安倍晋三9月14日「日曜討論」「人家に入り子どもを攫って慰安婦にした事実は間違い」にある真っ赤なウソ

2014-09-15 09:42:12 | Weblog


 9月14日のNHK「日曜討論」は、「党首に問う いま政治がすべきことは」をテーマとしていた。その中で安倍晋三は朝日新聞の従軍慰安婦に関わる誤報に関して次のように発言している。

 安倍晋三「日本兵が人さらいのように人の家に入っていき、子どもをさらって慰安婦にしたという記事を見れば、皆、怒る。間違っていたというファクトを、朝日新聞自体がもっと努力して伝える必要もある。それを韓国との関係改善に生かしていくことができればいいし、いかに事実でないことを国際的に明らかにするかを我々もよく考えなければいけない」(NHK NEWS WEB)――

 当ブログに何度か書いてきたことだが、日本占領下のインドネシアでインドネシア人の14、5歳の少女たち10人程が家の前で遊んでいたところ、日本軍のトラックがやってきて、銃を持った8人程の日本軍兵士が彼女たちを力ずくでトラックの荷台に乗せ、連れ去っていき、強制的に売春させた証言は人家に直接入り込まなくても、家の前からの拉致である以上、家に入り込んだに等しい暴力行為であるはずだし、「さらって慰安婦にした」という点では何ら変わりはない。

 もし安倍晋三が家の前と家の中を区別して家の前の行為は人さらいではないとするなら、北朝鮮に拉致された日本人は北朝鮮の工作員が家の中にまで入り込んで拉致したわけではなく、道を歩いている途中とか公園で休んでいるところを拉致していることから、拉致の部類に入らないことになって、矛盾が生じる。

 「人の家に入っていき、子どもをさらって慰安婦にした」例は、同じ日本軍占領下のインドネシアでそれまでインドネシアを植民地としていた宗主国オランダの民間人収容所に日本軍兵士が複数して入り込み、未成年者を含む若い女性を軍の威嚇の下連れ去った事実は、それが収容所であったとしても、生活の場としていたのだから、人家に等しい空間を構成していたとすることができ、「人の家に入っていき、子どもをさらって慰安婦にした」例に挙げることができる。

 安倍晋三やその他は従軍慰安婦強制連行否定の根拠に「政府発見資料の中に軍や官憲による強制連行を直接示す記述がない」ことに置いているが、2014年9月6日の当ブログ記事――《安倍政権の「河野談話」作成過程と同じ構造を取った従軍慰安婦強制性否定とその検証に見るインチキの数々 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に、〈オランダ人女性強制連行は戦後現地で開催したオランダ軍によるバタビア臨時軍法会議(1948年)の裁判記録に残されているし、オランダ人女性やインドネシア人女性の証言が残されている。〉と書いたが、インターネットで慰安婦関連の記事を探していたところ、辻元清美がバタビア臨時軍法会議の裁判官と証人のオランダ人女性との遣り取りを取り上げて、強制連行と認めるかどうか安倍内閣に対して提出した質問主意書を偶然見つけた。

 上記NHK「日曜討論」での安倍晋三の「日本兵が人さらいのように人の家に入っていき」云々はこの質問書に対して閣議決定して発行される安倍内閣の答弁書を自分から真っ赤ななウソとする発言となる。

 「質問主意書」を要約してみる。日付のその他の漢数字は算用数字に改め、重要と思われる個所は文飾を施した。   

 質問主意。

 「『バタビア臨時軍法会議の証拠資料』についての安倍首相の認識」 

 提出日 平成25年5月16日

 提出者  辻元清美

 先ず安倍晋三の例の如くの歴史認識発言を取り上げている。

 安倍晋三「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」(2007年3月1日対記者団発言)

 安倍晋三「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった」(2007年3月5日参議院予算委員会)

 2007年3月8日辻元清美提出の「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書」に対する第1次安倍内閣の答弁書。

 安倍内閣答弁書「同日(1993年8月4日)の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」

 以下の遣り取りはオランダ政府戦争犯罪調査局の作成を経てバタビア臨時軍法会議に証拠資料として提出・採用された資料から取り上げている。理解の便宜上、「問」とあるのを「質問者」に、「答」とあるのを「オランダ人女性証人」(当時48歳)に代えた。「[・・・]」とあるのは、黒塗りの方法なのか、名前が伏せてある個所。読みやすいように、適当なところで改行を施した。

