日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 どうも最近の中共政権は硬質なアクションが多いですね。ええ背景に軍部の影を感じるような類いのものです。……いや、軍部という言い方は正確ではないでしょう。軍主流派の姿勢を反映したものである場合と、鉄砲玉的な一部の跳ねっ返りによる「独断専行」というケースがあるように思います。

 共通しているのは胡錦涛路線に対するある種の異議申し立て、ということ。ただ最近の中共政権はアフリカへの露骨な急接近に代表されるように、対外伸張的スタンスや一種の野心を隠そうとしなくなってきています。軍部が台頭するようにみえて実は胡錦涛も同腹だった、という場合も中にはあるかも知れませんが、総じていえば胡錦涛政権が軍部にやや引きずられている、といった観があります。

 ただ今回のケース、これは「軍主流派」でも「胡錦涛も同腹」でもないと思います。とはいえ「鉄砲玉」にしては手が込んでいて勢いもあることから、それなりの政治勢力を後ろ盾にした「異議申し立て」ではないかと考えているところです。

 ……と、つい数日前までは思っていたんですけどねえ。ちょっと風向きが怪しくなってきました。

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 旧正月前の「事件」をいまさら蒸し返すことになりますが、ちょっと気になる動きですし、展開次第では胡錦涛政権の足を引っ張りかねない状況に発展するかも知れませんので、旧聞であることを承知でとりあげておきます。

 やや迂遠ですが今回は大手門から正攻法でいきましょう。中共政権によって「歴史」の書き換えが進められていることが「事件」の背景にある、というところから語り起こさなければなりません。

 キーワードは「愛国主義教育」。御存知、江沢民時代に十数年にわたって実施された反日風味満点な教育プログラムのようなものです。日本人からみれば「反日教育」といっても不適切ではないほどヒステリックなものでした。

 これによって「糞青」(自称愛国者の反日信者)が大量生産され、現在の中国国民でいうと30歳以下の反日度が必要以上に高まったことはいうまでもありません。2004年サッカーアジアカップにおける中国人サポーターの常軌を逸した反日姿勢、そして翌2005年春の反日騒動はその発露というべきものでしょう。

 「反日風味満点」という点において平衡を著しく欠き、またその「日本鬼子」による侵略を中共が敢然と迎え撃ってついに勝利する、といった勧善懲悪型の内容は、ステレオタイプ型の思考癖を育んでしまったという点において、愚民教育といっていいかと思います。

 なぜ「愛国主義」か、なぜ「反日」か。……江沢民に日本あるいは日本人に対するトラウマのようなものがあったためかどうかは知りませんが、基本的には1989年の天安門事件で失脚した趙紫陽の後を襲って江沢民が総書記に就任したことによります。トウ小平による大抜擢です。

 でも当時の江沢民は大抜擢を喜んでばかりはいられない状況でした。軍隊によって民主化運動を武力弾圧したという流血の惨事を引き起こしたため、西側諸国は対中経済制裁を実施。国内は国内で武力弾圧によって国民の中国共産党に対する信頼度が地に堕ちました。……いや、中共政権や社会主義に対する不信感はそれまでに十分浸透していたのですが、天安門事件でそれが決定的になったというべきでしょう。

 しかも、気がつくとお友達がどんどんいなくなっていくという非常事態。ベルリンの壁が壊され、ソ連や東欧の共産党政権がバタバタと崩壊していってしまったのです。ともあれ一党独裁である中共政権としては、国民の中国共産党に対する敵意めいた不信感を取り除き、求心力を回復しなければなりません。

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 そこで持ち出されたのが民族主義を煽ることです。中国人はすごいんだ、中華民族はすごいんだとはやし立てるキャンペーン。その
「中華民族はすごいんだ」「中国共産党はすごいんだ」へとすり替えていこうという狙いです。

 すごい証拠は3000年の歴史……だとインパクトに欠けますし中共への求心力回復に貢献しません。しかも3000年の中華な歴史の結果が19世紀以降の半植民地的な屈辱の近代史です。

 ところが、ふと横を向いたら日本という恰好の敵役がいるではありませんか。しかも「江の傭兵」のような媚中派が政権の中枢にあって言いなりにできるのです。「謝罪しろ」といえば申し訳ありませんでしたと謝りますし、「反省しろ」といえば本当にすみませんと反省してくれる。「謝罪が足りない」といえばさらに謝ってくれます(書いていて情けなくなってきますね)。

 ……この日本を歴史教育において徹底的な悪玉として描くことで、第一に国内の中共に対する敵意めいた反感を日本へとそらすことができます。しかも内戦で国民党を台湾に追っ払ったので、中共はいわゆる「抗日戦争」の勝者という地位を独占できるのです。要するに、

「あの鬼畜の限りを尽くした日本兵に対し蒋介石の国民党はヘタレていたけど、われらが中共は敢然と立ち向かって日本に勝利し、建国の大業を遂げたのだ。すごいぞ中国!すごいぞ中共!」

