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From "The Map of Mortalitie"

「人の生きる道」より

最初のアダムによってみな死ぬように、
わたしにおいてみな生きる。
わたしは死を呑みこんで勝利する。
そして永遠の生を与える。
[イエスの絵のキャプション]

---
土よ、傲慢なわたしたち人間もいずれおまえのようになるだろう。
死の攻撃に耐えられる者はいない。
塵は塵に帰る。おまえからつくられたわたしたちも塵に帰る。
この世の栄華はみなむなしく、いずれ無に消える。
砂に撒かれた水のように、人も消えていく。
一瞬の稲妻のように人は生き、そしていなくなる。
. . . . . . . . . . . .
死は予想外のときに訪れる。そして誰をも逃さない。
生とは、いわば死からの借金。みな返さなくてはならない。

* * *
From "The Map of Mortalitie" (1604)

As by first Adam all doe die
So in me all are made alive.
Deaths swallowed up in victory,
And I aeternall life do give.

---
Proude earth behould, as thou art we shall bee.
Against the graue, can no defence be made.
Dust will to dust, as thou are once were wee:
Worldes vain glorie doth thus to nothing fade.
Man doth consume as water spilt on sande.
Like lightnings flash, his life is seene and gone:
. . . . . . . . . . . .
Death strikes vnwares, and striking spareth none.
Life is a debt to death, all men must die. . . .

http://ebba.english.ucsb.edu/ballad/32406/image
http://ebba.english.ucsb.edu/ballad/32406/xml

* * *
メメント・モリ。死を忘れるな。

* * *
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Corbett, "The Distracted Puritan"

リチャード・コーベット
「頭のおかしいピューリタン」

フェスト閣下、わたしは狂ってるんでしょうか?
熱く信じ、神についてもよく知ってますので、
教皇と論争しても
勝てそうな気がします。
エマニュエル・カレッジのいちばんのエリートにも負けません。
みなの者、よく聞きなさい。十字架などいりません。牧師の白衣もいりません。
司教の冠もマントもいりません。
一日九回わたしの祈りを聞きにきなさい。
編みものだけをしてなさい。

聖なるエマニュエルの家で
わたしは教えを受けました。
友だちは、わたしの目はくらんでるといってました。
啓示を見てしまったから、と。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

友だちは、狂ってるといってわたしを縛り、
鞭で打ちました。
神を信じてこれに耐えつつ、
わたしは確信しました、
わたしはフォックスの描いた殉教者なのだ、と。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

わたしは耐えています、
そんな反キリストの輩の迫害に。
こんな鎖などはずしなさい。
ローマだって、スペインだって、
むしろわたしが征服してやります。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

獣の十本の角のうち--われらに神の祝福あれ!ーー
わたしはすでに三本打ち倒しました。
このままいけば、すべて打ち倒せるでしょう。
みんなは、わたしが過激すぎるといってます。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

七つの丘の町を襲ったとき、
わたしは大きな赤い龍に会いました。
その龍はわたしに手出しできませんでした。
わたしが無敵の鎧を着ていたからです。
今ではボロ服すら着てませんが。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

炎の剣と盾をもって
わたしは龍と戦いました。
が、傲慢の子たちは
わたしの熱い信仰をあざけります。
わたしの偉業をちゃんと聞いてくれません。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

わたしはバビロンの娼婦を馬から引きずりおろしました。
神の息吹きの槍で攻めました。
この女の汚らわしさを知らしめ、
吐き気のする酒の入った
杯をひっくり返しました。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

幻のなか、わたしは二人の油をそそがれた者を見ました。
二人のあいだに巻物が飛んでいました。
わたしは絶望しました、
この一年に五回ほど。
でも、グリーナム師の本を読んで立ち直りました。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

パーキンズの図を見て、
わたしは地獄落ちの系譜を理解しました。
そのゆがんだ血筋が
頭に焼きついて離れませんでした。
わたしは神に棄てられているのではないかと思いました。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

聖なるカナン人の言葉を読むと
このうえなく楽しく感じました。
だから足に刺青を彫りました。
ヘブライ語を入れました。
むちゃくちゃ血が出ました。
みなの者、よく聞きなさい……(以下略)

