GOKIGENRADIO

バーボングラス片手のロックな毎日

安部譲二さん

2019-09-08 21:47:36 | BOOK/COMICS

俺が唯一自分からサインをもらった人、安部譲二さんが亡くなられた。

どうして俺の好きな作家が次々といなくなってしまうのだろう。藤原伊織、野沢尚、中島らも・・・。まぁ、皆さん同じように年齢重ねていかれるのだから仕方ないけどさ。安部譲二さんも82歳だったそうなので、大往生だな。元とはいえヤクザが畳の上(正確には布団の上だろうけど)で死ねるなんて本望だろうね。

 

安部譲二さんからもらったサインは大事に保管してある。今、このブログを書くのに探したのだけど、引っ越しのバタバタでどこのダンボールに入っているのか見つからず。ガムテ貼ったままクローゼットや押入れにとりあえずと入れたダンボール。このままでは次の引っ越しまでそのままになってそうだ。断捨離好きの人に怒られる前に早めに整理しなくてはいけないな。まぁ、おかげで単行本と文庫本は見つけれた。

 

俺は普段、サインとかをもらう人ではない。街中で芸謀人や有名人に偶然出会った(見かけた)時に色紙とかサインペン持ち歩いてる人がいたら、よほどの蒐集家かネット転売の輩だろ。だいたいプライベートの時にわざわざ声かけてってのもねぇ。

以前にテレビや雑誌にちょこっと出させていただいた際には、ADとか編集の人が気を使って出演者(芸能人とか)などのサインを「(記念に)もらってきてあげますよ」とか言っていただくのだけど、もらったところでそれをどうするんだ?って考えちゃうの。店に飾る?俺の店はラーメン屋とか居酒屋など飲食店じゃないしね。だいたいこれ見よがしにサインが飾ってある飲食店って「なんだかなぁ」って思ってしまうもの。「ふーん。有名人が来てるからって・・だから何?」ってね。

だから大概「要りますか?」とか言われても『いや結構です』と即答するんだけど、「遠慮しなくていいですよ」とか言われたり、怪訝そうにされるのよね。世の中には有名人のサインといえば誰のものでも欲しがる人が多いのだろうか。

 

話は横道に逸れてしまったが(いつものことだが)、そんな俺が唯一と言っていいほど自分でアクションを起こしてもらった安部譲二さんのサイン。

 

バブルがはじけたかどうかって頃、俺は某チェーン店のマネージャーをしてて、その日は朝の本部会議から帰ってきたとこ。フロント(受付)のスタッフが「メンズ断ったけどいいですよね」って。当時俺が任されてた店はやたら飲み屋のママとメンズが多く、そのせいで売り上げが伸び悩んでたの。だから予約制にして(当時飲み屋のママやメンズは飛び込み客が多かった(=わがまま、せっかち=カットだけ、セットだけ=低単価)、メンズは近くのグループ系列の理髪店の方に誘導するようにしたの。

なのにわざわざ「新規だけどメンズを断った」って言うのって変だなと思い『どんな客?』と聞くと「体格のいいベリーショート、っていうか五分刈りの人」。それなら美容室じゃなくて理容室の方がベストだろう?なんでわざわざ報告を?って思ってたら別のスタッフが「確か作家の人です」って。さらに違うスタッフが「マネージャーが前にお客様に熱く語ってた映画の原作者だと思う」と。

映画化された作品の原作者+熱く語ってた+メンズ+五分刈り+体格のいい…。安部譲二さんじゃないか!?

すぐ『バーバー(関連理髪店)に紹介したんやんな』と聞くと、案内したって。すぐさま別のスタッフに「ダッシュで紀伊国屋行って色紙買ってきてきてくれ(本当は安部譲二さんの本がいいけど、どれを買えばいいかわからんだろうし、すでに全部持ってるし)」と指示し(ええ、完全な職権乱用です)、俺はバーバーへダッシュ。色紙買ってきたらそっちに持ってきてくれと指示もした(今ならこれもブラックとかパワハラとか言われるんだろうな)。

 

で、バーバーに行き、店長に『ひょっとして、安部譲二さん来てる?』と聞くと「ええ、今来られてますよ」。ちょうど顔剃り中だ。なんてグッドタイミングだ。ダッシュで色紙買ってきてくれたスタッフが到着すると同時に、顔剃り終わって顔を洗って(大阪の散髪屋はこれが定番さ)タオルで拭いてる安部譲二さんに声をかける。

『すいません、美容の方のマネージャーしてる者です。先酷はせっかくご来店いただいたのにお断りをして、こちらに誘導させていただいたとのこと。』云々なんちゃらかんちゃら・・・と謝罪。安部さんは笑顔で「いやぁ、テレビ局の人に聞いてきたんだけど、あぁここだって早合点して入ってしまったのよ」と。美容も理容も同じ名前だからね、そりゃ知らなきゃ間違える。「でも上手い人にやってもらえたからスッキリしたよ、わははは」とテレビで存じ上げるのと同じ声、と人柄。今だ!チャンスだ!『実は大ファンなのです』『本も全部持ってます。読んでます』『できればサインを頂きたく思います』と一気にお願い。

テレビや雑誌で見る人柄そのままに、心良くサインをしていただけた。

 

安部譲二さんはヤクザ映画やアウトロー小説のターニングになった人だ。

それまでもヤクザ映画はあった。場末のスクリーンでは網走番外地とか緋牡丹なんとかとか唐獅子なんとかをオールナイトでやっていた。高倉健さんはギリギリまで我慢し渡世の義理を果たすために単身ダンビラ片手に乗り込んでいく。または菅原文太が組織のしがらみによって抗争に巻き込まれていく。それらをヤクザやチンピラたちは観て、そして憂いてた。

