台以上を販売したところ、次々に苦情が寄せられた。温まらないとか、点火しないなどの他、なんと出火したケースもあったようだ。

マンデーは、顧客から寄せられた返品商品の引取りを松下に要求したが、松下はこの申し出を拒否した。その後、マンデーと松下との間で話し合いがもたれていたが、松下から解決策が示されることもなく音信不通になってしまう。修理や返品など顧客からのクレームに対応するためにマンデーが負担した金額は1億円とも言われ、信用も失墜し、1988年マンデーは倒産する。マンデーの社長は、その後、新たな事業に転身するも行き詰まり、2003年7月、ガソリンをかぶり焼身自殺を遂げる。

欠陥商品の引き取りを要求するマンデーの申し出を拒否した松下は、中間卸業者のマンデーの直接の仕入先である「八戸液化ガス」を丸め込み、当該機種が欠陥商品であることを隠蔽するために、八戸液化ガスが1,500万円で全品買い取る旨を、八戸液化ガスからマンデーに対して提示させている。マンデー社長はそれには応じなかったが、八戸液化ガスは合意文書を勝手に偽造し、予定通りことが運んだように見せかけ、なんと八戸液化ガスが1,500万円を着服してしまったのだ。この偽造は直ちに発覚するが、マンデーに対して松下は開き直り、八戸液化ガスが作成した「偽造契約書」をたてに、マンデーからの引き取りに応じず、結果的にマンデーを倒産に追い込んでしまった。

この松下のスキャンダルは、当時の警察幹部によってもみ消されてしまい、以降昨年末までの数年間、欠陥商品である当該機種への松下の不作為は続く。昨年、一酸化炭素中毒による死亡事故が連続して発生し、やっと事の重大さに松下も気付き、経産省に泣きつき、11月29日、「消費生活用品安全法第82条による緊急命令」を発動させ、当該機種の本格回収に乗り出したのだ。

昨年9月に経産省消費経済部長に就任した消費者寄りのポーズをとる谷みどり氏は、松下の事例を引き合いに出し、「電気用品の安全確保のためには中古品もPSE法に入れる必要がある」と連発した。しかし、松下事件の真相を正確に理解すれば、温風暖房機事故と中古電気用品の安全とは、なんら関係のないことがわかる。温風暖房機はそもそもが欠陥商品、新品の段階での事故なのだ。松下がすがった「消費生活用品安全法」は、電気製品に限らず、あらゆる生活用品を対象とする法律だ。本来なら、1980年欠陥発覚以降昨年11月まで欠陥商品である事実を隠蔽し販売を継続してきた松下の行動は、本法の趣旨に反し、当然罰せられてしかるべきなのだ。

経産省が1月20日、PSE法に中古電気用品も含まれるとの見解を発表した背景には、本来まったく関係ない事例ではあるが、松下石油温風暖房機事故が大きな影響を与えたことは間違いない。にもかかわらず、先週末、経産省は、法律の解釈をねじ曲げて、中古電気用品を事実上数ヶ月間PSE法の適用除外にする見解を発表した。中古電気用品に対する適用が延長されることは、中古販売業者にとっては朗報だが、一連の経産省の対応に、全く一貫性のない点が大きな問題だ。「電気用品の安全」を本当に主眼に置いているのか否か、さっぱりわからない経産省の対応ではないか。法改正の実現のために、今後も国会でしっかりと追及して、経産省の対応にきっちりと白黒つけていく必要がある。
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