大主教ロードと
高等宗教裁判所のところへ行きましたが、
わたしは彼を祝福せず、
こういってやりました、
「このカトリック野郎め!」
みなの者、よく聞きなさい。十字架などいりません。牧師の白衣もいりません。
司教の冠もマントもいりません。
一日九回わたしの祈りを聞きにきなさい。
編みものだけをしてなさい。

* * *
Richard Corbett
"The Distracted Puritan"

Am I mad, O noble Festus,
When zeal and godly knowledge
Have put me in hope
To deal with the pope,
As well as the best in the college?
Boldly I preach, hate a cross, hate a surplice,
Mitres, copes, and rochets;
Come hear me pray nine times a day,
And fill your heads with crochets.

In the house of pure Emanuel
I had my education,
Where my friends surmise I dazel'd my eyes
With the sight of revelation.
Boldly I preach, &c.

They bound me like a bedlam,
They lash'd my four poor quarters;
Whilst this I endure,
Faith makes me sure
To be one of Foxes martyrs.
Boldly I preach, &c.

These injuries I suffer
Through antichrist's perswasion
Take off this chain,
Neither Rome nor Spain
Can resist my strong invasion.
Boldly I preach, &c.

Of the beast's ten horns (God bless us!)
I have knock'd off three already;
If they let me alone I'll leave him none:
But they say I am too heady.
Boldly I preach, &c.

When I sack'd the seven-hill'd city,
I met the great red dragon;
I kept him aloof
With the armour of proof,
Though here I have never a rag on.
Boldly I preach, &c.

With a fiery sword and target,
There fought I with this monster:
But the sons of pride
My zeal deride,
And all my deeds misconster.
Boldly I preach, &c.

I un-hors'd the Whore of Babel,
With the lance of Inspiration;
I made her stink,
And spill the drink
In her cup of abomination.
Boldly I preach, &c.

I have seen two in a vision
With a flying book between them.
I have been in despair
Five times in a year,
And been cur'd by reading Greenham.
Boldly I preach, &c.

I observ'd in Perkin's tables
The black line of damnation;
Those crooked veins
So stuck in my brains,
That I fear'd my reprobation.
Boldly I preach, &c.

In the holy tongue of Canaan
I plac'd my chiefest pleasure:
Till I prick'd my foot
With an Hebrew root,
That I bled beyond all measure.
Boldly I preach, &c.

I appear'd before the archbishop,
And all the high commission;
I gave him no grace,
But told him to his face,
That he favour'd superstition.
Boldly I preach, hate a cross, hate a surplice,
Mitres, copes, and rochets:
Come hear me pray nine times a day,
And fill your heads with crotchets.

http://www.exclassics.com/percy/perc117.htm

* * *
フェスト閣下
使徒行伝(使徒言行録)26:25-26参照。

エマニュエル・カレッジ
ケンブリッジ大学のなかでもっともピューリタン的だった
カレッジ。

フォックス
John Fox--The Book of Martyrs『殉教者の書』の著者。

獣の十本の角
ヨハネの黙示録13:1参照。一部のピューリタン(終末論者)は
獣=ローマ教皇、角=カトリック諸国、などと考えたりした。
その後、内乱・共和国期には獣=チャールズ1世、後にクロムウェル、
角=諸王国、などと解釈が移行していった。

赤い龍
ヨハネの黙示録12:3参照。獣と同様、悪の権化的なもの。

バビロンの娼婦
ヨハネの黙示録17:1-5参照。カトリック教会のこと。

パーキンズの図:
http://brbl-dl.library.yale.edu/vufind/Record/3544432
William Perkins--ケンブリッジ大学クライスト・カレッジの
フェロー。16世紀末のイギリスでもっとも高く評価されていた
神学者(ピューリタン)。

* * *
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Vaughan, "The Retreat"

