テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

無人の野

2006-07-14 | 戦争もの
(1980/グェン・ホン・セン監督/グェン・トゥイ・アン、ラム・トイ/95分)


 NHK衛星映画劇場での放送。
 ベトナム映画は珍しいし、モスクワ映画祭金賞受賞作との事だったので録画して観た。予算の関係でしょうか、モノクロです。

 ベトナム戦争時の対アメリカ戦をベトナム側から描いたもので、NHKのBSオンラインの説明はこうです。

 <ベトナム戦争末期、戦地となった村でひっそりと暮らす若夫婦の愛情に満ちた生活が踏みにじられる様を通して、戦争の残酷さを静かに訴える感動作。ベトナム解放軍同士の連絡を断たせるため、アメリカ軍は南ベトナムのデルタ地帯のとある地区を無人にする作戦に出た。村人たちがすべて強制収容される中、解放軍の連絡員を努める一組の夫婦が幼い子供とともに残るが、やがてアメリカ軍に見つかり…。>

 <村人たちがすべて強制収容される中・・・>とあるけれども、普通の村人は出てきません。出てくるベトナム人は全てゲリラ活動をしている人間で、強制収容されるシーンもありません。
 若夫婦はメコンデルタの川面の上に枯れ木や草を集めて作ったような家で暮らしていて、半分水に浸かっているような水田ではお米も作っている。赤ん坊も一緒にいるから、あれは戦争前からそのようにして生活していたのでしょう。

 赤ん坊を抱える若夫婦と彼らの置かれた状況を説明する前半はそれなりに観られたけど、後半の展開はモタモタしていたり、途中を端折ったようなシーンもあり、興ざめしてきた。それよりも、アメリカ軍側で出てくる人間が限られていて(ベトナム語をしゃべっているし)、まるで一昔前のマカロニ・ウェスタンの悪役のような描き方だったので笑ってしまいました。
 作劇としても映像的な演出も同時代に観た欧米の映画とは比べものにならないものです。アジアでも、インドにはサタジット・レイという才人がいましたがね。
 80年の作品だから、ソヴィエトの政治的な意図も有ってのモスクワ映画祭金賞受賞かもしれません。

 ただ、アメリカ軍のヘリコプターが出てきて、若夫婦が川の中を歩いて逃げたり、草むらに隠れたりするシーンは、ドキュメンタリーを観ているような迫力がありました。いよいよ家が爆撃されるかも知れないという時には、赤ん坊も連れて逃げ、見つかりそうになる時には、赤ん坊をビニール袋にすっぽり入れて一緒に川の中に潜ったりする。
 当時の報道写真を彷彿とさせるような画で、まるで、ベトナム版「地下水道」のようだと思いましたな。

 ラストは、旦那さんの方がヘリコプターからの銃弾に倒れ、奥さんが旦那の銃で応戦。見事仇を討ち、ここに雄々しい女性戦士が生まれましたとさ・・・てな具合でした。

・お薦め度【★=お薦めしません】 テアトル十瑠

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« <訃報:ジューン・アリスン... | トップ | 「ペーパー・ムーン」こぼれ話 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
無人の野 (ぶーすか)
2006-07-14 07:32:17
こんにちはー。TBさせて下さい。十瑠さんはかなり辛口批評ですが、私はベトナム映画をあまり観た事がないのでとても新鮮でした。水上生活の様子も美しかったし…。でもあの「マカロニ・ウェスタンの悪役みたいな」なんちゃって米兵には苦笑でしたね^^;)。
返信する
辛口でしたか (十瑠)
2006-07-14 09:15:50
私もベトナム映画は初めてだと思います。

夫婦の会話とか見つめ合うシーンなんか、ショットの編集が日本の子供向けTV番組みたいだなぁと思ったりもしました。



それにしても、あの水上生活は冷房完備の現代日本人には耐えられそうにないですね。
返信する
アフガン進攻 (オカピー)
2006-10-28 14:02:00
した当時のソ連ですから、共産主義的なプロパガンダが評価されたような節もありますね。



感想に関してはほぼ同じようなもの。意味もないのにズームインとアウトを繰り返すので、30分もしたら嫌になっちまいました(笑)。

それでも原始的な撮影が却って力強いと感じられる部分もあるので評価は甘めにしました。

双葉式採点なら、実力は☆☆★★★くらいなところでしょう。
返信する
☆☆★★★か、☆☆☆ (十瑠)
2006-10-29 13:28:26
めったになかったような評価ですが、やはりそんなところでしょうか。

アメリカ兵の描き方があまりにお粗末でした。
返信する

コメントを投稿

戦争もの」カテゴリの最新記事