 質問者「日本人がムンティランの抑留所にいた女性や少女達を、売春をさせるために強制的に連行したということについてあなたはどういうことを知っていますか?」

 オランダ人女性証人「(略)43年12月のある朝のこと{12月のはじめ頃}、抑留所の運営委員会の委員である[・・・]夫人と、[・・・]夫人と、私達の事務所にいた時、数名の日本人と会ってくれとの連絡がありました。私達の抑留所の所長は、[・・・]と名乗るマゲランの州長官だと自己紹介した日本人と一緒でした。

 他にも数人の日本人がいました。後で分かったのですが、一人は[・・・]という憲兵、もう一人は[・・・]という民間人でした。

 (略)事務所へ戻ると、書き付けた名前を全部タイプし、その名簿に、抑留所内にいる17歳以上の女性達の名前も全部足すように言われました。

 (略)それから10日ぐらいしてから、ミアサキ(原文:Miasaki、抹消漏れ)が、何人かの私達の見知らない日本人を伴ってやって来て、会合をしていた私達の委員会に対して、例の名簿をもとに少女達に事務所の前に出て来るように手配するようマレー語で言い付けました。

 (略)日本人達と[・・・]は彼女らを目で検査し、仕事をしたいかどうかを彼女らに彼が尋ねたように記憶しています。これにはだれ一人返答しませんでした。(略)44年1月25日{こ{ここで証人は彼女の日記を覗く}、三人の見慣れない日本人が抑留所に来ました。(略)私達委員が礼拝堂に入った時には、もう40人ぐらいの夫人達や母親同伴の少女達が来ていました。私達は激しく抗議しましたが、[・・・]は、私を[・・・]博士と一緒に礼拝堂の外に追い出しました。

 (略)私は少女[・・・]が行かなければならなくなって気が狂ったように泣くのを目撃しました。彼女は間違いなく、いやいや行かされたと私は思います。

 日本人達は、私達委員にこれ以上立ち入らせないようにし、選ばれた夫人や少女達には、出発の準備をするよう直接に指示しました。彼女らが私に知らせてくれたところによりますと、半時間で身支度をしなければならなかったそうです。その間に、私達委員は、抑留所の女性達全員に、一緒に門のところに集まって抗議し、できることならば連行を止めさせるように指示しました。日本人達が礼拝堂から出て来て、門へ向かった時、私達は一斉に「いやだー!(原文インドネシア語〝Tidamaoe!〟)」と叫びました。

 日本側はこれに激怒して、長い竹と抜き身のサーベルで武装した警官隊に集まった女性達を追い散らすよう命令しました。

 これに応じて警官[・・・]は突進しました。これは私も目撃し、彼から竹の棒で一つ殴られました。
(略)」

 質問者「少女達を連行した際、強制だったと思いますか?」

 オランダ人女性証人「はい。私達の抗議、女性達の抗議、また集まっていた者たちを力づくで追っ払ったことなどからそれは分かると思います」

 質問者「日本人は、少女達を連行した目的について何も話しませんでしたか?」

 オランダ人女性証人「はい、そういうことはありませんでした。ただ、礼拝堂の中で、日本人のために働きたいか、と母親達が尋ねられただけです」

 質問者「完全に自分の意志に反して連れて行かれた少女は誰と誰でしたか?」

 オランダ人女性証人「[・・・]、[・・・]、[・・・]、[・・・]、[・・・]でした。(略)」

 質問者「日本人の特徴を言ってもらえますか?」

 オランダ人女性証人「:[・・・]はきちんとした人、という印象でした。マゲランの州長官でしたから、簡単に見つかるはずです。

 [・・・]は憲兵で、抑留所の監督を任せられていました。このイセキ(原文:Iseki、抹消漏れ)については、私は当時既に、{記録保存係の?}デブール氏の目の前で私にひどい扱いをしたことに関して苦情書を提出してあります。写真があれば見分けられます。(略)」(以上)

 以下、辻元清美の質問。

 一 《オランダ政府戦争犯罪調査局が作成を経てバタビア臨時軍法会議に証拠資料として提出・採用された上記資料に対する政府の認識》について

 1 2007年4月10日辻元清美提出提出の「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する再質問主意書」に対する2007年4月20日の政府答弁書で、バタビア臨時軍法会議については「我が国は、平和条約第11条により、連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない」と答弁しているが、その異議なしはバタビア臨時軍法会議に証拠資料として提出・採用された上記資料についても適用させていて、その内容に異議がないことを認めるか。

 2 オランダ人女性証人の「一人は[・・・]という憲兵」という発言と「[・・・]は憲兵で、抑留所の監督を任せられていました。」という発言は日本軍の憲兵が女性を集める指示に直接的に関与していたことを示しており、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」であると考えるか。政府の見解を示されたい。