ヘンリー・ヴォーン
「退却」

幸せだった、昔の日々は。ぼくは
こどもで天使のように輝いていた。
まだこの世における
第二の生に慣れていなかった。
ぼくの魂は、神についての白い思いしか
胸に抱いていなかった。
ぼくはまだ、最初に愛したあの方から
一、二マイルほどしか離れていなかった。
だからふり返れば、すぐ後ろに
神の光り輝く顔を見ることができた。
金色の雲、金色の花を
ずっと見つめていられたし、
そんなちょっとした輝きに
永遠の世界の影を見ることができた。
ぼくの口から罪深い言葉が出て
良心が傷くことはなかったし、
黒い魔術によって五感すべてが
それぞれ罪を犯すこともなかった。
この肉体という服のなか感じていた、
永遠の神の世界からの矢に貫かれるのを。

ああ、戻りたい!
昔の道を歩きたい!
あの地に行きたい、
光り輝く方々と別れたあの地に。
そこに行けば魂の目が開き、
棕櫚(しゅろ)の陰ある町エリコが見えるはず。
でも、あああ! ぼくの魂はひどい拘束に
酔っていて、もうふらふらだ!
前に前に、と行きたがる者もいるが、
ぼくは後ろに進みたい。
そして、このからだの塵が壺に納められるとき、
かつていた気高いところに帰りたい。

* * *
Henry Vaughan
"The Retreat"

Happy those early days, when I
Shin'd in my angel-infancy!
Before I understood this place
Appointed for my second race,
Or taught my soul to fancy ought
But a white, celestial thought;
When yet I had not walk'd above
A mile or two from my first love,
And looking back―at that short space―
Could see a glimpse of His bright face;
When on some gilded cloud, or flow'r,
My gazing soul would dwell an hour,
And in those weaker glories spy
Some shadows of eternity ;
Before I taught my tongue to wound
My conscience with a sinful sound,
Or had the black art to dispense
A sev'ral sin to ev'ry sense,
But felt through all this fleshly dress
Bright shoots of everlastingness.

O how I long to travel back,
And tread again that ancient track !
That I might once more reach that plain,
Where first I left my glorious train;
From whence th' enlighten'd spirit sees
That shady City of palm-trees.
But ah! my soul with too much stay
Is drunk, and staggers in the way!
Some men a forward motion love,
But I by backward steps would move ;
And when this dust falls to the urn,
In that state I came, return.

http://www.luminarium.org/sevenlit/vaughan/retreat.htm

* * *
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Thomas, "Lights Out"

エドワード・トマス
「消灯」

眠りに入る境界にいる。
底なしの海、
誰もが迷子になる
森。道がまっすぐでも、
曲がりくねっていても、同じこと。
みな道を失う。

道や小道はたくさんあって、
夜が明けた最初の瞬間から
森の入口のところまで、
旅人をあざむき、導いてきた。
その道が、今、かすんで見えなくなる。
そして旅人は森に落ちる。

愛はここで終わる。
絶望も野望も終わる。
すべての楽しみも苦労も、
どれだけ甘かろうとつらかろうと、
ここで終わる。どんな気高い任務よりも
気持ちいい眠りのなかで。

本、
やさしい目の顔、
そのすべてに背を向けて
ぼくは知らない世界に行く。
行かなくては。ひとりで。
どうやって?

森が高くそびえる。
雲のように木々の葉が垂れさがる。
目の前に、棚のように重なって。
この森の音のない音を聞き、その命に従う。
道を失いつつ。
ぼく自身を失いつつ。

* * *
Edward Thomas
"Lights Out"

I have come to the borders of sleep,
The unfathomable deep
Forest where all must lose
Their way, however straight,
Or winding, soon or late;
They cannot choose.

Many a road and track
That, since the dawn's first crack,
Up to the forest brink,
Deceived the travellers
Suddenly now blurs,
And in they sink.

Here love ends,
Despair, ambition ends,
All pleasure and all trouble,
Although most sweet or bitter,
Here ends in sleep that is sweeter
Than tasks most noble.

There is not any book
Or face of dearest look
That I would not turn from now
To go into the unknown
I must enter and leave alone
I know not how.

