アバター / ジェームズ・キャメロン
162 or 171 min (special edition) USA | UK
Avatar (2009)
Written, directed and produced by James Cameron. Music by James Horner. Cinematography by Mauro Fiore. Performed by Sam Worthington (Jake), Zoe Saldana (Neytiri), Sigourney Weaver (Grace), Stephen Lang (Colonel), Giovanni Ribisi (Parker Selfridge). Estimated budget:$237,000,000.
物語の展開は説明的でくり返しが多い。デザインや創造世界としての独創性もない。それでも立体映像の臨場感という唯一最大の目標はおそらく達成され、怪鳥に乗って飛ぶ擬似体験感覚をたのしんだかたも多いことだろう。脚本家としても映像演出家としてもむしろ凡庸でありながら圧倒的な興行成績をおさめつづけてきたキャメロンらしい作品の一つで、映像技術への嗜好を商業性と結びつける彼の天才的な嗅覚をよくあらわしている。推定予算はだいたい237億円(2億3700万ドル)。
かつてこのひとの『ターミネーター2』が一流のCGアーティストたちからも賞賛を得たように、映画に対するキャメロンの貢献はコンピューターグラフィックスの最新技術を推進し、市場で成功させてきた豪腕にある。今回も多くのアーティストやデザイナーに新しいこころみの場を提供したことは評価したい。このひとの本質はプロデューサーだと思う。この作品も撮影・視覚効果・美術の3部門で2010年の米国アカデミー賞を得た。妥当な評価に思える。
映画として折衷的なことはしかたがない。どの場面も「どうすれば立体映像らしさが味わえるか」という身体性を目的として設計されている。たとえば異星の密林で野獣から襲われる、滝から落ちる、空を飛ぶ、獣に乗る、樹上を歩く。逆にいえばキャメロンの「迫力」は単純な運動性の域を出ない。脚本の仕上げを優れた脚本家にゆだねていればまたちがったかもしれないが、それをするには貪欲すぎるひとだろう。
着想はベトナム戦争映画とモヒカン族ともののけ姫とラピュタをまぜてガンダムとエヴァンゲリオンを合わせ、世界造形にフランスのCG作品『ケイナ(Kaena: The Prophecy)』2003を加えればできあがる。バーチャル密林ツアー、コンバットゲーム、ディズニーランドの乗り物を組み合わせたようなまぜこぜの既視感がつづく。えんえんと終わらない上映時間162分も、このライドやバーチャルツアーを「何度も味わう」ためなのだろう。いやはや、うさこはとても疲れました。
筋をすこし:主人公は地球人の兵士。希少な資源をもつ惑星に派遣され、現地の先住民族と接触して情報を収集することを命じられる。この任務のために人間のDNAと彼らのDNAを組み合わせた人工生命体が用意されており、このアバター(仮身体)に「意識をリンクさせて」乗り移る。そしてすみやかに先住民から受け入れられる。地球の科学者は知識でいっぱいで新しいことを吸収しないのに主人公は(頭が)からっぽなのがいいのだそう。やがて族長の娘と恋に落ちる。いっぽう地球人の上司は聖なる森を破壊して先住民の駆逐に乗り出す。主人公は先住民を率いて抗戦し、地球人は撤退していく。
メモリータグ■冒頭では車椅子に乗っている主人公が、人工生命の身体(アヴァター)に意識結合を果たすことで走れるようになる。身体を乗り物と考える着想は理性的だった。インスピレーションより合理にまさる製作者だとわかる。