 という、中共にとって実に都合のよい勧善懲悪型の「歴史」を編み上げることができたのです。日本軍との戦闘で敗死した者はそれが自らの無能ゆえであっても「革命烈士」「人民のため祖国に殉じた英雄」扱い。ヒーロー物語がいくらでも量産できます。

 また「日本鬼子の蛮行」として何たら大虐殺とかいう虚構も量産可能。「動かぬ証拠」とかいって示された人骨なんて、文化大革命で殺された人の分がいくらでもありますから。

 これが「愛国主義教育」として正式に教育プログラムに導入されたのが確か1994年。そんな安手な虚構にコロリと騙される中国人の民度も問題ですが、たまには弁護でもしてやりましょうか。子供はピュアなところに刷り込みが行われますし、報道統制で接する情報が中共にとって得なものに限定されますから疑うことのできない環境にあるのです。

 1994年に小学1年生だった世代は天安門事件を記憶していませんし、それが小学校6年生(事件当時小学1年生)でも民主化運動から天安門事件への流れをしっかり認識できていた児童などまずいないでしょう。中学3年生でも事件当時は10歳前後ですから、どれほど事態を把握できていたかは甚だ疑問です。そこへ反日風味満点の徹底した「愛国主義教育」を施され、それを全身に浴びて育っていく。……育った結果、この連中が現在の30歳以下を構成しています。

 天安門事件当時の大学生、私と同世代のいわゆる「六四世代」は当然のことながら民主化運動を銃弾と戦車のキャタピラによって力づくで封殺されたことに深い挫折感があります。それより上の世代は文化大革命、より古くは反右派運動や大躍進のような人災の極みともいうべき政治運動を経験していますから、中共が嫌いでもその怖さは骨身に染みています。

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 公然と異議申し立てを行えばどうなるかは天安門事件が改めて証明してくれましたし、そんなことで損をするよりもまずは自分の生活が大事。1989年の民主化運動の担い手が結局は大学生と知識人に限定され、一般市民まで巻き込むムーブメントに発展できなかったのも、過去の政治運動という忌まわしい体験があったからでしょう。

 とはいえ国民の中国共産党やその一党独裁体制に対する憤懣が消えた訳ではありませんし、日常生活における鬱屈もあるでしょう。その中には特権を盾にうまい汁を吸ったり横車を通したりする党幹部への反感もある筈です。しかし中共に公然とは刃向かえません。……が、「反日」を掲げたものならちょっと騒いでも「反革命分子」などにされたりはしません。

 中共への不満を「日本叩き」に託すといったピュアでない「反日」とはいえ、当人にとってはいい憂さ晴らしになるのは確かです。そして、お咎めもない。実際に2005年の反日騒動対しては未だに政治的な善悪認定(定性)がなされていません。

 あの騒動の本質は党上層部における主導権争いだと私は考えていますが、実際にデモやプチ暴動に及んだ民衆レベルでは「愛国主義教育」で育った江沢民チルドレン(亡国の世代)による「ビュアな反日」と「八つ当たり的な反日」が共存していた、ということです。

 さらにいうなら、1990年代後半から中国経済は歪んだ形ながら成長軌道に乗りつつあったため国民には現状肯定的な気分が強まり、天安門事件直後に比べれば中共への反感が薄らいでいたという要素もあるでしょう。そうした中で、いわば政策として高められた「反日気運」が顕著になっていったのです。

 また、この時期が経済成長モデルの歪みが様々な格差という形で顕在化し始めた時期と重なっていることも重要かと思います。それが中共への反感かどうかは別として、「歪み」に対する鬱憤晴らしというのも「八つ当たり的な反日」の原動力となったということです。

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 ともあれ、反日風味満点の「愛国主義教育」を以て天安門事件直後の危険な状況を脱する、という江沢民の所期の目標は達成されたというべきでしょう。

 もっとも、外資依存度の高い中国にとって、お得意様である日本への国民感情をいたずらに悪化させるというのは得策ではありません。同時に、こうしたステレオタイプな硬直した思考が身についてしまうのは一種の愚民教育だ、ということは上で指摘した通りですが、愚民のままでは外資企業から得た技術やノウハウを消化して産業構造をグレードアップさせることもできません。

 素人の私がそう思うくらいですから、江沢民の後を継いで最高指導者となった胡錦涛も当然それに気付いていたことでしょう。果たせるかな、胡錦涛政権が発足するやまず反日サイトの活動が大幅に規制され、反日報道への統制が行われ、政権としての反日度も大きくレベルダウンしました。

 ……いや、これは後出しジャンケンじゃありませんよ。不肖御家人の天気予報もたまには当たるのです。

 ●江沢民引退なら「反日」はレベルダウン(2004/09/02)

 ただ、「胡錦涛路線」の重要な一項ともいうべきそうした政策がタイミングの悪さから裏目に出てしまい(江沢民のヒステリックな「反日」のおかげで日本の対中外交がようやく強腰へと転じた時期だったからです)、アンチ胡錦涛勢力からダメ出しをされて2年間の迷走を余儀なくされてしまうのですが。

