中共政界に激震です。上海市のトップ、陳良宇・上海市党委員会書記が汚職に関与したことで解任されました。
●中共中央、陳良宇同志の深刻な規律違反問題について立案・検断を決定(新華網 2006/09/25/12:58)
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-09/25/content_5134888.htm
というのが第一報。「新華網」(新華社電子版)はもちろん、『人民日報』『解放軍報』に加え上海の地元最大手紙『解放日報』などが電子版のトップでこのニュースを報じています。大手ポータルのニュースサイトでも大きく扱われています。
いずれも新華社電をそのまま使っていることから、恐らく「新華社電掲載だけにしろ」との統制令が出ているのでしょう。それだけショッキングな重大ニュースということです。
香港紙も電子版が論評抜きで報じています。論評抜きである以上、こちらも新華社電を引き写したり要約した内容となっています。
日本の新聞は御覧の通り。『毎日新聞』の記事が事件の経緯に多少の解説が加えられており、オススメです。
●中国共産党、上海市トップを解任(読売新聞 2006/09/25/15:28)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060925i105.htm
●中国:上海市トップの書記解任 社会保障資金めぐる汚職で(毎日新聞 2006/09/25/19:01)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20060926k0000m030051000c.html
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さて、言うまでもありませんが、これはいわゆる「失脚」というやつです。陳良宇失脚。……上海閥の現地大番頭格で次代のホープと目されていただけに、今後の指導部人事に大きな影響を与えることになりそうです。
陳良宇はすでに中央入りを果たしており、中央委員ばかりでなく中央政治局委員まで兼任していたのですが、この2つのポストは停止扱い。「立案・検断」作業が完了すれば、このうち少なくとも中央政治局委員を解任されるのは確実でしょう。
当ブログでいう「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)と綱引きを繰り返してきた「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)、その「反胡連合」の主軸ともいうべき上海閥が次世代を仕切るべき有力者を射落とされたのですから、ただごとではありません。
具体的にいきましょう。「擁胡同盟」におけるポスト胡錦涛と目されているのが遼寧省のトップである李克強・遼寧省党委員会書記で、そのライバルとなるのが「反胡連合」の陳良宇、あるいはやはり上海市同様に独立王国然とした広東省のトップである張徳江・広東省党委員会書記です。
このうち陳良宇と張徳江はすでに中央政治局委員。胡錦涛は昨年の「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)で後継者たる李克強を中央政治局委員に引き上げてまずライバルたちと肩を並ばせて、続いて今年10月開催の「六中全会」(党第16期中央委員会第6次全体会議)か来年開かれる第17回党大会で党の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員に昇格させる肚だったようです。
一方であとワンランクアップすれば党中央政治局常務委員になる陳良宇を「五中全会」で閑職に回してしまおうと胡錦涛サイドは考えていたようですが、敵対勢力をねじ伏せるほどの腕力がなかったため反対派の抵抗に遭ったのか、結局人事には全く手をつけることができませんでした。
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しかし李克強を後継者として抜擢するなら、上述したように最低でも来年の党大会前に党中央政治局委員に昇格させておいて、できれば党大会で党中央政治局常務委員にしておきたいところです。
