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「沈まぬ太陽」鑑賞記

2009-11-05 | 日記風
文化の日、天候も悪くてアウトドアは止めて、久しぶりに映画を見た。「白い巨塔」や「大地の子」など社会派の作家、山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」だ。3時間を超える大作で、途中に休憩時間が10分間入る。長編の「沈まぬ太陽」は、その一部をつまみ読みをしたことがあったが、6冊のうちの1冊のさらに一部だけだったので、内容はほとんど把握できなかった。今度映画を見て、その全容がはっきりと理解できた。

 日本航空ジャンボ機の御巣鷹山墜落事故を主要な題材に取った小説=映画だったが、日本航空は「国民航空」という名前に変えられ、経営陣の名前も仮名を使っている。しかし、政府首脳がナショナル・フラッグ・キャリアーという言葉を何度も使っていることを見ても、御巣鷹山という実名の事故地が出てくることからも、日本航空のことであることははっきりしている。

 労働組合委員長をやっていた主人公が会社からの報復人事で、海外の小支店に左遷される。労働組合には第2組合が経営者の画策で作られ、第1組合の幹部はそれぞれ報復人事で閑職への左遷といじめにあう。9年目にようやく日本へ帰ってきたら、御巣鷹山墜落事故の遺族対策係をやらされる。このあたりは現実の日本航空で行われてきた労務対策を、細かい点は創作でも、かなり事実に沿って作られていると感じた。日本航空経営陣の腐敗を描いたこの映画の配給を阻止すべく日本航空があらゆる方法を通して圧力をかけてきたということが伝えられていることからも、この映画の真実性が暗示される。

 時の政権がナショナル・フラッグ・キャリアーという「国民航空」を潰さないために、関西の経済人を会長にすえて、会社の改革を行おうとする。この会長が主人公を会長室メンバーとして、「国民航空」改革に当たらせる。そこで為替の不正操作と海外のホテル取引に関わる不正を暴こうとする。それに危機感を覚えた政権の首脳=首相は会長を解任する。しかし、その会長と主人公は協力してホテル取引の不正を行った取締役を解任させる。また、組合を裏切って常務に昇進した男の巨額資金の不正を、第1組合の仲間が手伝い、そのすべての経緯を手帳に記した上で自殺する。手帳は検察庁へ届けられ、常務は逮捕される。

 要するに、政府の都合と政治家と「国民航空」という企業の幹部との癒着を描き、組合活動への露骨な経営者のいじめ=不当労働行為を描いている。さらに職場の仲間を裏切ることを拒否して左遷された男の家族の苦難と苦しみ、会社の安全よりも儲けを優先した経営が大事故を引き起こし、その遺族たちに対して非人間的な対応をする会社経営者の姿を描いている。細かいところは創作に違いないだろうが、このようなことが行われてきたと言うことは容易に想像できることでもある。

 渡辺謙の熱演は、この映画の質を高めたと言えるのではないだろうか。大作ではあったが、会社の中の権力争いを絡ませたことは、本来の主題をやや希薄にさせてしまったような気がした。でも、御巣鷹山の事故の大きさと遺族の苦しみや悲しみは十分に届いたように思う。普段テレビを見るときは、目の疲れでつらくなることが多いのだが、この映画は、見ながら目の疲れをまったく感じさせなかった。

 職場の仲間を裏切らず、左遷という悲哀を味わう主人公だが、カラチとテヘラン、そしてナイロビという場所の勤務は、それぞれ2-3年ということだったから、私ならかえって喜んでいったのにと思った。それがもう一つ主人公の感情に完全に入り込めなかった理由かもしれない。商社や企業の転勤で海外へ行く人たちの多くは、つらいと思っていっているのだろうか。私にはそのあたりはよく分からない。行きたいと思っていくのと、命令で行かされるのとはきっとまったく違うのだろう。ケニヤの真っ赤な夕日が大地に沈むシーンは、逆にそのような人間の所業を小さなものに見せてしまう。「沈まぬ太陽」は、かつての大英帝国と同じように、世界中に航空路線を持つ日本航空の別名でもあったが。

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2 コメント

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山崎豊子さん (mmadoka)
2009-11-05 17:58:57
今、TVの「不毛地帯」を楽しみにしています。「大地の子」もとてもひきつけられましたが、原作がいいと、テレビドラマ化されても中身が濃いと思います。
不毛地帯も商社名は「一井」「五菱」等を使ってますが、明らかに某財閥系商社でロッキード事件の舞台を描いてるとわかります。

転勤でナイロビ? いいですね~。
ケニアのサファリに沈む太陽を見てみたいですね。うちの場合は、社命での異動でもそこを楽しみます! 行きたくないな、、と思っていた場所でも実際住んでみると印象が全く違います。ネガティブシンキングの人だと何でもマイナスに考えるので勿体ないと思います。
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ナイロビ (比呂志)
2009-11-06 08:30:30
そうなんです。もったいないですね。アフリカは私も行きたいところです。まだ一度も行ったことがない大陸なので。

 雄大な草原に落ちる夕日。シルエットで浮かぶキリンやシマウマ、ガゼルたち。映画でもその雄大さがわかりますが、現場で感じるアフリカの風はきっと映画では感じられないものを持っていると思います。
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