そんな中、金子正次さんが【竜二】を発表し映画化された。

ヤクザ映画で初めて拳銃もドスも出てこないこの映画は画期的だった。シマを奪い合う銃撃戦も無いしダンプでのカチコミも無い。白い粉を港で取引したりもない。ただヤクザという人間を、ヤクザという生き方を痛烈に描いた傑作だ。(ちなみに当初は松田優作主演で映画化される予定だったがいろいろあって、原作本人が出演してる)金子さんは早逝されたが、2作目の【チンピラ】は柴田恭兵とジョニー大倉で映画化されヒット。そして三作目の【ちょうちん】では陣内孝則が癌に侵されたヤクザを熱演。どちらも銃もドスも出てこない(チンピラではモデルガンが出てくるし、ジョニー大倉は組の薬を横流しするけどね)。

ちょうちんのヒット及び、陣内孝則がブルーリボン賞とか主演男優賞取っちゃったことで、やくざ映画はこれを機に路線変更。今までの切った張ったではなく人情を絡めた話になっていく。今までのやくざ映画からアウトローモノとかクライムムービーとか呼び方も変わったね。まぁそれでも【極道の妻たち】のようにドンパチも含めたものは人気あるけどね。この路線はその後東映Vシネマと続く。


その陣内孝則がちょうちんの次に演じたのが安部譲二さん原作の【極道渡世の素敵な面々】。これが先に書いた「お客様に熱く語ってた映画」だ。

【塀の中の懲りない面々】【塀の中のプレイボール】(どちらも映画化された)に続き、映画化された【極道渡世の素敵な面々】。音楽は久石譲、主題歌と挿入歌は甲斐バンド。陣内の相手役女優は麻生祐未と超豪華。ちなみにこの映画に安部譲二さんはチョイ役で出てる。(奥さん役があべ静江だったのは偶然か?)。

 

陣内孝則がこの映画の後に主演したのが【疵】。これは実在した安藤昇さん率いる安藤組の花形敬さんをモデルにした映画。喧嘩(ステゴロ)がやたら強く、それゆえに組織から持て余され最後は非常の死を遂げるこの伝説のヤクザ(ショーケンの太陽にほえろでの殉職シーンはこの花形さんの最期にインスパイアされてると思う)が所属してたのが、安藤組。安部譲二さんは安藤組の構成員だったので、花形さんは兄貴分にあたるそうだ。ちなみに警視庁保管の構成員名簿はあいうえお順のため、安部譲二さんは安藤昇組に次いで2番目に記載されている。

 

安部譲二さんがヤクザって実は憎めないやつなんですよ、実はこんな話もあんな話もあるよって小説やエッセイにしたおかげで、痛快なピカレスクロマンとか、アウトローだけど憎めないキャラってのが出てきた。浅田次郎さんの【きんぴか】以降は、なんか小説や漫画の分野にもかなり愛すべきヤクザ者が主役のモノが増えた。そしてそのほとんどがドラマ化、映画化されていく。

仲間由紀恵主演でヒットした【ごくせん』

福澤徹三さん原作の【侠飯】は生瀬勝久主演でドラマ化され、

【Iターン】はムロツヨシ主演(古田新太/田中圭共演)で今ドラマ放映されてる。

岡田准一主演の【ファブル】も、

 

藤原竜也主演の【Diner ダイナー】も、

 

もうすぐ公開されるはずの【任侠学園】(西島秀俊/西田敏行W主演)も小説・漫画原作のアウトローもので、登場人物のやくざ、極道、チンピラは、怖いだけじゃなくどこか憎めないキャラばかりだ。

安部譲二さんが新しく切り開いたヤクザの裏面。簡単に言えば「ヤクザだって同じ人間ですよ」ってこの路線、今じゃ普通にドラマや映画、漫画や小説になってるのに、未だに「芸能人が裏社会の宴会に出た」とか、「裏社会の人と繋がりがある」とか騒いでるのはなぜ?これは良くてあれはダメ。基準がよくわからん。受け入れてるのか、排除したいのか。俺の足りない脳みそでは理解できないよ。

 

元ヤクザでパーサーで、小説家の安部譲二さん。裏社会とのつながりがとか、ハングレ集団がとか騒ぎ立てるマスコミはこの死をどう報道するのだろうか。そしてネットで正義をわめく人たちはどう受け止めるのだろう。

安部譲二さん。気にせず安らかにお眠りください。



1 Comments

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Unknown (Ayatan)
2019-09-13 21:35:00
こんばんはー♡♡♡西島さん、お疲れ様ですー!
俳優さんの業界は、評判もそうだけど、秘密主義も一つの案だと思う。私の分かった事じゃないけど、ブログや俳優さん、女優さんとのトーク、それぞれ、派閥の時代で個性がすごくて、そんな派閥争いの中に自分をさらけ出す必要あると思う?
無理して話さなくてもいいし、西島さんが色々なキャストの作品を見た中でどう感じとるか次第だけど、悔しいと思う事もあるんじゃない?
最近、テレビ番組で岡田准一さんがスタントマンなしのアクションをされた作品があるみたいだけど、西島さんからしたら、悔しい思いは、ないですか?
評判がいいとか悪いとかじゃなくて、あー、この人すごいなーってところは、視聴者にまた、一般人に見せた事は、今までありましたか?
作品をいくつか観て行かれたと思うけど、妬みに代わるはず…。
人の妬みも表に表れるのは、怖いですね。
西島さん?私は、評判とか関係なしに好きですよ…♡
また、時間があれば、返信できたら、欲しいです。
では、では…♡

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