左手は裸木が続き、右手はポプラ並木の果てに雪をかぶった山並みが午後の光に輝いている。
「広いな」
美砂(みさご)は溜息をつき、改めて北海道へ来たことを実感する。
研究所には特に受付はない。入口の左手に研究所内の講座名と、所員の名札だけが掲示されている。「海洋学教室」という名札の左に、教授・明峯隆太郎、助教授・今井正浩、となり、以下、講師、助手と続く。藤野の名前は助手の三番目に並んでいる。
だが紙谷の名はない。美砂が探すとその次の、「紋別流氷研究所」という表示のすぐあとに、紙谷誠吾と言う名札が下がっている。
(渡辺淳一・「流氷への旅」より)
現在でも入口の左手に所員全員の名札がかかっていて、在所の場合は黒色、不在の場合は朱色の文字で記しています。一目で全所員の名と所在が確認できます。とてもシンプルですが、30年上も続いている巧みなシステムであると思います。