The tall forest towers;
Its cloudy foliage lowers
Ahead, shelf above shelf;
Its silence I hear and obey
That I may lose my way
And myself.

http://www.gutenberg.org/ebooks/22423

* * *
第一次大戦の歌。

* * *
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Owen, "Greater Love”

ウィルフレッド・オーウェン
「より大きな愛」

女性の赤いくちびるも、
死んだイングランド兵のキスに染まった石ほど赤くない。
求めあう者たちの愛も、
兵士たちの汚れのない愛に比べればつまらないもの。
愛しい君、君の目に惹かれることもなくなる、
ぼくのかわりに視力を失った目を見てしまったら。

君の細いからだは、
ナイフが斜めに刺さったからだほど小刻みにふるえない。
そんなからだがいくつもそこらで転げまわっていて、
神もまるでおかまいなし。
やがてこの者たちは、胸に抱く激しい愛によって
しびれてよじれて小さくなって、力を失い死んでいく。

君の歌より、
屋根裏のすきま風のつぶやきのほうがやさしい。
君の声より、
誰も聞いていない兵士の声のほうが
愛しく、やさしく、夕暮れの空のように澄んでいる。
咳をしていた哀れな彼らの口を、もう土がふさいでしまったから。

心が熱く燃える、大きい、胸いっぱい、
などということもない。撃たれて破裂する瞬間の心臓に比べれば。
君の手は白いけど、
炎と弾丸の嵐のなか、
君の十字架を背負って歩く者の手のほうが青白い。
だから泣いて。君は泣けばいい。彼らにはふれられないのだから。

* * *
Wilfred Owen
"Greater Love"

Red lips are not so red
As the stained stones kissed by the English dead.
Kindness of wooed and wooer
Seems shame to their love pure.
O Love, your eyes lose lure
When I behold eyes blinded in my stead!

Your slender attitude
Trembles not exquisite like limbs knife-skewed,
Rolling and rolling there
Where God seems not to care;
Till the fierce love they bear
Cramps them in death’s extreme decrepitude.

Your voice sings not so soft,―
Though even as wind murmuring through raftered loft,―
Your dear voice is not dear,
Gentle, and evening clear,
As theirs whom none now hear,
Now earth has stopped their piteous mouths that coughed.

Heart, you were never hot
Nor large, nor full like hearts made great with shot;
And though your hand be pale,
Paler are all which trail
Your cross through flame and hail:
Weep, you may weep, for you may touch them not.

http://www.poets.org/poetsorg/poem/greater-love

* * *
第一次大戦の歌。タイトルはヨハネ15:13より。

人がその友のために自分の命を捨てること、
これよりも大きな愛はない。
Greater love hath no man than this,
that a man lay down his life for his friends.

イエスは、人類の罪を贖うため、みずからの意志で死んだ。
兵士は、国のために、みずからの意に反して、死ぬ。

つまり、国のために不本意なことをする兵士たちの「愛」(?)
のほうが大きい、という奇想。

* * *
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蔡國強展 (横浜 2015)

蔡國強展
20150918




現代芸術とはいいながら、題材は四季の植物、人間、動物、
ときわめてふつうで好印象。

色や線の少ない、東アジア的(?)でひかえめな内容と、
各作品の大きさ、およびそれらを大勢の人と共同してつくる
という方法のあいだの不思議な対照。そして、そのどちらに
よっても惹きつけられる、という不思議な感覚。

団体競技やオーケストラ的な共同作業のもたらすものに
近い感動。それを指揮できる人の指導力・カリスマ性の
ようなものに対する敬意。

* * *
ポスターにある『壁撞き(かべつき)』についても、
いちばん強く感じるのは、その作品のなかの共同性。

http://tinyurl.com/njkmvbb
http://yokohama.art.museum/exhibition/index/20150711-449.html

一匹一匹の狼がそれぞれ違う体勢、違う表情をしている。
つまりそれぞれに個性が与えられている。そんな狼たちが
見えない壁の向こう側に行く、それを壊す、こえる、という
ひとつの目的に(おそらくそれぞれ異なる動機をもちつつ)
向かい、そして失敗している。

そんな狼たちの姿は、あらゆる団体競技・共同作業・集団行動の
アレゴリー。

あらゆる社会の、あらゆる挫折の、アレゴリー。

「ベルリンの壁」云々という解説があるが、きっかけ・
目的と結果はあくまで別のもの。動物アレゴリーという
普遍性をもちうる形式をわざわざ選択している作品から、
その普遍性を奪ってはいけない。

