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つれづれなるままに。

標的はひとり

2005年06月12日 | Book Review
標的はひとり(大沢在昌)

日本という国を維持するため、決して表沙汰にされない仕事を請け負う機関がある。「研修所」と呼ばれるその機関は、国家に危機をもたらすと危惧される人間を人知れず排除する。加瀬崇、38歳。彼は「研修所」に所属していた、元殺し屋である。

ある事件をきっかけに心に傷を負い、組織から身を離していた彼に、かつて恋人であった三津子から連絡が入った。彼女は石油ビジネスで確固たる地位を築く出雲興産の会長夫人となっていた。夫の依頼を加瀬に頼むため、彼女は加瀬とコンタクトを図ったのであった。

出雲はテロに巻き込まれて命を失った孫の仇討ちを加瀬に依頼した。その対価は、現金5000万円と組織から離れた今も尚続く「研修所」からの監視の解除。職務から離れもはややり遂げる自信もなく、また心の傷も未だ癒えていない加瀬は当初断ろうとする。だが、ターゲットについての情報を得ることで彼なりの動機を見出した加瀬は、その依頼を引き受けることにした。

ターゲットの名は成毛。全世界を転々とし、無差別にテロを繰り返す、目的のために人の命を奪うことに良心の呵責のない機械のような男である。加瀬は同じく人を殺めてきた男と対峙することで、自らの存在意義を見出そうとするのであった――。

全体に心理描写が多く、物語のテンポは今ひとつよろしくない印象。だが、その反面人間描写は巧みで、キャラクターが立っている。立ち回りよりも人間描写に力を入れた作品であるため、やや拍子抜けというか、肩透かしされた印象を受けてしまった。もうちょっとカタルシスが欲しいのが正直なところかな。

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