それだけに来る「六中全会」では何事かが行われるだろうとみていたのですが、「擁胡同盟」は何とその手前の段階で陳良宇を閑職に回すどころか失脚に追い込んでしまいました。
陳良宇の失脚については兆候が全くなかった訳ではありません。中央の汚職捜査チームが上海入りし、先月(8月)には陳良宇の元秘書である秦裕・前上海市宝山区長に汚職嫌疑がかかり、その勢いで陳良宇までが捜査対象になるかも知れないという観測は行われていました。
ただここまでの上海閥の動きからみて、追及は元秘書止まりでトカゲの尻尾切りに終わるのではないか、いくら「擁胡同盟」が攻勢に出ているといっても映画「アンタッチャブル」のようにはいかないだろう、というのが常識的な見方でした。
「擁胡同盟」が優勢であることから陳良宇が「六中全会」で閑職に回されることがあるとしても、それ以前に失脚させられる可能性は非現実的だとみられていたのです。少なくとも私はそうでした。以前のエントリーでもふれたことがありますね。
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中共政権において党幹部が汚職をするのは排便するのと同じくらい自然かつ当然なことなのですが、いまその汚職撲滅キャンペーンが胡錦涛主導で大々的に展開されているのは皆さん御存知かと思います。
大々的であることと本気度が高めなのがポイントです。何せ誰でもやっている汚職をわざわざ殊更に暴き立て、その罪状で処分・更迭するというのは中国における政敵抹殺の常套手段。江沢民も総書記時代にうるさ型の政敵だった陳希同・北京市長(当時)一派をこの方法で政界から追放しています。
「大々的」「本気度高め」というのは、このキャンペーンを発動した胡錦涛サイドが攻勢に出たことを示すものです。なぜかといえば、党の重要会議である六中全会(党第16期中央委員会第6次全体会議)が来月に迫っているからです。
これは世代交代や大型人事の行われる来年の党大会(5年ごとに開催)の前哨戦であり、前哨戦としては最後のチャンスかも知れませんから、「擁胡同盟」は「汚職撲滅」を大義名分にして押しまくり、「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)にコールド勝ち……するのは無理にしても、何とか大差をつけて主導権を握り、人事に手をつけたいところです。
●ザマーミロバーカ、とそっと呟いてみる。(2006/09/15)
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報道をみる限りでは、上海閥は確かに以前より攻め込まれているようです。ただ、どこまで崩されるかは「六中全会」、そして来年の第17回党大会まではなかなか見きわめにくいように思います。
●実は諸侯も苦慮していたりする。(2006/09/19)
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……という訳で、私は汚職撲滅を振りかざした「擁胡同盟」の攻勢を「六中全会」での人事権掌握を狙ったものと考えてはいましたが、まさかその目前に最大のターゲットである陳良宇が失脚するとは正直、夢にも思いませんでした。
ともあれ、大事件です。1995年9月に江沢民が政敵である北京閥の陳希同一派をやはり汚職容疑で壊滅させて以来のハイレベルな失脚人事となります。江沢民が当時まだ在世だったトウ小平の力を借りたかどうかはわかりませんが、今回はカリスマの後盾なしで「擁胡同盟」による強行人事ということになります。
小型の政変といってもいいこの動き、カリスマ不在ということであれば、武力を背景にしなければ実現できないものでしょう。胡錦涛の軍権掌握が進んでいる証拠、とまで断言していいのかどうか迷いますが、胡錦涛と軍主流派の結びつきが強化されていることは確かです。その武力を含めた政治的攻勢に江沢民も追いつめられた、といったところでしょう。
あるいは、『江沢民文選』刊行と「『江沢民文選』に学べ」運動が取引材料として使われ、江沢民はその見返りとして陳良宇を切ることに同意したのか、どうか。だとすれば『江沢民文選』発売は8月10日でしたから、7月あたりからシナリオが組まれていたことになります。でも陳良宇はその間も上海市のトップとして通常の職務を遂行し、その活動ぶりは「新華網」などでも報じられているのです。