* * *
とにかくすべての作品が圧倒的。出典数は少ないが、
それをおぎなって余りある各作品の迫力と説得力。
素材や制作方法に関するアイディアの新しさと身近さ。

新しさというのは、火薬という派手なパフォーマンス
ではなく、むしろ職人に磁器を山のようにつくらせるとか、
制作にこどもや学生を使うとか、そのようなこと。

だからこそ、20世紀以降のいわゆるモダン・アートから
不要な抽象性をとりのぞいたかのようなシンプルな印象を、
作品から受けるのだろう。

いずれにせよ、すべてが必見。

映像というサービスもあり、90分ではまったく時間が
足りなかった。


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Rossetti, DG, "Death-in-Love", The House of Life (1870) 23

ダンテ・ゲイブルエル・ロセッティ
「〈愛〉と〈死〉」
『命の宮』(1870) 23

〈命〉の従者のなかに
〈愛〉の翼と旗をもつ者がいた。
きれいな旗で、そこに美しく織られていたのは
魂を没収された色の顔。……そう! 君の顔だった!
春に思い出す不思議な音、不安な音が
そのひだから震えて聞こえた。自分でもわからない何かが
ぼくの心をかけめぐった。記憶から消えたあの記憶が--
人の生まれる暗い門がうめき、すべてが変わってしまった
あの時の記憶が。

ヴェールにつつまれた女がその後ろを歩いていた。この女は
前行く者の旗を巻きあげてかたく留め、そして
彼の翼から羽を一枚抜いて
彼のくちびるに近づけた。羽はまったく動かなかった。
女はぼくにいった。「ほら、息をしていないわ。
あたしとこの〈愛〉はふたりでひとり……あたしは〈死〉なの」。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"Death-in-Love"
The House of Life (1870) 23

There came an image in Life's retinue
That had Love's wings and bore his gonfalon:
Fair was the web, and nobly wrought thereon,
O soul-sequestered face, thy form and hue!
Bewildering sounds, such as Spring wakens to,
Shook in its folds; and through my heart its power
Sped trackless as the immemorable hour
When birth's dark portal groaned and all was new.

But a veiled woman followed, and she caught
The banner round its staff, to furl and cling,―
Then plucked a feather from the bearer's wing,
And held it to his lips that stirred it not,
And said to me, ‘Behold, there is no breath:
I and this Love are one, and I am Death.’

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

* * *
流産の歌……。

やはり絵ではなく詩において、
ロセッティの表現力は生きている--
彼の見ていた世界が見える気がする。

* * *
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Rossetti, DG, "Nuptial Sleep", The House of Life (1870) 5

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「初夜の眠り」
『命の宮』(1870) 5

長いキスを終え、ふたりは離れた。甘い痛みを感じつつ。
嵐が去って空が澄みわたるなか、屋根の水はゆっくり
雫(しずく)になって、そして急に落ちる--そのように、
離れ離れになったふたりの心臓の鼓動は静まり、遅くなっていった。
ふたりの胸も離れた。結婚していっしょに
咲いていた花が、ひとつの茎から引き裂かれて
バラバラになるかのような思いだった。まだ赤く燃えていた
ふたりの唇は、離れても、まだキスをつづけていた。

眠りがふたりを夢の波よりも深いところに沈めた。
夢が見守るなか、ふたりは沈み、流れて消えた。
やがて、ゆっくりふたりの魂は泳いで浮かびあがってくる。
水のなかの光、力なく溺れた旗のような、淡い日の光のなかを。
新しい森、新しい川を見たかのような不思議な気分で
彼は目覚めた。そしてもっと不思議な気がした。隣に彼女が寝ていたから。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"Nuptial Sleep"
The House of Life (1870) 5

At length their long kiss severed, with sweet smart:
And as the last slow sudden drops are shed
From sparkling eaves when all the storm has fled,
So singly flagged the pulses of each heart.
Their bosoms sundered, with the opening start
Of married flowers to either side outspread
From the knit stem; yet still their mouths, burnt red,
Fawned on each other where they lay apart.

