Con Gas, Sin Hielo

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「英国王のスピーチ」

2011年03月06日 10時22分53秒 | 映画(2011)
寛容の時代だからこそ耐えられた。


本作の勝因は、まずは物語だ。上に立つ人間だからこそ抱える苦悩を、吃音という分かりやすく且つ新鮮な媒介を通して真っ直ぐに描いた。

次に役者陣。C.ファースの実直さとJ.ラッシュの懐の深さの調和が素晴らしい。

だから、4部門とはいえ主要なところを押さえてアカデミーの勝者となったことに何ら異論はない。

でも、受賞によって多くの情報をもたらされてから観たこと、特にレイトショーで観たということもあり、意外性のない展開にやや眠気を感じてしまった。

ただ、この物語はやはり非常に興味深い。

ラジオという媒体の出現。それは、広場での集会なんかとは桁違いの数の人たちに同時にメッセージを発信できることを意味し、王族とて時代の変化に合わせることが必要となった。

その系譜はやがてテレビからネットへと形を変え、いまや名の売れた人間が秘密を隠し通すことは難しい。

現代にジョージ6世がいたらどうだったろう。兄の所業はさすがに当時でも問題視されていたが、弟の持つ欠点は吃音だけだったから許された。

それ以上に、欧州全体に不穏な空気が漂い始めていた折り、時代が拠り所を求めていた。周囲の人たちが必死で新国王を守ったのだ。

ラジオ自体が、発言の途切れた時間を高い威厳の間として変換しうる、実に寛容な媒体であったことも見逃せない。

しかし現代は、誰も彼もその一挙手一投足が包み隠さず瞬く間に全世界へ配信される。そこに受け手のあそびが入る隙間はない。

上手の手から水が漏れるということすら許されない世の中。それでも民衆は、より完璧なものを求めて批判の声を高める。

中東で起きる民主化の波。理念自体は立派だが、先の見えない闘いは本当に彼らを幸せにすることができるのか。

この映画を観て、珍しく「昔はよかったね」などと考えてしまった。

(70点)
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4 コメント

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Unknown (mig)
2011-03-07 12:04:39
こんにちは、
内容的に面白いかといえばそうでもないんだけど、
巧いですよね。見せ方もキャストも。
皆ハマッてました
とくに最後のスピーチがやっぱり最大の見どころですね。
返信する
遅くなりました。 (クラム)
2011-03-14 19:50:56
migさん、こんばんは。

諸々のばたばたで返事が遅くなりました。
しばらくは映画を観られそうもない状況になり、
この映画、ひとまず観ておいてよかったと思っています。
海老名の2つのシネコンも未だ営業再開に至っていません。
こんなときこそ映画に元気づけてもらいたいところなのですが。
返信する
TBありがとうございました。 (なな)
2011-05-08 20:27:20
お久しぶりです,震災の影響はその後少しは落ち着きましたか?
私は西日本なので直接被害はなかったのですが
やはりここひと月は気が滅入って映画どころではなかったです。
3月末に東京に行く予定を立てていたのですが
それもキャンセルしましたし・・・
この「英国王」は震災後に初めて劇場で観た作品で
爽やかで温かい感情になり,元気をもらえました。
ジョージ6世夫妻やライオネル,みなさん善人で
努力することや困難を克服することや家族愛の大切さなど
「善いもの」にたくさん癒された思いですね。
そうそう,「昔はよかった」と思える作品でもありますね。
返信する
少し映画館離れ (クラム)
2011-05-18 00:01:56
ななさん、こんばんは。
返事がだいぶ遅れてしまい申し訳ありませんでした。

震災以来、映画館へ行く頻度が減ってしまいました。
気分や仕事といった事情もありますが、
一度離れると情報が少なくなってますます行かない
スパイラルのようなものもあるのかと思っています。
実際今もあまり観たいと思う作品がありません。

この映画はさすがに戴冠しましたからね。
早々に観に行きました。

おっしゃるように「善いもの」に満ち溢れていました。
複雑になった現代ではなかなか難しいですけど、
被災地の草の根レベルでは
「世の中捨てたもんじゃない」的な話も聞かれているようで、
時には元気をもらいながら、
自分なりのペースで一日を積み重ねていければと思っています。
返信する

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