事業仕分け:漢方薬を保険適用外と評価

内閣府行政刷新会議が行っている事業仕分けにおいて、医療用医薬品の中の、漢方薬等の市販品類似薬に対して、「保険適用外とする方向性」という評価が下されました。つまり、医療機関で処方される漢方薬に、保険がきかなくなるということです。当然、患者負担は大幅に増え、医師は次第に、漢方薬の処方を敬遠するようになるでしょう。

これまで、葛根湯や婦人科薬など比較的使いやすい一部の漢方薬は、広く処方されてきましたが、薬学部と違って医学部では、他の分野と同等に漢方の講義が行われるようになったのは、ほんの数年前の2002年以降です。それまでは、医学部では漢方の講義は全くと言っていいほど行われておらず、個人的に漢方に興味を持った医師だけが研究をし、診療に役立ててきました。

それが今やっと、西洋医学と同等に漢方を学んだ医師が輩出されるようになり、街かど薬局の薬剤師だけでは成し得なかった、西洋医学一辺倒だった偏狭な日本の医療の再編は、黎明期を迎えようとしているのです。今回の事業仕分けが、そのことに水をさしはしないかと、私は危惧しています。

従って、医療機関から漢方薬を排除しかねない今回の事業仕分けは、単純に医療費抑制の目的にとどまらない、医療再編という改革そのものに影響を及ぼす重大な判断になるということを覚悟しなければなりません。

私はそもそも、セルフメディケーション(健康の自己管理)なくして日本の医療改革はあり得ないと考えています。健康を医師に丸投げするのではなく、国民一人ひとりが、自分の健康には自分で責任を持つという強い意識を持つことが、結果的には医療費の抑制につながると思います。そのためには、それを支える地域の環境、すなわち街かど薬局の信頼度を高めていくことや開業保健師制度の創設など、所謂コメディカルの人々の職能発揮が欠かせないと思っています。

特に未病の段階で体調を整える漢方薬や生薬、植物に由来する精油を用いて心身の健康や美容の増進をはかるアロマセラピーなどのオリエンタル・ハーブは、薬剤師などの専門家が街かど薬局などを拠点に、地域住民に提供すべき、位置づけの高い重要なサービスだと思います。

その意味において、本来漢方薬は、街かど薬局を中心に展開されるべき医薬品です。麻黄湯でも述べたように、漢方薬といえども使い方を間違えると副作用が起こります。体質や既往歴のほか、複数の漢方薬の併用による特定の成分の摂取過多など、一般の方々ではわからない注意点が意外に多い漢方薬を、薬剤師でない登録販売者が販売できるという現行の制度は、非常に危険です。速やかに漢方薬を第一種医薬品に分類し、薬剤師によるカウンセリングを義務付け、その上で、広くセルフメディケーションに役立てていくという展開こそが、国民利益に資するベストの方策だと思います。その場合は、勿論、満量処方です。

セルフメディケーションの拠点として、地域住民が気軽にかつ信頼感を持って薬局を利用できるように、薬剤師には尚一層の研鑽努力が求められます。人々が求める薬剤師像とは、まさにセルフメディケーションにおける、「気軽に何でも相談できる身近な専門家」なのではないかと、私は思っています。

今回の評価に私は反対ですが、もし、事業仕分けによって漢方薬が保険適用外になってしまうなら、漢方薬を人々の健康に役立てるための中心人物は、街かど薬局の薬剤師をおいて他にないと言っても過言ではなくなります。薬剤師という職業に国民は何を求めているのか、漢方薬を保険適用外にするという事業仕分けは、そのことを薬剤師に再確認させる機会と捉える必要があると、私は思います。

病巣しかみない・検査数値でしか判断しないという西洋医学の最大の欠点を、漢方は補って余りあります。頭の先からつま先まで、においも含めて生活環境に至るまで、漢方は“その人”全体を見つめ体調を整えていきます。漢方は、まさに患者さんに寄り添った、セルフメディケーションにふさわしい医療だと、私は思っています。

事業仕分け:漢方薬を保険適用外の不見識。花輪先生コメント。(はたともこブログ) 

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