9月19日に開かれた上海市党委常務委員会も陳良宇が仕切り、人事登用は党中央の方針に基づいて厳粛にやれ、法規に反している幹部はまず解任した後、司法に照らしてちゃんと処罰させろ。……という趣旨の演説までしています。
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-09/20/content_5112254.htm
ところが、その5日後に北京で開かれた党中央政治局で陳良宇自身が汚職関与でクビになっているのです。
●社会保障資金の不正流用
●法律を犯した職員を庇護
●地位を利用して縁故者を優遇
といった嫌疑、というより上海市に関する職務は全て解任されているので、「限りなく有罪確定に近い容疑者」扱いといっていいでしょう。……あ、申し遅れましたが、陳良宇の上海でのポストは韓正・上海市長が代行することになります。
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それにしても胡錦涛も大きく踏み込んだものです。新華社電には今回の失脚劇について、
「中央の汚職撲滅についての決意の強さを示すもの」
「誰であろうとどんな高いポストの者であろうと、国法・党規約に違反すれば必ずその罪を追求され厳罰に処される」
というくだりが出てきます。また、
「胡錦涛同志を総書記とする党中央の強靭なる指導のもと」
という言い回しもあり、上の2つのフレーズとわざわざ付け加えられた「強靭なる指導」には、事に踏み切るにあたって胡錦涛が大酒を飲んで度胸を無理やり据えたような気がしないでもありません(笑)。陳良宇を処断する、というのはそれほどの決意が必要な措置ではあります。
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上海閥にとっては致命的な打撃といってもいいでしょう。陳良宇失脚は政治勢力としての上海閥が近い将来壊滅することを意味します。次世代の有力者がいなくなったことで世代交代が行われず、言うなれば後継ぎがないため御家断絶、となるからです。胡錦涛が後継者指名権を掌握する上で大きく前進した、ともいえるでしょう。
ただ、逆にいえば「ただそれだけ」ということなのかも知れません。政治勢力としての上海閥は潰したも同然なれど、これで経済的な独立王国という一面も胡錦涛の統制下に入ることになるのか、また他の地方勢力も陳良宇の失脚で粛然とし大人しくなってしまうのか。……このあたりは注目に値すると思います。
政治的には「擁胡同盟」がかなり優勢ではあっても、経済的には各地方勢力が開発欲求そのままに突っ走り、中央は自ら定めた予測を大幅に上回る実質成長率に仰天して火消しに大わらわ、というのが現状です。その「地方勢力」にしても、実際に暴走しているのは省・自治区・直轄市レベルではなく、郷、鎮、県といった末端レベルであるケースが多い模様。
以前にも書きましたが、経済面では「中央vs地方」といった利害対立による反目が存在するのと同時に、各地方勢力も「省当局vs県当局」といった「内なる中央vs地方」をそれぞれ抱え込んでいます。これがさらに激化すれば今度は「地方vs地方」という図式も出現するでしょう。
陳良宇を失脚させた胡錦涛政権が経済面でも中央としての指導力を発揮できるかどうか、その鉄腕度が試されることになります。個人的には、今年の経済をうまく御することができるかどうかが胡錦涛政権の今後に影響する、いや中共政権の死活に関わる、と考えています。
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あとは続報待ちです。上海閥ひいては「反胡連合」としての反撃が行われるのか、鉄砲玉が飛び出して無茶をするのか(東シナ海ガス田の問題海域近くでの海軍による示威行為など)。
あるいはこのまま経済ともども中央に仕切られてしぼんでしまうのか、陳良宇からさらに芋づる式に大物が汚職容疑で潰されていくのか。
……「六中全会」の幕が開く前からいきなり見どころ満載の展開に、こちらはオロオロするばかりです(笑)。
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往年のヤクザ映画の抗争シーンを見るようですね。
ところで、御家人さん、以下文で「御する」をもう少し具体的に書いていただくと、どういう意味でした?