 3 オランダ人女性証人の「私は少女[・・・]が行かなければならなくなって気が狂ったように泣くのを目撃しました。彼女は間違いなく、いやいや行かされたと私は思います」という発言と、質問者の「少女達を連行した際、強制だったと思いますか?」という質問に対するのオランダ人女性証人の「はい。私達の抗議、女性達の抗議、また集まっていた者たちを力づくで追っ払ったことなどからそれは分かると思います」という発言、さらに質問者の「完全に自分の意志に反して連れて行かれた少女は誰と誰でしたか?」という問いに対するオランダ人女性証人の「[・・・]、[・・・]、[・・・]、[・・・]、[・・・]でした」という証言は女性がその意志に反して強制的に連行されたことを示しており、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」であると考えるか。政府の見解を示されたい。

 4 政府は、総じて当該資料は「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」資料であるという認識か。

 二 《当該資料に対する安倍首相の認識》について

 1 安倍首相は、オランダ人女性証人の「一人は[・・・]という憲兵」という証言、「[・・・]は憲兵で、抑留所の監督を任せられていました。」という証言は女性がその意志に反して強制的に連行されたことを示しており、「官憲が家に乗り込んで人さらいのように連れて行くような強制性」を示したものであると考えるか。

 2 安倍首相は、上記資料に於けるオランダ人女性証人の「私は少女[・・・]が行かなければならなくなって気が狂ったように泣くのを目撃しました。彼女は間違いなく、いやいや行かされたと私は思います」という発言、質問者の「少女達を連行した際、強制だったと思いますか?」の質問に対してオランダ人女性証人が答えた「はい。私達の抗議、女性達の抗議、また集まっていた者たちを力づくで追っ払ったことなどからそれは分かると思います」とする証言は女性がその意志に反して強制的に連行されたことを示しており、「官憲が家に乗り込んで人さらいのように連れて行くような強制性」を示したものであると考えるか。

 3 安倍首相は、総じて上記資料は「当初、定義されていた強制性を裏付けるもの」であるという認識か。

 辻元清美の質問書に対する安倍内閣の答弁。

 〈一及び二について

 お尋ねについては、先の答弁書(平成19年6月5日内閣衆質166第266号)一及び二についてでお答えしたとおりである。〉――

 味も素っ気もないものとなっている。

 平成19年6月5日内閣衆質166第266号の答弁書の内容は次のとおりである。

 〈連合国戦争犯罪法廷に対しては、御指摘の資料も含め、関係国から様々な資料が証拠として提出されたものと承知しているが、いずれにせよ、オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成5年8月4日の内閣官房長官談話のとおりである。〉

 〈連合国戦争犯罪法廷の裁判については、御指摘のようなものも含め、法的な諸問題に関して様々な議論があることは承知しているが、いずれにせよ、我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)第11条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。〉――

 2007年4月10日辻元清美提出提出の「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する再質問主意書」もオランダ人慰安婦を扱っていて、そのときの政府答弁書と似た内容となっている。

 安倍晋三は狡猾にもオランダ人女性証人の証言に対する自身の解釈を回避しているが、〈同裁判について異議を述べる立場にはない〉と言うことは、バタビア臨時軍法会議に証拠採用されたオランダ人女性証人の証言に関しても、少なくとも公には、つまり新聞やテレビで、あるいはマスコミ記者に向かって、更には講演などで異議申し立てすることはできないことになる。
 
 勿論、高市早苗や稲田朋美などの右翼お友だちが集った私的な場所では、「あんな証言はデタラメだ、デッチ上げだ」と言うことはできる。

 だが、軍が持つ威嚇性を利用して「日本兵が人さらいのように人の家に入っていき、子どもをさらって慰安婦にした」という事実はバタビア臨時軍法会議が証明している事実でもあり、公の場所ではどのような異議申し立てもすることはできないはずだが、NHK『日曜討論」という公中の公な場所で閣議決定した政府答弁書に反して、軍によるその強制連行を否定する異議申立てをした。

 このことは閣議決定の政府答弁書を真っ赤なウソとする行為に他ならない。首相である以上、自分から主体的に決定したであろう閣議決定を自身の歴史認識を押し通すために自分から真っ赤なウソとする。

 閣議決定を何と心得ているのだろうか。閣議決定の私物化としか言い様がない。

 朝日の「吉田証言」が誤報であったとしても、強制連行され、強制売春を強いられた従軍慰安婦が多々存在したとする朝日新聞の歴史認識と安倍晋三のそれを否定する歴史認識をどちらが正当性があるかと軍配を上げるとしたら、バタビア臨時軍法会議が採用した証拠やインドネシア人、その他の元従軍慰安婦の証言から、前者に上げる以外にない。

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