102 min USA
The Thomas Crown Affair (1968)
Directed by Norman Jewison, written by Alan Trustman. Cinematography by Haskell Wexler, music by Michel Legrand. Costume Design by Theadora Van Runkle (Miss Dunaway's wardrobe designer). Performed by Steve McQueen (Thomas Crown), Faye Dunaway (Vicki Anderson).
お話はご愛嬌として、服が愉しかった。主演は絶頂期のスティーヴ・マックィーン、ひたすらスタイリッシュでリッチで頭がよくて、完全犯罪を二度もやってのけるという「ありえない」役回りをつとめる。当時の性格俳優としてアウラを放っていたフェイ・ダナウェイと二人でさまざまなファッションを披露していた。
このあと爆発的に饒舌になる1970年代のモードとくらべると、60年代のスタイルはいかにも端正。薄いラペル、直線的なカット、スリムなライン、カマイユーの配色。当時のモードを決定していたのはおそらくパリだろうけれど、このすっぱりと切れ味のいい機能的なテーストは、アメリカの大都市の雰囲気によくマッチしてみえる。シンプルなのだ。60年代という時期は、建築でもモードでも、20世紀らしい「機能の文化」がひとつの頂点まで洗練された時代だったかもしれない。世紀のはじめに一度こころみられてから、戦争で分断されたのち、ここで完成された。
その時代はアメリカという国が、ひときわ輝いていた時代でもあったろう。国の政策からにじみ出る矛盾や暴力も、映画や音楽というメディアをくぐりぬけたあとは、ほとんど「幅ひろい魅力」に変換されてしまったらしい。ただ、そのねじれの構図は、史実として推測することはできても、同時代性をもたない人間には正直、あまり実感がわかない。このころに青年期をすごしたひとと、そのあとの世代とでは、あの国に対する原体験がずいぶんちがうのではないかしら。
この映画は一種の「カタログ・ムービー」を構成している。えがかれるシーンはポロ、ゴルフ、グライダー、海辺の別荘、オープンカーに焚き火、執事のいる屋敷、暖炉にチェスと、いかにも他愛がないけれど、これは、じつのところアメリカの庶民層にとっての成功のカタログであったはず。
このあまりにも単純化された物質的憧憬は敗戦国・日本の渇望をまきこんで、いまも波のようにくりかえされている。やれやれ。徹底的な物質性に還元されたかたちで表現されるアメリカの上昇志向は、そもそも欧州の伝統的な文化から精神性を切り離して成立したもののようにみえるのですけれど。うえに羅列した「カタログ」をみて。アメリカナイズされているけれど、イギリスの中上流の表層そのものでは?
そうしてこの主役を、事実上の孤児として悲惨な少年時代をすごしたマックィーンが演じている。かれはアメリカ国内で、庶民層出身の上昇者としても愛されたにちがいない。この作品の主役も代々の資産家ではなく、「自己の頭脳と才覚により」一代で財を築いた人物と設定されている。それでなお銀行強盗やってどうするの(笑)というお話なのだけれど、この倒錯は、文化的価値観の歴史、という点からこじつけて愉しめないこともない(なにしろお話の展開がおそいので、いろいろ考えてしまうのです)。
泥棒のヒロイズムの起原は? それはおそらく富の蓄積が進んで階層差が固定した時代における、支配者に対する庶民の不満を土壌として、その不満を解消したいという期待のなかにうまれてくる……。などとかんがえるなら「成功者、でも泥棒かも?」という二重の英雄性をあたえられた主人公が成立することには案外、必然性があるのかも。ふふ、現実にはありえない。でも、とてもアメリカらしい願望ではある。
そしてこの像はいま、まさに日本に移行されている。堀江貴文さんがそう。「成功者、でも泥棒かも?」というあのひとの人気は、きっとまだつづく。かれは個人からではなく、システムからお金をかすめたと考えられているから。株式をはじめとする超高度資本主義の制度のなかでは、富はしばしば匿名化してしまう。匿名の富を手にいれた者に対しては、怒りよりも憧憬のほうがさきにたつ。
理屈をこねました、失礼。ともあれ、映画においても「おしゃれな泥棒もの」の系譜は脈々とつづいていきそう。ヒッチコックやワイラーとくらべてはこの監督が気の毒だけれど、グレース・ケリーとケーリー・グラントの "To Catch a Thief" (1955『泥棒成金』)、ピーター・オトゥールとオードリー・ヘバーンの "How to Steal a Million" (1966『おしゃれ泥棒』)……。それらのリメークも。
メモリータグ■ダナウェイのものすごいつけまつげ。アップになるとさすがに笑ってしまう。