昨10日午後、平沼新党「どっこいしょ たちあがれ日本」の旗揚げ記者会見が東京都内のホテルで開催。《売国的な法案許さぬ…平沼新党旗揚げ会見》(YOMIURI ONLINE/2010年4月10日16時45分)――
「売国的な法案」云々は超保守主義者、日本民族優越主義者の平沼赳夫「どっこいしょ たちあがれ日本」党首の発言である。
平沼赳夫「今行われている民主党政権による政治は、この国をダメにしてしまうのではないか。売国的な法案が羅列されていて、それをいま表面に出してきている。断じて、我が日本のために、野放図に許してはならない」
現在の文化対等の世界観の時代に抗って日本的なすべてを絶対優位に置く自身の政治理念・思想が世界から嘲笑を集める点で、「売国的」であることには気づいていないらしい。
記事は当然のことながら共同代表に就いた与謝野馨の発言も伝えている。
与謝野馨「民主党には政治に対する哲学や思想がない。自民党には、野党として闘う十分な気力がない。反民主として、非自民として国民のために闘っていきたい」――
「民主党には政治に対する哲学や思想がない」と言うからには、己にはどのような優れた哲学や思想があると先ず明らかにしてから、それを以て民主党には欠いている哲学や思想だと指摘すべきではないだろうか。
いわば自分にはあって、民主党にはないものだと、その哲学・思想がどのようなものかの内容と民主党にはないとする根拠を明示すべきであって、明示せずにただ単に「民主党には政治に対する哲学や思想がない」と批判するのは民主党を一方的に悪者にする一種の情報操作に当たる。
勿論、与謝野馨は対談や何らかの記事で自身の「政治に対する哲学や思想」を発信してきているだろうが、そうであっても、記者会見の場で、「民主党には政治に対する哲学や思想がない」とする情報を発信するからには、それがどのような内容の「政治に対する哲学や思想」であって、自身にはあるとする裏付けの証明を併行して行わないことには自らが発信した情報に正当性を持たせたることはできないはずだ。
そういった手続きを踏まない場合、世の中には与謝野馨が言った言葉どおりに情報の鵜呑みをやらかせて、根拠を追及もせずに、「民主党には政治に対する哲学や思想がない」のだなと頭から信じ込む人間もいるはずだ。与謝野にとっては都合のいい情報操作となるかもしれないが、実質的には誤った情報処理を強いる根拠の無提示に当たる。
そこで与謝野馨が「民主党には政治に対する哲学や思想がない」と批判するからには与謝野自身は相当に優れた「哲学や思想」の持主に違いないと思って、触れているHPなりブログなりがないかとインターネットを探してみた。与謝野馨の著作を買って読むのはカネも時間も勿体ないし、面倒臭いからでもあった。
運よくというか、「与謝野馨Official Web Site」に「記事・論文・講演」を扱っているリンクがあり、《政治と教養をめぐって 与謝野馨×福田和也》と題した対談が載っているページに出くわすことができ、早速覗いてみた。一部抜粋だが、関心のある方はリンクさせて置いたから、覗いてみて欲しい。
対談の記載雑誌は新潮社の「波」。記載日付は2008年5月号。約1年前だから、この1年間でこの件に関する哲学・思想が変わっていることは先ずはないだろうという推測を前提として取り上げてみる。自身の政治的主張・言動の立脚点としている哲学・思想がそう簡単に変わって貰っては困るからだ。
《政治と教養をめぐって 与謝野馨×福田和也》(「波」2008年5月号)
政治の目的とは
福田「今回の御著書『堂々たる政治』の中で、フランス帝政時代の政治家フーシェにふれていますね。人間性については評価の低い人物ですが、ナポレオンからブルボン朝への橋渡しを混乱なく進めたという側面においては、非常に特異な政治家でした」
与謝野「彼は死ぬまで政敵の間をうまく立ち回った人です」
福田「バルザックの『暗黒事件』にも登場しますね。神学校教師からナポレオン政権下では大臣、ブルボン朝では公爵に――と思想には一貫性がなかったが、世の中を安寧に保った立役者でした」
与謝野「フーシェは非常に『政治的』な人間とされています。それで思い出すのが、三島由紀夫さんに中曽根康弘氏と財界人の会合で講演してもらったときのことです。昭和45年、亡くなる半年前でした。その時の三島さんの話は、『自分と楯の会は、政治の原則ではなく、精神の原則で行動している』ということ。その行動が人に影響を与えるなら、たとえ無効でも立ち上がることが重要で、最後は自分が腹を切ればいいと、いわば『行為責任』について話されたのを覚えています。