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個人的には、今年の経済をうまく御することができるかどうかが胡錦涛政権の今後に影響する、いや中共政権の死活に関わる、と考えています。
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統御する=マクロコントロールで経済過熱を抑え、また地方ごとの経済割拠的な状況も回避させる、という意味です。
中国は構造的に経済成長率が高まるほど貧富の差や地域間格差が拡大していくようになっています。走れば走るほど「調和社会」から遠ざかり、社会状況が悪化していきます。しかし手綱を引き締めるのも難しいのです。第一に分権化が進んで中央による統制力が落ちているということがあり、第二に雇用創出の問題にぶつかります。特に今年は当局も認める空前の就業難。進も地獄なら退くも地獄で、最悪の場合、下手な経済運営により各地で武警さんの出番が増えてあらえっさっさー、てな可能性もあります。
経済割拠的な状況というのは……中国では一部の産業の生産能力過剰が問題になっています。鋼材やセメントなどが典型例ですが、あれは往々にして各地がそれぞれ鋼材やセメント生産に手を出すから発生する状況なのです。確か「小而全、大而全」と中国語では呼ばれていたかと思いますが、どの地方も川上産業から川下産業まで全て自前で自己完結させようという一種本能的な欲求があるので、全国レベルで俯瞰するとあちこちで「かぶっている」訳です。これは資源の浪費や争奪戦による価格高騰、また資源の配分権を持つ官僚の汚職の温床ともなります。
むろん「自己完結」は外地からの製品流入拒否・排斥といった地方ごとの保護主義に発展していきますので、悪化すれば容易ならぬ事態となります。また経済的割拠がごく自然に政治的割拠感を育むことにもなるので「また地方のエゴか」と笑って済まされないのです。一部の末端レベルではすでに立ち腐れ的(というか村落ごとの半土匪化)な状況が起こっているようですし。
今年は5年に1度行われる地方幹部異動年ということもあって、新年早々から地方主導の経済全力疾走状態(「成長率up=査定up」信仰)。すでに生産能力過剰問題が指摘されていますし、過熱懸念・割拠懸念に加えて就業難ですから、中央にとっては経済運営難度の高い年ということになります。農閑期になればまた暴動が増えるでしょうし。……「御する」とは、こういう難しい状況を上手に乗り切れるかどうか、ということです。
だんだん擁胡同盟と反胡連合の綱引きの振れ方が大きくなってきている気がするんですが・・・。
ブログの下の方にありましたけど、ガス田や尖閣とかで中国国内の政争のために日本に火の粉がかかるのは迷惑ですね~。
安倍新政権の出鼻を挫く意味でも何か仕掛けてくるんでしょうか。
とりあえず、中国毒野菜の報復の意味か日本製品に難癖付けて輸入禁止を乱発しているみたいですけど。
間違いないと思われますがどうもやり方がお粗末ですね。
胡錦涛の政策との矛盾も見られますが。
まず、SK-2は日本の化粧品ではないのですが、報道では日本製を強調して
日本製全体に対するネガティブキャンペーンを行っているようですね。
しかし、これは中共にとってもかなり副作用をもたらす恐れがあります。
1、過度に反日を煽るのは反共になりかねない。
2、無闇にチャイナリスクを増大させ外国の投資を抑制しかねない。
3、危険で無い物を危険と言い張ることで反撃の機会を与えてしまう可能性がある。
現に台湾と香港政府が早々に危険性無しとの発表をしてますし、
とうとう香港ではこんな報道まで。
http://www.sankei.co.jp/news/060925/kok007.htm
これは発表は間違いでしたなどとは口が避けても言えないが
これ以上問題が広がるのもまずいのでこれで終わりにしようとの意図とも思えますが、
どちらかというと中共のあまりにお粗末なやり方に対する香港当局の皮肉のような気がします。
日本としては当分様子見だと思われますが
胡錦涛はこの騒動にどう決着をつける気なのでしょうか?
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1159108366/
恋姫無双 ~ドキッ★乙女だらけの三国志演義~?
平成18年(2006年)9月27日(水曜日)
陳良宇・上海市書記が失脚。胡錦濤、ついに「江沢民残党」を一斉追放へ
政治局員の失脚は11年ぶり、政治激変の兆候か
http://www.melma.com/backnumber_45206/
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060926id21.htm
中国共産党による陳良宇・上海市党委員会書記解任に伴い、書記代理に就任した韓正・市長が、25日、胡錦濤指導部に服従する立場を表明していたことが分かった。
26日付の同市党委機関紙・解放日報が報じた。
今回の解任を通じた胡総書記の基盤強化が着実に進んでいることを物語るものといえる。上海の服従は、地元の発展を優先する傾向が強かった各地方の動向にも大きな影響を与えそうだ。
(引用終わり)
はてさて、どうなることやら・・・
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