(シリーズ「08憲章」【6】へ)
「08憲章」に対する日本側の報道について「otsu-desu」さんよりコメントを頂きました。ちょうど良い機会なので、私も自分の考えを述べさせて頂くことにします。
◆守護言論自由(otsu-dosu) 2008-12-19 16:07:15
産経がネットの記事で、08憲章に関してネット規制は殆ど行われていないような報道を行っていましたが、それはたぶん「大嘘」です。
別の記事や「現地報告」よると、かなり早い段階で大量の記事が削除されていたそうです。
ですので、憲章の全文自体を読んでいない人や、憲章の存在自体を知らない人も多いでしょう。
憲章自体を知らない労働者も多いでしょうから、そういったものに触発されてどうのという事すらないのかも知れません。
>その先にあるのが「08憲章」がいうような「民主国家への平和的な変革」などでないことは確かです。
やはり、共産党内改革派による政治改革を求めた昔の学生は賢明だったと思います。
●ネットは「中国式民主主義」を生むか?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20081111/176863/
●ネットに放たれた中国政府の「ボランティア」たち
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20081120/177880/
●やはり現れた、ネット文化革命「08憲章」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20081217/180548/
産経新聞の書いた大嘘記事
【ちゃいな.com】中国総局長・伊藤正 歴史的な一石になるか
http://sankei.jp.msn.com/world/china/081219/chn0812190336001-n1.htm
otsu-dosuさん、引用されている記事に目を通しました。『産経新聞』電子版記事、署名コラムですから執筆者の主観が前面に押し出されたものとなります。ネット規制に関する印象も人それぞれですから、それはそれでいいのではないかと。otsu-domさんが御指摘の、
「中国指導部は、憲章のネット情報をほとんど規制しておらず、一党独裁を揺るがすことはないと踏んでいるようだが」
という部分も執筆者が受けた印象によるものでしょう。私はこの見方に同意しませんが、「大嘘」と激語する必要もないと思います。余り血圧を高くしてはいけませんよ。
それから、
「共産党内改革派による政治改革を求めた昔の学生は賢明だったと思います」
という見方には賛同しかねます。民主化運動終息後、
「結局は学生と知識人だけの運動だった。一般庶民を取り込むことができなかった」
という反省が少なくとも私の周囲の学生リーダーたちの間にはありました。私もこれには全く同感です。
ところでこのコラムに限らず、日本のマスコミの「08憲章」に対する報道の仕方自体に私は誤りがあると考えています。
記者は「08憲章」を指でなぞるように精読したのでしょうけど、それが祟って、このコラムを含めて天安門事件などを引き合いに出しつつ「民主化だ民主化だ」という線で「08憲章」を位置づけています。
問題のコラムの冒頭に天安門事件当時の描写が出てくるのは象徴的です。
――――
私が思うに、「08憲章」を民主化運動の流れで理解するのは致命的な誤りで、今後の事態の推移をいたずらに読みにくくするものではないかと。
いま現在、そんな悠長なお題目を唱えている余裕は中国社会に残されていません。全国各地で毎日、「官」に対する何らかの抗議活動が行われているではありませんか。せっかく現地在住なのに、その方面への考察が甘過ぎますね。
「憲章への署名者は当初の303人が1週間で5000人を超えたが、学生はほとんどいない。2005年春の日本の国連安保理常任理事国入りに反対するネット署名では、数日で200万も集まった。憲章に賛同していても、政治的リスクには敏感なのが、青年層の当世気質なのである」
という一節も執筆者らしからぬエラーであるように思います。当局肝煎りのネット署名と、今回のように明らかに反体制をうたった声明に対する署名は根本的に質が異なるものです。せめて「200万人も集まった」ネット署名が事実上官製であることに言及してほしかったところです。しかも、
「学生はほとんどいない」
という事態の把握の仕方に、結局のところ1989年の民主化運動~天安門事件を想起しつつ今回の動きを捉えているように思います。
以前に指摘していますが、現在の中国社会に「08憲章」が投下されたことで起きる作用は「民主化」ではなく「導火線」だと私は思います。