福田「なるほど。三島ならではの革命哲学として純化された陽明学ですね」
与謝野「では政治の原則とは何か。それは、現実に飢えた民を救えるかどうかが重要であって、精神が純粋か不純かの問題ではない。政治において問われるのは『結果』であり、政治の究極の目的は、『世の中が治まっていること』なのです」
「フランス帝政時代の政治家フーシェ」などという知識は私にはない。だが、与謝野が言っている「政治の原則とは何か」について語った言葉はどうにか解釈できる。
精神とか手段を問わずに「現実に飢えた民を救えるかどうか」の「結果」を出すことが「政治の原則」であって、「世の中が治まっていること」が「政治の究極の目的」だと言っている。
政治は「精神が純粋か不純かの問題ではない」、「問われるのは『結果』」だと言うなら、「民主党には政治に対する哲学や思想がな」くても構わない、「現実に飢えた民を救」うという「結果」、あるいは「世の中が治まっている」という「結果」さえ出せばいいということになる。
大体が精神が不純な人間に歪んだ哲学や思想を求め得ても、まともな哲学や思想は求め得ないにも関わらず、「精神が純粋か不純かの問題」とはせずに、民主党にはまともな「政治に対する哲学や思想」を求めるのは自分の言っていることにまともに反する矛盾そのものであろう。
これは二重基準を犯すものだが、いい加減な人間ではないからに違いない。
また、「現実に飢えた民を救えるかどうかが重要であって、精神が純粋か不純かの問題ではない」なら、国民を飢えさせさえしなければ、独裁政治でもいいということになる。与謝野の言葉は「結果」をすべてとしているのみで、精神の純粋性・不純性が深く関わる政治手法を問題としていないからだ。
果して「現実に飢えた民を救えるかどうか」が「政治の原則」なのだろうか。北朝鮮みたいな独裁体制が国民の貧困、飢えを招いている国に関しては、「現実に飢えた民を救えるかどうか」に「政治の原則」を置くことはできても、曲りなりに、あるいはそれ以上に食べていける民主国家に於いて、あるいは独裁国家であっても、「現実に飢えた民」は特殊な例を除いて存在しないのだから、「現実に飢えた民を救えるかどうか」に「政治の原則」を置くことは矛盾しないだろうか。
与謝野が言う「飢え」とは食物の「飢え」ではなく、精神の「飢え」と解釈することもできる。
だが、「政治の究極の目的は、『世の中が治まっていること』なのです」と言っている言葉との関連からすると、食物の「飢え」としなければ整合性が取れない。
曲りなりに、あるいはそれ以上に食べていける欲求を満たしたなら、人間は「世の中が治まっている」だけでは済まなくなるからだ。精神的・文化的に人間らしい活発な活動を次の欲求とすることになるだろうからだ。
当然「治まっている」だけでは終わらない様々な利害・矛盾が衝突する社会となる。
日本の現在が国民の多くが飢えていた戦後と同様の時代なら、「現実に飢えた民を救えるかどうか」に「政治の原則」を置くことはできる。だが、現在の日本は戦後と同様の時代ではなく、北朝鮮のように「飢え」は国民全体の問題として横たわっているわけではない。
そうであるにも関わらず、「現実に飢えた民を救えるかどうか」に「政治の原則」を置いている。与謝野が戦後の飢えた時代の頭のまま、日本の現在の時代に臨んでいるとしたら、時代錯誤も甚だしい。
「政治の究極の目的」は単に「世の中が治まっていること」ではなく、基本的人権の保障が破綻しないよう、それを確固と守りしつつ、国民が経済的にも精神的にも人間性豊に生き、活動できる生活の保障をすることであろう。
与謝野の「現実に飢えた民を救えるかどうか」の言葉、「政治の究極の目的は、『世の中が治まっていること』なのです」の、“納まっていさえすればいい”とする趣旨の言葉は双方共に自身を高みに置いた上から目線の響きが篭っている。
いわば国民を遥か下に置いた言葉となっている。
根拠を示さずに、「民主党には政治に対する哲学や思想がない」と言っていることにも小賢しい狡猾さを感じるが、余程自分は頭のいい男と思っているらしく、自己を何様に置いているようだ。
これは過ぎた批判だろうか。
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