Sleep sank them lower than the tide of dreams,
And their dreams watched them sink, and slid away.
Slowly their souls swam up again, through gleams
Of watered light and dull drowned waifs of day;
Till from some wonder of new woods and streams
He woke, and wondered more: for there she lay.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html#p193

* * *
詩集「命の宮」のなかで、もっとも幸せな場面を描いている作品。
ポイントは、脈、離れるからだ、眠り、それぞれのたとえかたと、
結ばれたあとの新しい、不思議な感覚の表現。

同時に、「肉欲派」との批判を招くなど、ロセッティにダメージを
与えた作品。

ロセッティ曰く、「夫婦のあいだであれば性的描写も問題ない」。

批判者曰く、「夫婦であっても、わざわざ道の真ん中にベッドを
もっていかなくていい」= 合法的な関係であれ、性的なことを
描いて人に読ませる必要はない。

思うに、不正確なものや有害と思われるものが多少なり
広まっているなか、およそ正確で穏便な描写も若干は必要なはず。
性的なことについて、良識的な人はふつう口を開かないもの
ではあるが。(社会・政治に関する、特にウェブ上の諸議論と
同じ構造。)

* * *
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Jonson, "On My First Daughter"

ベン・ジョンソン
「長女に」

ここに眠っているのは、
メアリー、若い頃に授かった子。悲しみつつ、
天からの贈りものを天に返しただけ、
などと思ってみる。
六か月生きて、この子は逝ってしまった。
まったく汚れをしらぬまま。だから、
天を治める、同じ名をしたあの方が
この子をまわりにおいてくださっているはず--
そう思って妻は涙をこらえている。
魂は天に昇り、
そして肉体はこの墓に。
やさしくつつんでやってくれ、頼む、土よ。

* * *
Ben Jonson
"On My First Daughter"

Here lies, to each her parents' ruth,
Mary, the daughter of their youth;
Yet all heaven's gifts being heaven's due,
It makes the father less to rue.
At six months' end, she parted hence
With safety of her innocence;
Whose soul heaven's queen, whose name she bears,
In comfort of her mother's tears,
Hath placed amongst her virgin-train:
Where, while that severed doth remain,
This grave partakes the fleshly birth;
Which cover lightly, gentle earth!

http://www.luminarium.org/sevenlit/jonson/daughter.htm

* * *
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ロンドン 2015

ロンドン 2015
20150903-9



オブジェ(ヒースロー)



ヴィクトリア女王



階段ホール(テート・ブリテン)



階段ホール(テート・ブリテン)



『希望』、つまり絶望のアレゴリー(テート・ブリテン)










以上三点、ヴィクトリアとアルバートの博物館の
イスラム・エリアより。例のなんとか国の問題など
なければいい。



銀細工(V+A)



ステンド・グラス(V+A)



窓際の天使(V+A)






以上二点、元祖蒸気機関(科学博物館)






以上二点、こどもの絵(ナショナル・ギャラリー)

ナショナル・ギャラリーでは館員がストライキをしていて
大半の部屋が封鎖されていた。12日現在でも継続中。
さすがイギリス。



夜明けのケンジントン・ガーデンズ



夜明けのハイド・パーク



彫刻(大英博物館)



石の標本(大英博物館)



かぎりなく透明に近い日本磁器(大英博物館)
見た目全然透明ではなかった。

今回の出張では二回BMに訪問。その最初のときにスリにあった。
近年のロンドンにはプロが集まってきているとのこと。
以下、教訓:

1
カードの暗証番号の入力時には細心の注意を。
誰がどこから見ているかわからない。

2
「写真をとって」と寄ってくる人には警戒すること。
特に、不快な感じで押しつけてくる人は怪しいと思うこと。
博物館などで人気(ひとけ)のない展示室にいるとき、
また人込みのなかで、など。

3
クロークを使う。手荷物が多いとなにかと気が散る。

以上、自戒のため。また、誰かの参考になれば。


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松本

松本
20150824-28



松本城



松本城の壁と柱



草間彌生 1



草間彌生 2

草間彌生さんの作品は、ひとつひとつを見ると異様の感が
否めないものが多いが、今回はじめて一度に多くのものを見て、
それらがもつ圧倒的な迫力・説得力がわかった気がする。
筋が通っていて、ある種信念のようなものが感じられてくる、
という。

