Zooey's Diary

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老いは平等に…「「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

2012年04月11日 | 映画


予想と随分違った作品でした。
鉄の女と呼ばれたサッチャー元英国首相の、栄光に満ちた政治人生を描いた映画と思いきや、
認知症を患った老女の回想シーンで話は進むのです。
とうに亡くなった夫デニスの幻想と対話する老女の表情は、
あくまでも悲しい。
一国の首相に登りつめたことで犠牲にしてきたものも多い。
おそらくは、家族をないがしろにもしてきたのであろう。
夫も、双子の子どもたちも。
そのことで自分を責め、亡き夫に問いかける。
「デニス、あなたは幸せだったの?」と。

オックスフォード大を出たとはいえ、小さな食料品店に生まれた娘が
あの階級社会の英国でどうやって首相を目指すようになったのか、
その背景に興味があったのですが、そこはさらりと描いてあっただけでした。
同じ年頃の女友達がお洒落して出かける頃にも、彼女はガリ勉と呼ばれながら
ひたすら勉強していたらしい。
初めての選挙、下院議員選に敗れた時、若かりしデニスにプロポーズされるのですが
その時の彼女の答えが奮っている。
「イエス。でも私は、お皿を洗うだけの女にはなりたくないの」
そしてデニスは、そういう君だから愛しているんだと答え、
めでたく二人は結ばれるのですが…



首相だった頃の回想シーンも多いのですが
それよりも圧倒的に老女として彼女は登場するのです。
もっこりと丸まった背中、皺だらけの首筋、しみだらけの手。
動作もぎこちなく、そして絶えず幻想や幻聴に苦しむ姿。
過去の威厳に満ちたスピーチのシーンが重なると
その落差に胸が締め付けられます。
英国病に苦しんでいた経済を上向きにした輝かしい業績や
フォークランド紛争に勝利して大歓声に包まれるシーンも挿入されるのですが
華やかであればある程、今の惨めな姿との違いが浮き彫りにされてしまう。



たった一つの救いは
終盤、年老いた彼女が自分一人飲んだお茶のカップを洗うシーン。
思うように動かない身体と震える手で、自分一人飲んだお茶のカップを静かに洗う。
静かな台所で、小鳥のさえずりや近所の子どもたちの遊ぶ声に
そっと耳を傾ける。
そこで時間は一瞬止まるのです。
そんなありふれた日常に、心が少し安まるように感じるのです。
「お皿を洗うだけの女になりたくない」と宣言した彼女が
そこでほんの少し救われるようになるとは、皮肉な話です。

原題は「The Iron Lady」。
その強い題名とは裏腹に、
一国の首相であろうと名もない人間であろうと
老いは平等に訪れるのだということを実感させられた映画だったのでした。

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」 http://ironlady.gaga.ne.jp/
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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (matsubara)
2012-04-12 10:03:36
ようやくこの映画が本日から岐阜で
上映されます。
動員人数が少ないと上映は即中止
されますので早めに行かないと・・・
と言う訳でいつまでの上映かは未定だそうです。
ここも競争の世界です。でもこの忙しさでは
いつ行けることやら・・・
返信する
Unknown (hiro)
2012-04-12 10:15:32
zooeyさん、おはようございます♪
この映画は公開される前からみたいと思って
いたのですが、まだ見ていません。
英語のお仲間で、元小学校の校長先生を
されている方がいらっしゃるのですが、
公開されるとすぐに見に行き、感想を話され
ていましたが、サッチャーさんと自分の
姿が重なって切なかったとおっしゃっていました。
何故、と思いましたが、zooeyさんの解説を
読んでよくわかりました。
私も早く見に行かなければ・・・
返信する
Unknown (くっちゃ寝)
2012-04-12 14:26:03
この映画、一人の女性が首相にまで上りつめた、
いわゆるサクセスストーリーを描いた映画だと思ってましたが・・・
違う角度から描いているのですね。
以前、鉄の女と言われたサッチャーが認知症だと知ったときは本当に驚きました。
確かに、老いは誰にでも平等に訪れるものなのですね。
過去の業績が華やかであればあるほど、つらいだろうなあ。

