復興予算流用は復興予算だけのことなのか、一種の錬金術として慣用化していないか

2012-10-12 12:19:28 | Weblog

 〈「5年で19兆円」と見積もった復興費のうち、1兆円程度を被災地以外でも使う方針が決まった。財源には、全国の自治体が集める住民税の増税分などがあてられる。〉(毎日jp

 復興予算の被災地外の他事業への流用が問題となっている。尤も政府や関係省庁は復興基本方針で被災地以外の全国各地の防災対策費の計上その他を、19兆円規模の復興費のうち1兆円程度は認められていることを理由に流用ではないと正当性を訴えている。

 また、震災影響の製造業海外移転防止事業への計上も認められているという。

 多分、国内に留めることによって国内産業の空洞化阻止、経済の悪化阻止の理由をつけているに違いない。

 だが、この手のことは「復興」とは別の一般的な景気対策であるはずだ。
  
 どのような“流用”が指摘されているのか、次の記事が伝えている。 

 《復興予算「流用」が指摘される主な事業》時事ドットコム/2012/10/09-21:06)
一、国税庁庁舎の耐震改修費 12億円
一、アジア大洋州・北米諸国との青少年交流費 72億円
一、国内立地推進事業費補助金 2950億円
一、沖縄国道整備費 6000万円
一、受刑者の職業訓練費 2800万円
一、反捕鯨団体による調査捕鯨妨害対策費 23億円

※事業は2011年度第3次補正予算分 

 「毎日jp」記事によると、国税庁庁舎の耐震改修費のみならず、全国の官庁施設の耐震改修や津波対策にも計上されていると伝えている。要するに震災と関連付けた防災名目での計上なのだろう。

 「国税庁庁舎の耐震改修費」

 国税庁担当者「税務署は一般の来庁者も多いので緊急性は高いと判断した。政府方針に沿っただけ」(毎日jp

 「アジア大洋州・北米諸国との青少年交流費」

 〈海外から被災地などを訪ねてもらい、風評被害の防止につなげるのが狙い。〉(MSN産経
 
 「国内立地推進事業費補助金」(は被災地と関係のない中部、近畿の会社などを補助対象とした予算計上だそうだ。

 その内の一つである、岐阜県のコンタクトレンズ工場への支援に関して。

 経産省「工場が福島県や茨城県から原料を調達していることを重視した」(毎日jp

 「沖縄国道整備費計上」について。

 内閣府担当者「国土の防災・減災を進める政府の基本方針に沿った。ほかの都道府県でも同じような防災事業を復興予算で計画している」

 他もやっているから、自分たちも許されるとする考えは他を基準として自らの行動を決定する非自律性の現れであると同時にみんなでやろうという馴れ合いの現れでもあろう。

 「受刑者の職業訓練費」はなかなか興味深いことを次の記事が伝えている。《復興予算:法務省が受刑者訓練に2765万円》毎日jp/2012年10月09日 21時28分)

 記事は使途目的を、〈出所した受刑者の再犯防止のため、労働需要の高まっている被災地で働けるよう小型建設機械の運転資格を取らせることを目的としている。〉と書いている。
 
 なかなか尤もらしい正当性の弁となっている。

 但し記事は、〈ただ、被災地で働くかは出所者次第。期待通り復興に生かされるかは未知数だ。〉と疑問符をつけている。

 田中慶秋法相(10月9日の政務三役会議で指示)「復興予算の流用ではないかとの指摘もある。説明がつくのか点検してほしい」

 国会や記者会見で追及されたときの理論武装にしようということなのだろう。

 被災地以外の刑務所で実施されている理由について――

 法務省矯正局「既に小型建設機械の職業訓練をしていたり、スペースや指導者の確保が困難だったりするとの理由で、被災地内で希望する刑務所がなかった。このため、できるだけ被災地に近い地域の施設で実施することにした」

 予算内訳は1台約500万円の小型油圧ショベル4台分の購入費や、訓練を受ける受刑者の受験手数料など。

 実施場所は北海道月形町の月形刑務所と埼玉県川越市の川越少年刑務所。既に事業は開始しているという。  

 受刑者の職業訓練としての使途という点では何ら問題はないが、果たして復興予算の使途として問題ないとは言えないはずだ。このことは後で述べる。

 受刑者が出所後、被災地でがれき処理に携わるかどうかは分からない点について。

 法務省矯正局「被災地のがれき処理に小型油圧ショベルの運転手が集められていることで、他の地域で有資格者が足りなくなっていることも考えられる。その穴を埋めることも広い意味では復興支援だ」

 確かに言っているとおりだが、なかなか巧妙な説明となっている。

 法務省幹部「がれき処理という被災地の復興のニーズに応えられるだけでなく、被災地や周辺地域における再犯防止も期待できる。一石二鳥の意義ある事業だ」――

 「反捕鯨団体による調査捕鯨妨害対策費」

 農水省「捕鯨基地がある宮城県石巻市の復興のためにも必要」(毎日jp

 水産庁「捕鯨基地がある宮城県石巻市の復興にはクジラの安定確保が欠かせない」(スポニチ

 言っていることはやはり尤もらしい。但しである、「反捕鯨団体による調査捕鯨妨害対策費」計上が「クジラの安定確保」につながったとしても、そのことが「捕鯨基地がある宮城県石巻市復興」の主たる要因となるかである。