また、シャンデリアの光る鏡の部屋や、さまざまな色に光る玉が
ぶらさがった暗い部屋のようなものなど、単体でも神秘的で
きれいなものもあった。(正式なタイトルは知らない。)



松本市美術館



碌山美術館 1



碌山美術館 2



碌山美術館 3

碌山美術館はとてもきれいな場所だった。
ひとりではなく、誰かと行きたいような。


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覚書--日本と他の国--

覚書
--日本と他の国--

もちろん一般化はできないが、以下のようなことを
今回のロンドン出張中にふと考えた。

日本と他の国との違いは、人と人の対話のありかたの違い、
人間関係のつくりかたの違いでは。

日本以外の人々は、自分がいいたいことをいって関係をつくる。
日本人は相手に話させることによって関係をつくる。

だからヨーロッパには雄弁術のようなものがあった。ある。
だから日本では、出すぎる杭は打たれる。評価されない。

(あと六行、後半が書けたらソネット……。)


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夏目漱石、『抗夫』

夏目漱石、『抗夫』

問題作・「実験的習作」・「中途半端」な小説、とのこと
だが(岩波文庫版「解説」)、イギリス文学との関連で
読めば、めざすところはそれなりに明確に理解できるように
思われる。

枠組みは、『トリストラム・シャンディ』的な自意識的な語り(?)

内容は、ポウプの『批評論』・『人間論』・『道徳論』の
近代版、日本版、そして(疑似)労働者版とでもいうべきもの。
明確な物語の筋ではなく、主人公(「自分」)の観察や所見が中心。

知性とやさしさ・あたたかさを兼ね備えつつも、
「已むを得ない事情から、已むを得ない罪を犯し」て
抗夫となっている安さんは、近代・日本・労働者版の
バイロニック・ヒーロー。

その他、探ればいろいろな素材・題材が散りばめられて
いるはず。

「堕落の修行」、「堕落の稽古」、「一人前に堕落」
などというのは、イギリスのスノビズムの真逆の発想。
(ピカレスクものなどに起源がある? )

ロンドン帰りだから特に感じるのだろうが、
86にある金銭と恥についての議論など、
まさに日本的。

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
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From Blake, Marriage of Heaven and Hell

ウィリアム・ブレイク
『天国と地獄の結婚』より

対立がなければ進歩はない。惹かれることと抵抗すること、
理性と力、愛と憎しみ、これらは人間の存在において必然である。

敬虔な者たちが〈善〉・〈悪〉と呼ぶものもこれらの対立から
生まれる。〈善〉は理性に従う受動的なもの、〈悪〉は力から
生まれる主体的なものである。

〈善〉は天国である。〈悪〉は地獄である。

--悪魔の声--
聖書や神の掟なるものが、以下のような誤った理解をもたらしてきた。

1.
人間の存在には二つの相がある。〈肉体〉と〈魂〉である。

2.
〈悪〉と呼ばれる〈力〉は〈肉体〉のみから生まれる。〈善〉と
呼ばれる〈理性〉は〈魂〉のみから生まれる。

3.
〈神〉は、〈力〉のおもむくがままに生きる人間を地獄に落とし、
永遠に終わらない拷問にかけて苦しめる。

むしろ正しいのは、これらと正反対の以下のことがらである。

1.
人間の〈肉体)は〈魂〉から切り離すことができない。〈肉体〉と
呼ばれるものは〈魂〉のうち五感をもつ部分、いわば外部の刺激の
入口のことである。〈肉体〉がなければもはや〈魂〉はおよそ何も
感じることができない。

2.
〈力〉こそ命であり、この力は〈肉体〉がもたらす。〈理性〉とは
〈力〉の境界線、輪郭のようなものである。

3. 〈力〉は〈永遠のよろこび〉である。

欲望を抑える者は、欲望が弱いからそうできるのである。こうして
欲望を抑える理性が欲望から支配権を奪い、欲望は嫌々ながらも
理性に従うことになる。

抑えられた欲望はしだいに受け身になっていき、いずれ影のみの存在と
なっていく。

* * *
William Blake
From The Marriage of Heaven and Hell

Without contraries is no progression. Attraction and repulsion,
reason and energy, love and hate, are necessary to human
existence.