このあたりは見解の相違、というところですが、問題のコラムは何やら通り一遍にやっつけ仕事をしました、という感じで、もう少しマトモな内容であってほしかったです。『産経新聞』は日本のマスコミの中でも「08憲章」を追いかけている貴重なメディアですけど、このコラムに費やした紙幅を、北京で奮闘している野口特派員に回してあげて欲しかったです。
あるいは、米国や香港の特派員に発起人で拘束された劉暁氏に近い筋へのインタビューに充てるべきだったと思います。発起人のひとりとみられる余傑氏が帰国したことを受けて北京の空港あたりで通り一遍の話を聴く程度でお茶を濁すつもりなのでしょうか。
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皆さん御存知の通り、私は素人です。それでも著名なチャイナ・ウォッチャーで香港誌『開放』編集長・金鐘氏にインタビューすることができました。
インタビューを申し入れOKをもらったのが「08憲章」発表の翌日で当ブログにおける第一報となった12月10日(エントリー発表前)であり、金鐘氏からの回答を受けて記事の体裁を整えたのが「08憲章」発表の2日後。当ブログでそれを発表したのは翌12月12日です。
ちなみにインタビューで言及しているように、金鐘氏は「08憲章」宣言について「こんな感じでどうか?」という草稿が回ってくるほど発起人に近い立場にあります。
インタビューに踏み切ったのは、現今の中国の危険な社会状況にあって、「08憲章」が単なる書斎派による浮世離れした民主化綱領ではなく、その中に私がいう庶民受けしやすい「ポップな部分」、すなわち、
●社会から公正さを失わせた中国共産党による一党独裁体制への批判。
●一党独裁制によって必然的にもたらされる党幹部の汚職、特権ビジネス、様々な横暴に対する断罪。
●一党独裁制の終結要求。
……が含まれていたからです。これをいま現在の剣呑な中国社会に放り込んだら、何が起きるか、わかったもんじゃありませんから。
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春のラサにおけるチベット人弾圧の際にも書きましたが、私は中華人民共和国において一党独裁体制が終結し民主化して多党制と普通選挙制が実現して……などという寝言というか脳内お花畑な期待は微塵も持っていません。
ネット署名はあくまでもネットというバーチャルな世界のもので、現実世界とは違う、という見方もあるようですが、中国はそんな甘い国ではありません。いかにネット署名であれ、「08憲章」のような反体制的な内容の文書に賛同するという意思表示を行うことは、最悪の場合、現在の生活を捨てる覚悟を伴うに等しい行為です。
それなのに、『08憲章』は5000人を超える署名を集めている。尋常ならざることです。また、それを現出せしめたのは中国の経済・社会状況が尋常ならざることをも示していると私は思います。
ちなみに、「otsu-desu」さんがリンクをはった他の記事についても、私個人は認識のズレを感じています。中国のネット事情に関する紹介は悪くないと思うのですが、
「やはり現れた、ネット文化革命『08憲章』」
など、この著者が自分の長所として強調している中国問題とか庶民レベルでの感覚に対するカンとか経験値ってどれほど意味があるのでしょう?直観やセンスというものは、自称プロの方々にのみ宿るものではありませんし、経験値が邪魔をして事態の本質を見誤る場合もあるのです。
とりあえず、日本の大手新聞社などによる「『08憲章』=民主化」という単細胞ぶりには辟易しています。見解の相違と生意気を承知で申し上げますが、プロの皆さんの猛省を促しておきます。……あ、応援歌というタイトルですから「プロの皆様方、各員一層奮励努力せよ」とするべきでしたね。
それから日本政府。米国のように劉暁波氏の拘束について一言あってもいいと思うのですが。
(シリーズ「08憲章」【8】へ)
そして、血圧の心配ありがとうございます。
幸い真冬でも上が100程度なので、血管が俄かに切れる事はないかも知れませんが、以後気をつけます。
やはり、一時的にせよ憲章文の猛烈な封鎖を行う、googleや百度でヒットしにくくなるよう工作する、署名関連サイトやメールアドレスに対してサイバー攻撃を繰り返す…こういった事は「猛烈な規制」と言えるでしょう。
しかしそれは、あくまでも「国際社会の基準」で考えた場合であり、「中国の基準」では、それでも「規制が殆ど行われていない」状態なのかも知れません。
また、そう思えてしまう事自体が「異常」なのかも知れません。
>日本の大手新聞社などによる「『08憲章』=民主化」という単細胞ぶりには辟易しています。
私もポップな部分がとんでもない方向へ行く事を少し心配しています。
