ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

きみがくれたぼくの星空  ロレンツォ・リカルツィ

2013-01-20 15:36:41 | Book



翻訳:泉典子

ロレンツォ・リカルツィ(Lorenzo Licalzi)は、1956年北イタリアのジェノヴァに生まれる。
心理学者。老人ホーム設立&運営の経験あり。
著書には「ぼくは違う」「ぼくにはわからない」「グルの特権」がある。

初めに記しておきます。
主人公「トンマーゾ・ペレツ」という名前は、カミユの「異邦人」に由来する。
「異邦人」の主人公「ムルソー」の母親が老人ホームで亡くなる。
その母親の恋人といわれた老人の名前が「トマ・ペレーズ」です。


この物語の舞台は老人ホームである。
もと物理学者のトンマーゾ・ペレツと、信仰心の深い老夫人エレナとの恋物語です。
トンマーゾ・ペレツは左半身マヒのため、移動には車椅子が必要な身であった。
初めての外出(デート)は、トンマーゾ・ペレツのかつての職場である天文台での星々の鑑賞であった。
(ここがタイトルに繋がる。)
この出来事によって、頑固者のトンマーゾ・ペレツの気質は溶け出したが、その翌日にはエレナは他界する。

深い悲しみをくぐり抜けて、エレナの深い思いやりと愛を知った彼は、
あれほど拒否していた理学療法に積極的に向き合い、半身マヒの不自由な肉体に新しい風を送りこむ。
さらに学者としての自分も呼びかえす。

そして、2人の友人と共に、ホームを出て、3人の共同生活の計画もたてる。
しかし、その計画が実行に移されないままに、彼は他界する。


「80歳になったら結婚しましょう」と女性詩人に語りかける、今は亡き詩人の作品を思い出す。
それを読んだ時のわたくしはいささか若かった。
が、しかし、人間は生涯の最後と思われるひとときに
人生のなかで最も自由に夢を叶えられるかもしれない時間が、そこに託されているかもしれないのだと、
それ以来思い続けてきました。
この本を読んで、その思いこみは間違っていなかったと思っている。


けれどもここまで書けば、タイトル通りに美しい恋物語である。
再度言おう。この物語の舞台は老人ホームである。
脇役は様々な事情を抱えている老人ばかりであり、
さらに、多忙と仕事の困難さのために、老人の尊厳を忘れた介護人たちである。
誰でも知っているはずの世界……老人を1個の面倒な物体として扱うホームである。
トンマーゾ・ペレツが「クソッタレ!」と罵った世界である。
かつて我が父母を決して預けたくないと思っていた世界である。

そこに奇跡のようにうまれた物語であることを知っておこう。
この物語を書き残すことに力を尽した人物は理学療法士のステファノだった。
(これも物語……?)

《追記》
この本を読むきっかけは「ZOUX311号」でした。


 (2006年初版・河出書房新社刊)

引っ越し6年目の憂鬱

2013-01-08 00:15:01 | Letter


今の住所に変わってから、今年で6年目に突入。
しかしながら、今だ旧住所に届く手紙がある。
1年間は郵便局の転送手続きで、なんとかやり過ごしたけれど……。
そのあとはどうにもならない。

何故か?
旧住所に住んでいる者が同姓だから。
しかも4丁目から3丁目にに引っ越しただけなので、4丁目に届く手紙はそこの住人が配達してくれる。
……というわけで、手紙の送り主のもとへ返送されることがない。

その事情を書いて、何人に住所変更のお願いの手紙を出したことか?
勿論、転居案内の手紙は出しました。
引っ越し後の初の年賀状にも「住所変更しました。」と書きました。
それでも旧住所にお手紙&年賀状が今だ届く。
結局、手紙が返送されないからだろうなぁ。

それにしても、今年の年賀状にも今だ旧住所のままな方がいらっしゃる。
たくさんの年賀状なので、1枚づつ丁寧に読んでいらっしゃらないか?
あるいは住所録の変更をなさっていないのか?

ちなみに、わたしくしの年賀状の書き方、および管理方法。
年末に届く喪中葉書は、その年の年賀状にホチキスでとめておきます。
引っ越し案内のお手紙も同じ方法でやります。
そして、さらに去年の年賀状を見ながら住所確認しながら
1年の経過を感じつつ……書いています。

そして寂しかったこと。
高齢になった方の最後の年賀状を受け取ったこと。
もちろんわたくしにも、その時は来ることでせう。
たくさんのお手紙を書くことが心身ともに辛くなる日が……。

スピンク合財帖  町田康

2013-01-05 14:46:10 | Book
  

これは2011年の「スピンク日記」の続編と言える。
合財帖の「合財」は「一切合財あるいは一切合切」の「合財」と考えるのが妥当と思われる。
「合財袋」あるいは「信玄袋」の手帖版と考えることも楽しいかもしれない。

スピンクは5歳、遅れて「主人ポチ」&「奥様の美徴さん」夫妻の元に来た「キューティー」はスピンクの弟です。
ここまでは「スピンク日記」と同じメンバーですが、故あって「シード」という元セラピードッグが家族になりました。
スピンク、キューティーはスタンダード・プードルで、シードはトイ・プードルで小型犬でした。

可哀想な状況にいる犬を受け入れてきた美徴さんの第3回目の犬の救出でした。
どう可哀想なのか?シードは「セラピー犬」であるということは「レンタル犬」でもありました。
1時間800円でレンタルされる犬ならば、大方は大きくて立派な犬を選びます。
その選択からいつも漏れていたのが「シード」だったわけでした。

この合財帖は、シードを加えた5人の家族で始まります。
「主人・ポチ」はこれを実際に執筆しているであろう作家「町田康」と推測されます。
それをスピンク口調に書いていますので、あたかもスピンクがポチポチとキーボードを打っている感覚に襲われ、
読者は笑いかつ微笑んだりすることになる。
以前も書きましたように、現代版「吾輩は猫である」と同時に犬版でもあります。

3頭の犬は主人に従順な立派な犬ではないし、
主人ポチも立派(?)な大人の男ではない。
この組み合わせのなかで、主人に忠実な犬は育たないし、
もともと主人は「ポチ」なのですから。
だから興味ある匂いに誘われたら、主人のリードを引っ張り過ぎて主人は転倒するし、
犬の訓練の常識とは程遠い関係になります。

そのことを深く考えさせられました。
人間の生活上の都合から、犬はお利口訓練を受けさせられている。
……と言うことに深く気付きました。

スピンクの人間批判は鋭い。ということは「主人ポチ」が鋭い切り口だったのかな?
ともかく楽しい1冊でしたとさ♪


    (2012年・講談社刊)

謹賀新年

2013-01-01 23:15:00 | Letter
   


   いわというには
   ちはとおく
   のはなにたちどまり
   るのほしをみあげ
   みのかぜにふかれ
   じのいろをかぞえ
   はらにねころんだり……
   じゃくなこころに
   うふのたくましいうでと
   んしょうなけもののあしをかりて
   おいみちをあるいてゆく


          2013年元旦