テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

エターナル・サンシャイン

2009-07-06 | ファンタジー
(2004/ミシェル・ゴンドリー監督/ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルステン・ダンスト、マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、トム・ウィルキンソン/107分)


 タイトルは知っていたものの、内容については全然予備知識無く観た映画。「allcinema-online」では“ロマンス/コメディ”とジャンル分けされていましたが、コレはSFファンタジーですね。ロボットとか宇宙人とか、怪しげなサングラスの男達とか、そんなものは出てこないので、一見SFらしい様子は無いですが、暫く観ていると主人公が頭に沢山のコードでパソコンに繋がったヘルメットを付けてベッドに横たわるのでソレと分かります。
 彼は何のためにそんな格好をしているのか?
 それは彼が自らの意志で、頭の中の“ある記憶”を消そうとしているからです。この映画の世界では、消したい記憶(思い出ともいって良いですが)を持っている人が、お金を払って記憶の消去を依頼する病院のような民間機関があるというのが前提になっています。

 ジム・キャリー扮するジョエルは気弱な独身男性で、ある日、会社に行くのが嫌になって仮病を装い、通勤列車と反対方向の電車に乗って海辺の駅で降ります。白波がうち寄せる砂浜で偶然見かけた女性(ウィンスレット)とは、その後の帰りの電車でも一緒になり、積極的で風変わりな言動の彼女に惹かれたジョエルは、そのまま彼女と付き合うようになるのですが・・・というような出だし。

 夢と現実、過去と現在が入り交じって、一度で流れを理解するのが困難な作品でもあります。大体の背景は分かるんですが、例えば主人公の夢、つまり彼の頭の中の非現実的な映像の中に過去の思い出も色々と姿を変えて出て来る為、それが現実モードでの時間軸の入れ替え操作と重なって、ストーリーの流れがスムースに入って来ないのです。どうしても2回目が観たくなるし、2度目の方が格段に分かり易いです。

 ジョエルの悩みは恋人と上手くいかなかったからで、その為に彼女の記憶を消そうとしているのです。一方で、消したくない気持ちも残っている。価値観の違いから喧嘩別れして、消してしまおうとした恋人の記憶が、いざその段になると消したくなくなる男の気持ちは分かりますよね。
 ジョエルは睡眠薬を飲んで自宅のベッドに横たわり、予め渡されていた鍵を使って彼の部屋に入ってきた“病院”の担当者は、彼の頭に記憶除去のためのヘルメットを装着し、コードをパソコンに繋ぐ。ソフトはジョエルの脳内の解析図を作成し、彼の消したい記憶の場所を色付きで表示する。表示が完了すれば、後はソフトに任せて自動消去モードに入っていく。

 ベッドに横たわるジョエルの脳内の仮想映像も流れます。それは、彼女との過去の思い出だったり、子供の頃の思い出だったりします。記憶の消去に無意識に抵抗するジョエルの思いを反映した非現実的なものも当然出てきて、それらは想定内の映像だったり、目新しい新鮮な感情を沸き立たせる映像もあります。
 作者の狙いは、彼の恋人に対する切ない感情を描くことにあるのだと思いますが、それ程成功しているとは思いません。非現実的なそれらの映像は、同じような感性を持った観客には理解できても、一般的な感性の観客にも充分な効果をあげ得たかは疑問だからです。
 しかも、この映画にはサブ・ストーリーがあって、ジョエルの記憶除去を行っている病院の複数の担当者に関するドラマも後半に入ってきます。それにはスリルが伴っていて興味は湧くし、終盤のジョエルの話とも繋がっていくんですが、結果としてはジョエルのストーリーを薄めてしまっているようです。結論からいえば、アイディア先行に溺れて、どの人間も描写が浅いままで終わっているということでしょうか。
 ラストの展開(↓“ネタバレ内”)にも、『・・・だから?』と画面に問いかけたくなりましたな。

 不思議な設定の中で、男と女はどんな反応を見せるか、そんなことを描きたかったのでしょうかねぇ。
 病院関係者絡みのサスペンス展開は無しにして、主人公二人の感情の揺れ動きをもっと濃密に描ききって欲しかったですね。


▼(ネタバレ注意)
 ジョエルの消そうとした記憶の恋人は、冒頭の砂浜で一緒になった女性で、要するに元々恋人同士だった二人が又しても出逢ったという次第。
 終盤では、お互いに相手の記憶を消してしまった二人だったと気付くという皮肉な結末で、要するに惹かれる者同士は、やっぱしくっつくんだというありふれた結論になる。しかしながら、この二人は失敗の記憶も消しているのだから、つき合いを再開しても失敗を繰り返すのは目に見えている。

 『・・・だから?』(←十瑠の声)

 ケイト・ウィンスレットの役名はクレメンタイン。
 実はジョエルよりも先に彼女の方が記憶の除去を行っていて、病院に来た彼女に一目惚れしたのがイライジャ・ウッド扮するパトリック。パトリックはジョエルの記憶除去の担当補佐でもあり、ジョエルの彼女に関する思い出の品々を預かって、クレメンタインの情報をこっそり集めている。要するにストーカーです。
 キルステン・ダンスト扮するメアリーは病院の受付で、ジョエルの担当のスタン(ラファロ)と付き合っています。ところが、彼女には、ジョエルの主治医ハワード(ウィルキンソン)との関係もあり、それは一度消された過去となっている。
 終盤でその事に気付いたメアリーはショックを受け、会社も辞めて、ジョエルとクレメンタインにそれぞれの資料を返却する。この展開も『なんだかなー』ですな。
▲(解除)


 2004年のアカデミー賞で、主演女優賞(ウィンスレット)にノミネートされ、脚本賞(チャーリー・カウフマン、ミシェル・ゴンドリー、ピエール・ビスマス)を受賞したそうです。
 ゴールデン・グローブでも、作品賞(コメディ/ミュージカル)、男優賞(コメディ/ミュージカル)、女優賞(コメディ/ミュージカル)、脚本賞にノミネート。英国アカデミー賞でもオリジナル脚本賞、編集賞(ヴァルディス・オスカードゥティル)を受賞し、作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞(デヴィッド・リーン賞)にノミネートされたそうです。

 チャーリー・カウフマンは「マルコヴィッチの穴 (1999)」の脚本で話題となり、2008年には「脳内ニューヨーク (2008)」で初監督にも挑戦とか。なんとなく、関心の対象が首から上に集中しているみたい。(笑)
 「マルコヴィッチの穴」には興味があったんだけど、今回でちょっと後回しになっちゃったかな。

・お薦め度【★★=アイディアは、悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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2 コメント

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記憶消し (vivajiji)
2009-07-07 08:56:23
&記憶なくし映画の走りかしらね。

いかにもゲーム時代人が好む
感覚映画ではあったよね。
おおむね若い人たちは
「切ない~可哀そう~」だったし。

私など、アホらしくて、
そんなもんでないだろっ!
な~んて思っちゃって
観ているのが、やっとの状態でした。

HNにTBでございます。^^
返信する
vivajijiさんも・・ (十瑠)
2009-07-07 13:50:54
記事にされていましたか。
今回が初見だから、その記事は読まなかったのかも。

2度目は、色々な事情が飲み込めた後なので、主人公の背景にも想像を膨らますことが出来て面白いのですが、中盤はずっと早送りしてしまいましたネ。
返信する

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