From these contraries spring what the religious call Good and Evil.
Good is the passive that obeys reason; Evil is the active springing
from Energy.

Good is heaven. Evil is hell.

THE VOICE OF THE DEVIL
All Bibles or sacred codes have been the cause of the following
errors:―

1.
That man has two real existing principles, viz., a Body and a Soul.

2.
That Energy, called Evil, is alone from the Body; and that Reason,
called Good, is alone from the Soul.

3.
That God will torment man in Eternity for following his Energies.

But the following contraries to these are true:―

1.
Man has no Body distinct from his Soul. For that called Body is a
portion of Soul discerned by the five senses, the chief inlets of
Soul in this age.

2.
Energy is the only life, and is from the Body; and Reason is
the bound or outward circumference of Energy.

3. Energy is Eternal Delight.

Those who restrain desire, do so because theirs is weak enough
to be restrained; and the restrainer or reason usurps its place
and governs the unwilling.

And being restrained, it by degrees becomes passive, till it is only
the shadow of desire.

http://www.gutenberg.org/ebooks/45315

* * *
散文。(詩的・歌的なリズムの箇所もかなりある。)

* * *
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Wordsworth, "Lines Written at a Small Distance from My House"

ウィリアム・ワーズワース
「ちょっと家の外から書いて送った詩」

三月になってはじめてのあたたかい日。
一秒ごとにどんどん気持ちよくなる。
胸の赤い鶸(ひわ)が落葉松(からまつ)の上で鳴いてる。
家のそばで。

空気のなかに贈りものがあって、
うれしい気分を注ぎこんでる。
裸の木に、裸の山に、
緑の草に。

ドロシー、できれば、
朝ごはんも終わったんだから、
急いで出ておいで。朝の仕事はいいよ。
出てきて日の光を感じてごらん。

エドワードもいっしょにさ、ね、
急いで、森に行くときの服を着ておいで。
本はいらない。今日は一日
のんびり過ごすんだ。

かたちばかりのルールで
くらしを縛らなくてもいい。
だから今日から
一年がはじまることにしよう。

愛が今、あちこちで生まれてる。
心から心にこっそり伝わってる。
大地から人に、人から大地に伝わってる。
今、それをちゃんと感じないと。

今の一瞬から学べることは、
五十年間頭をひねっても学べない。
からだじゅうから飲みこもう、
春そのものを。

言葉にならない掟を心のなかでつくって、
それにずっと従おう。
今日からの一年を
今日の気分で過ごそう。

神聖な力が波うって流れてる、
ぼくのまわりを、下を、上を。
それを心の音楽にしよう。
心で愛の歌を歌おう。

だからドロシー、ほら
急いで、森に行くときの服を着ておいで。
本はいらない。今日は一日
のんびり過ごすんだ。

* * *
William Wordsworth
"Lines Written at a Small Distance from My House, and Sent by my Little Boy to the Person to Whom They Are Addressed"

It is the first mild day of March:
Each minute sweeter than before,
The red-breast sings from the tall larch
That stands beside our door.

There is a blessing in the air,
Which seems a sense of joy to yield
To the bare trees, and mountains bare,
And grass in the green field.

My Sister! ('tis a wish of mine)
Now that our morning meal is done,
Make haste, your morning task resign;
Come forth and feel the sun.

Edward will come with you, and pray,
Put on with speed your woodland dress,
And bring no book, for this one day
We'll give to idleness.

No joyless forms shall regulate
Our living Calendar:
We from to-day, my friend, will date
The opening of the year.

Love, now an universal birth.
From heart to heart is stealing,
From earth to man, from man to earth,
―It is the hour of feeling.

One moment now may give us more
Than fifty years of reason;
Our minds shall drink at every pore
The spirit of the season.

Some silent laws our hearts may make,
Which they shall long obey;
We for the year to come may take
Our temper from to-day.

And from the blessed power that rolls
About, below, above;
We'll frame the measure of our souls,
They shall be tuned to love.

Then come, my sister! come, I pray,
With speed put on your woodland dress,
And bring no book; for this one day
We'll give to idleness.

http://www.gutenberg.org/ebooks/9622

* * *
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