うさこさんと映画

映画のノートです。
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ありがとうございました。
筋や結末を記していることがあります。

0341. The Bad Lieutenant (2009)

2011年03月28日 | 2000s
バッド・ルーテナント / ヴェルナー・ヘルツォーク
122 min USA

The Bad Lieutenant: Port of Call - New Orleans (2009)
Directed by Werner Herzog, 1942 -. Screenplay by William Finkelstein and four other writers for the earlier film "Bad Lieutenant". Cinematography by Peter Zeitlinger. Production Design by Toby Corbett. Set Decoration by Leonard R. Spears. Performed by Nicolas Cage (Terence McDonarh), Eva Mendes (Frankie Donnenfield).


ヘルツォーク、快挙である。二時間笑った。もちろんシナリオがいいのだけれど、ぐらりとあやうい冗長さも、どこかしら“ヨーロッパ芸術作品”へのなつかしさと共に愉しい。ハリウッド系の定型を逸脱してわけのわからない展開をみせるコメディーがこんなに新鮮でうれしいのは「原発崩壊・無計画停電・放射性物質長期放出」という“三大テロリズム”の大成果に、笑いたくても笑えない日々のため? いえ、そうではない。ぬけぬけと登場するイグアナの、まあそれだけでおかしいこと。それがベッソンじゃないんですよ、ヘルツォークですよ。コーエンでもないんですよ、ヘ・ル・ツォークですよ。

ニコラス・ケージは決して演技に才能のある俳優ではないと思うけれど、それだけに奮闘賞かもしれない。これほどコメディーに向かない俳優が――生まれながらのロングフェースというか――薬物中毒のキレた警部補という主演に全力で取り組んでいた。その無理やりなキャスティングがすでにコミカル、起用はただしい。しかも彼自身プロデュースに参加している。

この作品は日本で評判になったのだろうか? 残念ながらわたしの笑点時計は明石標準時からずれているらしくて、映画館で爆笑した瞬間、場内がシーンとしているのに気づいて焦ることも多い。絶対おもしろいと思うんだけどなあ。でもアメリカ系の配給なので、それなりの規模のネットワークで公開されははず。これがドイツ語でドイツの俳優を起用して撮られていたら単館上映だったかもしれないと思うと、ちょっぴり複雑な気持ちにはなる。かつて『パリ、テキサス』でロードムーヴィー的なタッチのためにヴェンダースがテキサスを撮ったのとはまったく異質な生存的必要性の文脈が、いま「ハリウッド資本」を使う背景にはあるだろう。そもそも作品じたい1992年にハーヴェイ・カイテルが主演したBad Lieutenantのリメークらしいのだから、ボーン・ハリウッド指数が高めのハイブリッド制作といえばいいかもしれない――って、そんな指数があるとして(笑)。今回の脚本を担当したフィンケルスタインはテレビシリーズの出身である。

なんであれ結果的に、あの偏屈院・壮大声明居士の名匠ヘルツォークが、ニューオーリンズというアメリカ地方都市を、徹底的にださくノスタルジックな田舎町として撮りつくしながら、みごとにコメディーに仕上げてみせた。一流の才能は、どこまでも自己超越的なものなのです。



メモリータグ■やっぱりイグアナ。