zooeyさんのブログを読んで、この映画がとても見たくなりました。
地元では上映しそうにないので、DVDが出るのを待つことにします。
返信する
matsubaraさま (zooey)
2012-04-12 21:28:23
非常に淡々とした作品です。
あの派手な予告編や宣伝とはまるで趣が違う…
それはそれで味があるのですが
ヒットするとはとても思えないので
早目に終わってしまうかもしれませんね。
返信する
hiroさま (zooey)
2012-04-12 21:38:49
その元校長先生がおっしゃること、
分かるような気がします。
もう少し若い私でも非常に辛いものがありましたから…
英国の現代の政治劇を観たいという期待は裏切られましたが
権力の座に登りつめた女性の生涯を描いたものとしては
見甲斐がありました。
ただ、どうにも辛いのですよね…
返信する
くっちゃ寝さま (zooey)
2012-04-12 21:48:13
私もサクセスストーリーだと思っていたのです。
まあ、ある意味そうなのですけど
それが語られるのが、ボケが進んだ老女の口からなのですから…

認知症についての本や映画を少しばかり齧ってみましたが
中でも小説家丹羽文雄の娘、本田圭子の本が胸を打ちました。
二羽文雄もその妻も、つまり彼女の両親は二人ともボケてしまったのです。
その壮絶な介護日記、しかも彼女は早逝してしまったのですよね。
返信する
コメントありがとうございました♪ (テクテク)
2012-04-13 10:40:13
こんにちは
確かにこの映画は彼女の苦悩を描いているような作品でしたよね

今では女性が政界へ進出する事や
社会のリーダー的ポジションにつく事も
不思議ではない世の中になりましたが
あの時代は同性からも異性からも好奇の目で見られたり
精神的にも大変だったと思います…

そんな中で頑張ってきた女性を題材にしている作品なのに
なんだか悲しい作風になっていた事に対しては
私も女性の目線として複雑な気持ちで観ていました

ところで…
この映画と同様にアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた
「マリリン 7日間の恋」はご覧になられましたか?

こちらの映画も華やかな表舞台で活躍した
マリリン・モンローを題材にした作品ですが
そこに描かれている彼女の姿を観ていると
この映画と同じく…
ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました

歴史に名前を残すような活躍をした女性たちが
こんなにも悲しい表現をされる映画を観ていると
角度を変えて物事を見る事の大切さや
女性にとっての「幸福感」について
改めて問いかけられているような気分にもなります…
返信する
テクテクさま (zooey)
2012-04-13 21:56:11
イギリスというのは本当に階級社会なのだということを
本を読んだり映画を見たりする度に
あるいはほんの少し旅行をした際にも実感しました。
その国で、下層中産階級出身の彼女があそこまで登りつめるということがどれだけ大変なことかと思います。
それなのに…という感じですよね。

認知症という病気の実態を世に知らしめたという意味では
成功したのでしょうが…
この監督、女性なのですよね。
そのせいかサッチャーを見る目が厳しくもあり、優しくもあり…

「マリリン 7日間の恋」は未見です。
セクシー・シンボルと言われたマリリン・モンローにはあまり興味がなかったのですが
テクテクさんのコメントを読んで興味が湧いて来ました。
返信する
Unknown (慕辺未行)
2012-04-13 23:53:01
こんばんは (^o^)/
映画は見ていませんが、『鉄の女』と異名をとったサッチャーさんでさえも、認知症に罹ったのですか?!
私の母も、日々毎日繰り返していることでさえ、忘れてしまうほどです。
一晩寝ればすべて大昔のこと・・・、と言っても過言でないほどボケが酷いです。
「あのサッチャー元首相でさえも・・・」と思うと、なんか妙に納得してしまいます。変な考え方でしょうけど...ね。
返信する
慕辺未行さま (zooey)
2012-04-14 10:23:37
私も、サッチャー女史が認知症と知った時はショックでした。
映画の中ではまだ、正気の時が多い”まだらボケ”状態でしたが
今ではもっと進んでいるでしょうから
この映画を見ることもできないのではないかと思います。
イギリスで非常に有名な作家アイリス・マードックも
やはり認知症を患っています。
そう、お母さまだけじゃありませんよ…
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