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 もっとも、迷走の2年間にあっても胡錦涛が着実に推進してきたものがあります。それが「愛国主義教育」を変質させることです。詳細はこちらを。

 ●「鬼畜米英」から「ぜいたくは敵だ」へ。愛国主義教育にも胡錦涛色?(2006/10/22)

 タイトルだけで大雑把な意味はとれるかと思います。これに加えて、台湾問題における国民党との接近を図る必要から、「抗日戦争」期間の歴史を大きく書き換えることにも踏み切りました。

 2005年9月3日の「反ファシズム戦争勝利60周年記念式典」(うろ覚え)とかいうイベントで行った重要演説の中で、胡錦涛は「抗日戦争」を、

「国民党が正面を担当し、共産党が背後を担当した」

 と表現して、戦勝の功績を国民党と中共で半分ずっこにしたのです。

 ●「新華網」(2005/09/03/17:21)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-09/03/content_3438800.htm

 そんなことは中国の歴史教科書のどこにも書いてありませんでしたから、歴史の先生たちは腰を抜かしたことでしょう(笑)。

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 そもそもこの胡錦涛演説の約半月ばかり前に『人民日報』(2005/08/15)が掲載した「評論員文章」、これは7000字に及ぶ戦勝記念重要論文ですが、ここには全く逆のことが書いてあります。

「国民党が連戦連敗で状況が悪化するなか、中国共産党の奮闘が勝利を呼び込むことになった」

 という趣旨で、「国民党」の三文字が登場するのもたった1度だけ、それも従来通りのヘタレ扱いです。タイトルからして、

「中国共産党は全民族が団結しての抗戦において精神的支柱だった」

 であり、これまた従来通りの功績独り占めです。

 ●「人民網」(2005/08/14/19:11)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3614204.html

 それが半月後には内容がガラリと変わって……いやいや、内容をガラリと改めてしまうのですから、中共政権における「歴史」というのは実に都合のいいアイテムのようです。

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 ともあれ、「歴史」の重要な部分を党中央が大きく改めたことで、教育現場も対応しなければならなくなりました。かくして「新しい歴史教科書」が制作されることになります。もちろんその主題は「愛国主義教育」で貫かれているのですが、それは従来の江沢民型ではなく、「鬼畜米英」から「ぜいたくは敵だ」に軌道修正した胡錦涛型です。

 そして、それに対する異議申し立てとして「事件」が起きることになるのですが、……遺憾ながら「事件」そのものにふれる前にこちらの体力が尽きました。申し訳ありません。寝ます。

m(__)m




「中」に続く)




コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
改めて告知しておきます。 (御家人)
2007-02-26 08:29:52
前回紹介した史料価値の非常に高い「趙紫陽本」の決定版、『趙紫陽軟禁中的談話』について。書籍流通の不備や発行部数の関係から、香港のこの種の本は「出たときに買う」が鉄則です。私の手持ちの4冊(前回)も瞬時に買い手がついてしまいましたが、辛うじて2冊追加入手できましたので、よろしければどうぞ。

http://page7.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/g54257069
http://page9.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/k39256368
 
 
 
Unknown (李牧好き)
2007-02-26 09:55:22
ぜんぜん話、違うけどテレビで言っていた、

支那系ファンド、ドラゴンファンドは米系ファンドよりえげつない、

と言っていたが、実態はどういう物なんですか?
 
 
 
またYahooですかそうですか (dongze)
2007-02-27 01:25:46
御家人さん、
神田には無いよう(><)。東方には期待しなかったけど(でも昔、胡曜邦のは置いてあったのに)。。。まあ立ち読みの多かった私が文句言えた義理ではないですが。。。。
別エントリに書きましたがダメですか?そうですか?


 
 
 
Unknown (御家人)
2007-02-27 04:43:11
>>李牧好きさん
 すみません。私はそっち方面の話題には滅法弱いのでわかりません。……あ、でも詳しい読者の方が私の代わりに答えてくれるかも知れません。
 という訳で、どなたかこの話題を展開できる方、いらっしゃいませんでしょうか?

>>dongzeさん
 またYahooですみませんm(__)m。目下のところ他にプラットホームがないのです。配偶者の友人がネットショップをやっているので間借りさせてもらおうかとも考えたんですけど、あれも所詮は娯楽ですし出品物はあまり動かないのでそこまでしなくても……と考えたりしているのです。
 神田にはありませんでしたね。内山には去年の6月に出た趙紫陽本が平積みにされていました。書籍になると入荷までどのくらい時差が出るのか……。
 台湾あたりが穴場ではないかと思うのですが、出張する予定とかありませんか?別エントリーの件、コメント読む前に手持ちを全てYahooに出してしまったもので……申し訳ありません。


 
 
 
個人的なことですが、 (ライケル)
2007-03-05 08:20:41
僕は、中国の製品は買いません。服や焼酎、お茶の葉を買う時は、必ず台湾の製品を買います。
 
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