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「追い貸し」が本当に悪かったのか(追記後)

2007年03月25日 23時55分38秒 | 経済関連
「失われた15年」の考察において、「追い貸しが悪かったんだ」という意見を度々目にするわけですが、これを採用する場合には何らかの前提条件のようなものがあるべきではないかと思っています。イルカのシリーズで取り上げたのですが、観察される現象についての解釈問題(参考記事)と言えるかもしれません。


今の日本の国と地方の借金を合わせると、ざっと1千兆円程度はあると思いますが、借入・返済比率だけ考えれば、「破綻水準」ですよね。多重債務者も真っ青の、「自転車操業」真っ最中です。現在のような低金利状態にあっても、元金返済どころか、利払いさえ出来ていません(笑)。日銀基準で言えば、たった1.7%程度かそこらの「低い潜在成長率」に過ぎない、低生産性のゾンビみたいなもんです。これも同じく「追い貸し」であり、規律を厳しくしてファイナンスを完全停止し、誰も貸さないようにした方がよろしいのではないでしょうか。政府を破綻処理した方が宜しいのではありませんか?「追い貸し」が全て悪いんだ、という考え方の方々ならば、きっとそう主張しても不思議ではないように思えます。

しかし、実際にこれを行うとどういった事態が想定されるでしょうか。日本経済はかなり大きなダメージを受けるでありましょう。破綻処理をしなかった場合に比べれば、大出血を覚悟せねばならないでしょう。国民生活は大きく破壊されるでしょう。失業者が街中に溢れかえるでしょう。たくさんの日本企業が海外資本によって買い占められたりするかもしれません。そういう変化を望むのであれば、破壊された後からは、「生産性の高い効率的な国」として生まれ変われるかもしれませんね。きっと理想的な姿となっていることでしょう。これが現実に望ましいことなのかと言えば、恐らく「否」であると思っておりますけれども。


何度も人体に喩えて申し訳ありませんが、再び考えてみたいと思います。

まず、冠血管が閉塞していくとその支配領域の心筋細胞の動きは当然悪化します。すると、心臓全体の機能低下も起こりえるでしょう。血液が十分行き届かないと、心臓の細胞が「苦しい、苦しい」となってしまい、働けなくなりますからね。それでも「壊死」していなければ、血流が再開されると再び活力を取り戻し、機能回復が期待できないわけではありません。狭心症の状態であれば、心臓の負荷が軽減されると心臓の苦しい状況が緩解します。つまり、元の状態に近く戻れるわけです。この可逆性が重要なのであり、心筋梗塞のように不可逆的変化に陥ると病状は悪化するし、もっと深刻な生命の危機的状況が訪れることになってしまうのです。

心臓の血管には代償的な機能もあって、実は、部分的に閉塞が進んだとしても経過に時間的余裕があれば、血流が代償されることもあります。側副血行路が形成されるのです。言ってみれば、高速道路とか幹線道路が大渋滞になっていて「詰まっていても」、もうちょっと目立たない県道や別な脇道を通過していくことができる、というのと同じようなものです。そうして代償機能が働けば、壊死に陥ることなく心臓の機能は維持されることになります。

ですので、不可逆的な状態に陥らせないようにすることこそ、最重要ということなのです。


ゾンビ企業というのは、苦しがっている、壊死に陥る直前の心筋細胞みたいなものです。そのまま倒産してしまうのであれば、壊死した心筋細胞というのと同じですね。このような「心筋細胞(=ゾンビ)が存在しているから」心臓の機能全体が低下し、悪影響となっているんだ、という考え方はそもそも間違いではないでしょうか、ということなのです。「心筋細胞が苦しくなったのは何故でしょうか?」ということが、根本的な考え方なのではないかと思います。壊死した心筋細胞が増えれば、確かに危機的状況を招きます。しかし、血流がある程度維持され、酸素供給ができてさえいれば、苦しくなんかならないのです。壊死を起こしてしまったりはしないのです。虚血に陥っている心筋細胞の存在自体が問題の根本原因などではない、ということです。

虚血に陥るには、何らかの原因があります。血管が狭くなる(=資金供給が低下する)、運動負荷などによって酸素需要が増加する(=外部の要因、金利上昇や為替変動などか?)、血管の攣縮が起こる(=資金供給の機能不全、例えば銀行倒産みたいなものか?)、そういった要因があるので心筋虚血が惹起されるのです。よって、血管を拡張する(=資金供給を潤沢にする)、負荷を軽減する(=金利引下げ、為替介入)、攣縮を解除させる(別な貸出・投資機能ルートを確保)、のような手当てが必要なのです。補助的に、酸素吸入なども行われるかもしれません(空気よりも高濃度の酸素を吸入することで血液の酸素化が良くなる)。


単なる推測ですが、ゾンビ企業は借入比率が高く、債務負担がかなりの重しとなっていたであろうと思われます。それはダイエーや新日鉄のような有利子負債が2兆円超という企業のようなものかな、と(新日鉄は蘇りましたが、ダイエーは厳しい結果になってしまいました)。個人債務とも似ているのですが、借入比率が高いと、何かの変動(収入・売上減少、債務負担増)を生じた場合に「予備的能力」の幅が狭い為に、苦しい経営状況に陥るであろうな、ということは判ります。それでも、望ましい「再生プラン」を実行できれば、清算を選択するより損失総額は軽減できることが多いであろうと思います。債権放棄や債務負担の一時延期などが必要になる場合はあるかもしれませんが、それでも倒産よりはまだマシということです。「追い貸し」の効果には、そうした部分があると思われます。

