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うさこさんと映画

映画のノートです。
目標の五百本に到達、少し休憩。
ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0419. ブラディ・サンデー (2002)

2013年10月30日 | ベルリン映画祭金熊賞

ブラディ・サンデー / ポール・グリーングラス
107 min UK, Ireland

Bloody Sunday (2002)
Written and directed by Paul Greengrass. Cinematography by Ivan Strasburg. Performed by James Nesbitt (Ivan Cooper), Tim Pigott-Smith (Major General Ford).



『英国王のスピーチ』や『サッチャー』といった、事実上イギリス国家の宣伝物にあたる口あたりのいい作品を “ただ娯楽として愉しむ” ことはもちろんできる。でもそのときは、いっぽうで『麦の穂を揺らす風』や、この『ブラディ・サンデー』も思い出したい。歴史についての異質な報告をつうじて、わたしたちを(少しは)おとなにしてくれそうな気がする。

『ブラディ・サンデー』では、デモに参加したふつうの市民を軍が十数人も射殺したうえ、死者の罪状まで捏造していった実話が再現されていく。そんなことをしたのはポルポト政権だろうって? いいえ、イギリス政府です。当時の首相はエドワード・ヒース。

この「血の日曜日」事件は1972年1月30日に、北アイルランドのデリーで起きた。けれどそれを引き起こしたメカニズムそのものは、世界じゅうの政府と軍に共通しているように思う。彼らのうちに潜在する本質的な傲慢は、組織だった強力な殺戮手段と結びついているからだ。

起こるべくして起きた事件だったと、監督のポール・グリーングラスはいう。観た側にもそう思えてならない。言語道断の行為だけれど、最も言語道断なのは、これがどこであれ起こり得るということではないかと思うのだ――いま、このときも。その普遍的警告こそが、この作品の最終的な価値に違いない。2002年ベルリン映画祭金熊賞。『千と千尋の神隠し』との同時受賞だった。すばらしい選択に深く賛同します。

グリーングラスは、このあとアクション作品『ボーン』シリーズの第二作(2004)、第三作(2007)を手がけていく。揺れるハンディカメラと短いカット割りを速射のように重ねたあのスタイルは、ここですでに原型が完成されている。たとえば作中、記者会見の場面といった動きの少ない固定アングルのシーンでも、あえて出席者の頭ごしに撮影して「会場の一番うしろで撮ったビデオメモ」と感じさせるドキュメンタリー風の演出がとられていた。いっぽうで、ひとつの場面全体を通す長回しも使われて「特定の人物を背後から追いかけた記録映像」の臨場感を出している。撮影を担当したアイヴァン・ストラスバーグとグリーングラスは何度も仕事をしていて、おたがいにわかっているのだという。

現場らしい空気を伝えることに成功したもう一つの要素は、キャスティングにちがいない。登場する北アイルランドのひとびとはみごとな現地語で、そこにさらに若者言葉が加わる。なにを言っているのかほとんどわからないという、その臨場感に圧倒される。実際に土地の青年たちを起用することで一種の追体験を醸成し、いっぽうで軍の兵士を演じているのも軍出身者なのだという。たしかに動作が熟練していた。撮影はダブリン郊外の街。デモに参加した人びとの日常をえがき、恋人や家族とのやりとりを入れておくことで、喪失感は増した。最後に読み上げられていく死者の名前と年齢。その若さがいたましい。

映画が発表された8年後の2010年、事件そのものと軍の偽証についてイギリスのキャメロン首相が謝罪している。



メモリータグ■エンディングに流れる曲はU2, Sunday, Bloody Sunday.







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