 多分、一つ一つの積み重ねが全体の復興につながると反論するに違いない。

 記事は法務省外局の公安調査庁の、復興予算からの車両購入についても伝えている。〈過激派や外国のスパイに目を光らせるため、無線配備の車両14台の購入費として2754万9000円を復興予算から計上し〉たと。

 〈同庁によると、被災地で革マル派や中核派が、▽避難している被災者▽支援に訪れたボランティア▽反原発運動に携わる人たち――に対する勧誘を強めており、外国が原発などの重要情報を不正に入手しようとする動きもある。購入した車両は調査官が対象者を追跡するため導入するもので、宿泊施設を確保できない場合の宿代わりにも使用されている。〉云々。

 公安調査庁幹部「過激派による被災地での活動実態が現実にあり、監視が必要だ。政府が原発などにおけるテロの未然防止対策として『テロ関連情報の収集や分析能力の強化』に努める必要があるとしており、これに基づいている」――

 だが、このことが被災地復興に直接的にどうつながるのだろう。どう見てもドサクサ紛れの火事場泥棒のような、復興の名を騙った予算の流用に見えて仕方がない。

 被災地の復興に何が肝心要なこととして最必要とされているかに何よりも重点を置かなければならないはずだ。この肝心要なことが全体的な復興の土台となる。

 当然、最必要とされている全体的な復興の土台形成を肝心要な最優先事項とし、以下を優先順位付けしていくことになるはずだ。

 果たして流用と指摘されている被災地外の事業は最必要とされている全体的な復興の土台形成に直接的につながる肝心要な最優先事項の事業と言えるのだろうか。

 「毎日jp」記事に次のような記述がある。〈石巻魚市場によると、漁業、水産業の復旧は震災前の3割程度。震災で漁船を流された男性(61)は「原発事故の影響で満足に漁もできず、将来的な見通しも立たないのに国の対策は遅々として進まない。調査捕鯨も大切だが、税金の使い方を考えてほしい」と希望した。〉――

 と言うことなら、調査捕鯨よりも、被災地漁民の出漁機会の回復、漁獲高の回復を全体的な復興の土台形成の最優先事項の一つとしなければならないはずだ。そのためには農産物も含めた放射能汚染に関わる風評被害の解消も最優先事項の一つとしなければならない。

 全体的復興の土台形成とすべき最優先事項を満足に履行できてもいないのに「捕鯨基地がある宮城県石巻市の復興にはクジラの安定確保が欠かせない」などと土台部分とはならない部分的問題を重要視している。

 この判断能力の非合理性は日本の官僚の基本的資質なのだろうか。

 また「復興予算」と名付け、「復興債」と名付けた特別国債を発行して財源に充て、償還は所得税等の臨時増税を実施予定とし、住民税の増税分充てるとしている以上、被災地の復興に直接的に寄与する政策や事業の予算付けに限定すべきで、昨年7月策定の政府の復興基本方針で全国各地の防災対策費の計上などを認めたこと自体が既に「復興」の名に値しない方針策定であって、増税をもっけの幸いとしていくらかを利用しようと最初から企んでいた末の流用であろう。

 政府財政の懐を痛めないで済むからだ。

 被災地の全体的復興の土台形成に直接的に寄与するわけではない国税庁庁舎の耐震改修などは別予算で組むべきだったろう。

 小型油圧ショベルの運転等の「受刑者の職業訓練費」にしても、瓦礫処理を通して被災地の復興のニーズに応えることができると同時に受刑者の職業を手にした社会復帰によって被災地や周辺地域における再犯防止に役立つとしても、復興予算からではなく、あくまでも受刑者の社会復帰を直接的に目的とした従来の予算の延長で行うべきだろう。

 何しろ最優先事項としなければならない全体的復興の土台とすべき肝心要の政策や事業に集中させるべき復興予算執行を被災地以外の事業に名目を設けて拡散・流用する予定でいたために集中させることができない結果の、現在の復興の遅れに繋がっているということもあるはずだ。

 あっちにも手を出し、こっちにも手を出して、予算総額を差引き計算して辻褄を合わせていたなら、結果の全体的平均化はそこそこ可能ではあっても、集中すべきことも集中できなくなる。

 野田首相は「福島の再生なくして日本の再生なし」と機会あるごとに発言してきた。また10月月7日、福島第1原発と福島県楢葉町の除染作業現場を視察、「福島の復興、再生の基盤となるのは除染だ」と発言。「除染をよりスピードアップしなければいけない」と宣言した。

 言っていることは、全体的復興の土台とすべき肝心要の最優先事項の主たる一つに「除染」を挙げたということであるはずだ。

 だが、その肝心要の全体的復興の土台形成とし、そのことに集中すべき主たる最優先順位の「除染」が遅れているからこそ、「スピードアップ」という言葉を口にしなければならなかった。

 野田政権の復興予算執行が満足に機能していなかったことの告白でもある。

 予算流用とは集中的予算執行の拡散をも意味することになる。

 果たして復興予算流用は復興予算だけのことなのだろうか。一種の錬金術として他予算でも慣用化していないだろうか。

 被災地の多くの被災者を生活の困窮や将来の不安に陥れているのである。それを他処に全体的復興の土台形成に直接的に影響するとは思えない被災地外の事業に復興予算を流用しているのである。慣用化から来た流用の疑いは濃い。


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