とりあえず。


前期までは一応「追い貸し」でどうにか大量壊死には陥っていなかったと思われますが、後期からは銀行が投資リスクを回避することで「貸し剥がし」「貸し渋り」のようなことが起こっていきました。これは酸素需要を行えないような状況に陥ったということです。まさしく「清算」の道を驀進することとなったであろうと思われます。これが大量の壊死組織を生じることになったでしょう。

更に、壊死寸前のゾンビ企業は恐らく「実質金利」の上昇によって相対的に債務負担が増加してしまい、その変動要因がダイレクトに伝わった為に、壊死に陥りやすくなったであろうと思われるのです。この実質金利上昇は「デフレ」によってもたらされたと思います。アジア通貨危機も変動要因として強い影響を持っていたであろうと思います。心臓で言えば、負荷が増大し「酸素需要が増加」した、ということです。元々血管が狭窄していた(=資金供給が細っていた)ことと、負荷が増大した(=実質金利上昇、消費税増税、通貨危機や銀行破綻などが起こった)ことなどによって、急性心筋梗塞に陥ったのであろうと思うのです。そうして98年以降失業率はうなぎ上りとなり、「真の失業率」の乖離幅も加速的に増加していくことになるのです。「負荷を軽減する措置」「血管拡張させる措置」という政策パッケージが必要であった、と思うのですよね。


効率の悪い企業が撤退させられ、効率性の高い企業が新規参入してくれば、経済成長の停滞は避けられたとかいうのは、経済理論では多分正しいと思いますが、現実世界でそれが本当に効果的に起こるとは限らないのではないでしょうか。大筋として正しいのですが、変化が急激すぎであった場合には、入れ替わりがスムーズにいかず、そのことが停滞を招いてしまうことはあると思います。長期的には望ましくても、一定期間内でそれがうまくいくとは限らないのではないかな、と。


骨は新陳代謝があって、僅かながら「取り壊され」て、その代わりに新たな骨が作られていきます。普通は自分の顔の形とか腕や頭の形が、大きく変わったと感じる人はいないでしょう。でも骨は取り壊されているんですよ。それは大きな領域の骨が一気に取り壊されてなどいなからです。顔が変形するほど骨が壊されたら、「新たな骨が作られるから全然問題なんかないし、大丈夫だ」とか言うでしょうか。新陳代謝にも一定の取り壊し水準があるし、それを超えて壊されれば機能不全に陥ると思います。「新陳代謝が必要なんだから、一気に入れ替えればいいんだ」とか言って、上腕の真ん中で全部取り壊されたら間違いなく骨折しますよ。筋力に負けて真っ二つに折れますよ。そうなれば、腕を使うことができなくなります。当たり前なんですが。ミクロで見れば着実に取り壊されて新たな骨が作り変えられていても、それがマクロ的に見て(経済活動でいえば、その産業界全体ということかな)外見が大きく変形したりするほどであれば、それは「病的」としかいいようがないのです。ゾンビは退出させよ、新たな企業が参入すればいいんだ、というのは、長い時間経過の中でみれば正しいけれども、急激なのは良くない面があるかもしれないのです。


経済活動の中では、仮に農家を辞めて別な仕事に就こうと思っても、直ぐには労働力が移動できないことだってありますよね。それまで農業しかやったことがなければ、直ぐに仕事が見つけられるかどうかわかりませんから。それは住んでいる地域の問題があるかもしれないし。年老いた親を置いて他の地域に移動できないとか、そういうこともあるということです。経済理論では、「仕事を辞める」「廃業する」ということから、次の新規参入とか新たな産業・企業への労働力移動なんかは極めてスムーズに行われることが多いのではないかと思いますが、現実世界では中々そうはいきません。

骨の新陳代謝の例で言えば、大きく取り壊されたりしてしまえば、新たな骨が作られるまでは長い時間がかかるのです。経済学の理屈では、そういった時間経過をどのくらい正確に評価しているのか、その影響の大きさをどう見ているのかはよく判らないわけですが、現実世界の中ではタイムラグはあるし、そのラグの大きさ如何によっては、人々の人生を大きく狂わせるくらい重要なことなのですよね。まさか「退出している間は死んでいてくれ、新規参入の際には生き返ってくれ」とかできるわけではありませんしね。


要するに、ゾンビが存在したこと、それ自体が根本原因ではなくて、結果的に観察された現象ではなかろうか、という印象が強いですね。追い貸し効果がある程度機能していた前半までは、どうにか持ちこたえていたと思います。むしろそれを止めてしまったことが清算企業を無駄に増やし、それに代わる新たな投資もあまり生まれてこなくなり、停滞を深刻化させた可能性すらあるのではないかと思います。清算よりも、合理的な「再建」プランがもっと必要だったと思います。




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