また、日本のメディアは、動乱や日本国内で支持が広がる事を懸念して沈黙しているのかも知れませんが、それはやはり民主的ではありません。
“様々な角度”から「客観的」に報道をする必要性を感じます。
追伸:土曜の朝っぱらから失礼しました。
劉暁波氏の拘束は別にして、今回、その本質を伺わせるアクションが無い(と思われる)ことが、自分としては、規制のレベルが高くないと感じる一番の理由です。
憲章の当事者と接触することのリスク、報道がこの運動に与えてしまう影響等について考慮すると、記者にとってはこの件についての報道は、当局の対応が曖昧なのと同様に、現時点では難しいものがあるのかなと。
「客観的」とは真逆でしたが、福島記者のブログは、そういう状況に対しての記者=プロとしての実験的で挑戦的な試みとしてドキドキするものがありました。
対して「素人」を標榜する御家人殿は遊撃手として、幕末に例えるなら脱藩浪士ならではの、今回のご活躍ではないかと感じており、今回のエントリーは少し意地悪だなあとにやにやしてしまいます。
まあ、単なる雑感ですが、日本のブログは08憲章への関心が非常に高い気がします。私は英語圏の中国ブログもたまに見るのですが、08憲章への言及があまりないんですね。取り扱っているところもいくつかあるのですが、著名ブログは押しなべて無視している気がします。もちろん、中国でブログを書いている人もいるので、08憲章に触れるのは難しいという事情もあると思います。逆に、フランス語圏の中国ブログは日本と同様、反応が早いと思いました。まあ、英語にしろフランス語にしろ、全てのブログをチェックしているわけではないので断定的なことは言えませんが。
御家人さんのところにもいくつかトラックバックが来ていますが、中国を専門に取り扱っているブログのみでなく、それ以外のブログも08憲章をテーマに書いているのが私には興味深く感じられます。今の日本は、中国に対する関心がそれだけ高いということではないでしょうか。欧米の人間は一般的にここまで中国に興味がないですね。日本のメディアを多少弁護する(?)ならば、海外のメディアもそれほど08憲章を追っていないと思います。さすがにNYTはいくつかの記事で触れていますが。
おそらく、08憲章に対する海外と日本のブログの違いは、能動的かどうかという点ではないでしょうか。08憲章に触れている海外のブログは基本的に、「中国でこれこれこういうことがあった。以上」という事実確認に止まっています。日本のブログのように、憲章から何か意義を見出そうとか、自国と比較しようとかいう素振りは見えないですね。逆に、それだけ冷静と言えるかもしれませんが。
長くなりました。恐縮です。
>憲章の当事者と接触することのリスク、報道がこの運動に与えてしまう影響等について考慮すると、記者に
>とってはこの件についての報道は、当局の対応が曖昧なのと同様に、現時点では難しいものがあるのかなと。
そんなことはありません。某紙など平時は政治犯として獄中にある胡佳氏の自宅を訪ねてインタビューをしたりしているのですから。「外国人記者と接触した」ことで夫人が処罰される可能性も大きいのです。夫人が逮捕されたら当該新聞社は責任をとれるのでしょうか?
「08憲章」が出たから急に大人しくなるとは誠に不可解。被取材者の迷惑を考えるなら、私のように香港、あるいは米国在住の発起人に近い筋にあたるべきではないでしょうか。つまらんコラムよりインタビュー記事が読みたいです。コラムを掲げるほど「08憲章」に注目しているんだったら、とっととインタビューしろよ、と。もう「08憲章」が発表されて10日以上経っているんですから、ヤル気があるならとっくにやっている筈でしょう。
それから、素人は素人で結構リスクを背負っているんですよ実は。「記者にとって取材対象、そして記者自身と所属する会社とその業務が人質に取られている」という言い訳が使われるとすれば、それは逃げ口上にすぎないと思います。
これはもうあれですね、記者が匿名でブログを立ち上げなければならないということでしょうか。
――――
>>歩厘さん
いつも欧米関係からの情報提供、ありがとうございます。m(__)m
「08憲章」についてのブログの反応ですが、某ブログがやたら騒いだ(笑)ことを差し引くとしても、基本的に隣国、しかもマトモでない隣国での出来事ですから、関心を持たざるを得ないという点はあるかと思います。
あとは歩厘さんがチェックなされたブログの種類にもよると思います。当ブログのように中国観察メインであれば、多少の反応があるのではないかと。まあ中国語が読めないのであれば、今回のような突発的事件に対して手に出来る資料に限りはあるかも知れませんけど。
誘拐事件なら、捜査を公開で行うか、否か?
人質立てこもり事件なら強行突入するか、否か?
