チンパンジーは、群の仲間でも、敵の群のメンバーでも、殺すことがあるのだそうです。
でも、遺伝的にごく近い「ボノボ」という猿は、敵を殺すことはないそうです。
人間たちが、際限のない殺し合いの連鎖の中にいる今、猿の知恵も学びたいと思いました。
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「チンパンジーとボノボ・・似ているのに性格は正反対」
朝日新聞2015・01・19
アフリカの熱帯雨林で、人間に最も近い類人猿の研究が進んでいる。
チンパンジーと「ボノボ」。
見た目はそっくりだが、片やオスを中心とした集団で、強い攻撃性が見られ、片やオスとメスが対等な平和な営みを築く。
進化の過程で何がおきたのか?
東アフリカ・タンザニアの森で、2011年10月、研究者を驚かせる事件が起きた。
チンパンジーの集団で、順位が1位のオスが仲間に殺されたのだ。
このオスは2位のオスと喧嘩して負傷。
騒ぎで集まったオス4頭が取り囲んで攻撃した。
現地で研究していた日本大研究員は、「殺されたオスの力は圧倒的で、それまで明らかな対立関係はなかった。想定外だった」と振り返る。
相手が弱ったと見るや、ライバルを倒す好機と捉えたらしい。
アフリカの熱帯雨林などに住むチンパンジーの研究は、1960年代に始まった。
身振りや表情、音声を使った多用なコミュニケーションや、木の枝で蟻を釣るといった賢さが注目される一方で、強い攻撃性も明らかになってきた。
70年代に観察された例では、2つに分裂した集団のオス達がもう一方の縄張りに侵入してメンバーを次々に殺害。
片方の集団は消滅してしまった。
カリンズ(ウガンダ)でも2003年、隣の集団に殺されたと見られるオスの死骸が見つかった。
カリンズで約20年調査を続ける京都大学・霊長類研究所助教は、「これまでに確認された殺害事件は2件。決して頻繁に起きているわけではない」と言う。
ただ相手が死ぬまで積極的に攻撃する行為は、他のほ乳類ではほとんど見られない。
研究者は「戦争」と呼ぶ。
「違いは〝先天的″」
なぜ「戦争」が起きるのか?
20年ほど前から、2つの説が対立していた。
一つは食料や交尾の機会を得るため、「生まれつき」だとする説。
もう一つは、人間の開発に伴う生息地の破壊や研究者の餌付けなどが影響している、という説だ。
この論争は2014年9月米バンクーバー大などのグループが英科学雑誌「ネイチャー」に発表した論文で決着した。
京都大学など、各国の研究機関の記録を解析した結果、チンパンジーによる殺害が確認・推定できたのは、1960年以降99件。
発生率と人間の行為との間には関係性は見られず、攻撃側、殺害側の双方がオスばかりだったことなどから、「生まれつき」説が有力だと結論づけた。
一方チンパンジーの最も近縁な「ボノボ」による殺害は、疑わしい例が1件あるだけだった。
「ボノボ」が住むのはアフリカの中央部で、チンパンジーの生息域との間には広大なコンゴ川が流れる。
250万年~100万年ほど前に、チンパンジーとの共通の祖先から別れたと見られ、以前は「ピグミーチンパンジー」と呼ばれていた。
おとなの見た目はチンパンジーそっくりだが、攻撃性はほとんど見られず、「平和主義者」の異名を持つ。
何が両者の特徴を作り出したのか?
「交尾をめぐり競争」
京都大学・霊長類研教授は、性が深く関わっている、と見ている。
チンパンジーは、子育てに長い時間をかける。
メスは5~6年に一度しか出産をせず、妊娠中や子育て中はほとんど発情しない。
オスは、交尾の機会を巡って激しい競争にさらされる。
さらに、将来や離れた場所の利益まで考えられるような、高い知能も、オスの攻撃性につながった、と見る。
「競争相手を倒したり、食料条件の良い土地を手に入れたりした方が有利という判断ができるのではないか?」
「ボノボ」のメスも子育てに長い時間をかけるが、発情期間が長く、妊娠や子育て中も交尾する。
オスもメスも、互いの緊張を和らげるために、頻繁に性器をこすりあう「挨拶」をする。
攻撃をしかけても、帰り討ちの危険もある。
争う理由が少なければ、無駄に戦う必要はない」と教授は指摘する。
「ボノボ」の生息地はゴリラがいないため、チンパンジーと違って、ゴリラと食べ物を競合する必要がないことも影響しているだろう。
生き物は、体の特徴や性質を環境に適応するように変えながら、進化してきた。
人類学者の山際・京都大学総長は「非常に近い縁のチンパンジーと「ボノボ」で、これだけ攻撃性に違いがあるということは、そういった攻撃性は比較的短い期間で適応的(生まれつき)になるのかもしれない」と話している。
写真(中)は「ボノボ」の群。からまった枝をみんなで外してあげている。
写真(下)はチンパンジーの群。敵対する群の様子を観察している。
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