という際に必要な、おおっぴらに動くことでの人質への危険予測が、今回の件は話が大きすぎて判断できず、及び腰で固まっているのではないかと邪推しています。
(人質=現体制とすれば、当局も同じように腰が引けているのではないかと)
根本的なところで日本のマスコミ各社にとっての人質は何なのか?
取材対象や運動についての配慮なのか?
各記者の職業人、また、個人としての身の安全?
本当に犬HKなの?朝鮮日報なの?
という疑問はありますが。
(人質云々については、マスコミのみならず、規模の大小問わずこちらで活動している他業種も、少なからず同じであり、自分も同罪ですが)
>素人は素人で結構リスクを背負っているんですよ実は。
戦場報道では、大手マスコミ記者は企業方針として後方に回され、最前線での取材はフリーランスの記者が活躍していると聞きます。
企業としては至極全うな判断であり、フリーランスとの連携、住み分けが上手くいけば、それなりによい仕組みではないかと思います。
それに対し、戦場のような目に見えての危険は少なくとも、言論人にとって常在戦場ではないかと思われるこの国では、戦場報道におけるフリーランスのような成分が不足していると感じつつ、また、このフリーランス成分を、御家人殿のブログから嗅ぎ取っております。
上記、全く門外漢である自分の勝手な妄想ですが、失礼を承知で更に重ねるなら、今回のインタビューに続き、顔写真云々というコメントを読み、更なるリスクを覚悟の上で、一線を越えてしまわれたような印象を感じております。
>おおっぴらに動くことでの人質への危険予測が、今回の件は話が大きすぎて判断できず、及び腰で固まっているのではないか
発起人のひとりとみられる余杰氏が帰国した際、テレビ局を含む日本メディアが北京空港?かどこかで話を聴いています。及び腰というより「せめて何かネタが得られれば」という姿勢のように私には感じられます。
>戦場のような目に見えての危険は少なくとも、言論人にとって常在戦場ではないかと思われるこの国では、戦場報道における
>フリーランスのような成分が不足していると感じつつ、また、このフリーランス成分を、御家人殿のブログから嗅ぎ取っております。
日本語媒体において、私はプロではありません。どこかに雇われて動いているとか、社名でブログを書くとか、文章に原稿料が出ることもありません。専門の研究者ではないということも含めて、そういうニュアンスで「素人」という言葉を使っています。
日本のマスコミが伝えない中国情報を、その真偽はともかくブログにて紹介しているという点では、御指摘の通り「フリーランス成分」ということになるのかも知れません。ただ中国国内からアクセスできるという点で、当ブログはまだ「大毒草」と当局からみられていないのでしょう。泳がされているのかも知れませんが(笑)、本当に「大毒草」なら即座にアクセス禁止となる筈ですから。
>今回のインタビューに続き、顔写真云々というコメントを読み、更なるリスクを覚悟の上で、
>一線を越えてしまわれたような印象を感じております。
これはですね、そんな深刻な問題ではありません。私の顔写真、香港でも台湾でも、掲載誌はもちろん、新聞を含めて結構出回っています。うまくぐぐればいまでもネット上でも見ることができます。私は副業ながら、中国語媒体においては書いたものに必ず原稿料の出るプロですから、営業の意味も込めて(笑)、掲載先に求められれば顔写真やプロフィールはどんどん出しています。撮影込みの取材も受けています。ただ掲載誌とライバル関係にある雑誌の連中と仲良くしているところを撮影するのだけはNGです。
別にサブカルチャーのことだけ書いている訳ではありませんから、リスクが伴うということは先刻承知。ただ現在までのところ、私の気付いている範囲内では迫害されてはいないようです。書いている文章も「大毒草」というほどのものではありませんし。実際「大毒草」に値する文章を書くほどの実力は、私にはありません。
ご丁寧な返信を有難うございます。
自分の邪推が、いろいろ詮索するようなことになってしまい恐縮です。
当局に目を付けられもしアクセス禁止になったら困るなあと、複雑な心境ですが、ますますのご活躍、勝手ながら期待しております。
今日も中心部に行きましたが、華やかなクリスマスツリーの横で「里に帰るお金がないんです。。」とワーカー風の二人組みに話しかけられました。
身近でも盗難、引ったくりの話も聞き、また、香港系、台湾系に続き、そろそろ日系企業の整理統合、撤退の噂も聞こえてきており、この不景気に寄る変化が、旧正月の民族大移動で、どういった化学反応を起こすのかと、08憲章抜きにしても、自分としても注意していきたいところです。
香港は明日からクリスマス休暇、休日に関しては一国二制度を貫いていて羨ましいです。
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