何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

そも、波動砲は

2016-02-13 23:07:55 | ニュース
「これからが、これまでを決める」の出典を検索している時、アインシュタインの一般相対性理論から「時間」について解き明かしたうえで、この言葉を説明している文章(本の引用)に出くわした。
物理では、「これは何点満点のテストですか」という点をとった苦い経験がある私には、そもそも一般相対性理論の正確な理解などできようはずもないが、それが示すところに大いにショックを受けたので、ともかくその本をあたろうと思っていた矢先、一般相対性理論が正しいことが証明される世紀の大発見があった。

<重力波>世界初観測 国際研究チーム 宇宙誕生のなぞに光  毎日新聞 2月12日(金)0時46分配信より一部引用
◇一般相対性理論の正しさを改めて裏付け
物理学者のアインシュタインが100年前に予言した「重力波」を探索している米マサチューセッツ工科大など米国を中心とした国際研究チーム「LIGO(ライゴ)」は12日未明、宇宙からやってきた重力波を初めて直接観測することに成功したと発表した。重力波の存在を予言したアインシュタインの一般相対性理論の正しさを改めて裏付けると共に、宇宙誕生のなぞや、光や電波では観測できない天体現象の解明に期待がかかる。
重力波は、ブラックホールなど質量の非常に大きな物体が動く際、周りの時空(時間と空間)がゆがみ、そのゆがみが波のように伝わる現象だ。アインシュタインが1915~16年に発表した一般相対性理論に基づき予言した。この理論は、宇宙の膨張やブラックホールの存在を示す数多くの観測などから正しさが確かめられてきたが、重力波による時空のゆがみは極めて小さいため、観測に成功した例はこれまでなかった。
重力波は、ブラックホールなど質量の非常に大きな物体が動く際、周りの時空(時間と空間)がゆがみ、そのゆがみが波のように伝わる現象だ。アインシュタインが1915~16年に発表した一般相対性理論に基づき予言した。この理論は、宇宙の膨張やブラックホールの存在を示す数多くの観測などから正しさが確かめられてきたが、重力波による時空のゆがみは極めて小さいため、観測に成功した例はこれまでなかった。
http://mainichi.jp/articles/20160212/k00/00m/040/109000c

このニュースを聞いて、「パラドックス13」(東野圭吾)が真っ先に浮かぶのだから、ほとほと私は物理に縁がない。
図書館で借りて読んだためストーリーを正確には記せないが、ある日ブラックホールに異変だか歪みだかが生じたため、13秒消えてしまうという現象(P-13)がおこる。
P-13現象を事前に予測した世界の指導者たちは、パニックを避けるためにそれを一般人に知らせず、危険な作業は止めさせるとだけ決める。
だが、P-13と呼ばれる現象が引き起こしたのは、それでどうにかなるものではなかった。
世界から人が消えてしまったのだ。
正確には無人になったわけではなく、わずかに残されうちの13人が廃墟となった東京で何を考えるのか、という話だったと思う。

東野氏は自身が電子工学を学んでいるので、作者の主眼は別のところにあるのだろうが、当時「携挙」について書かれた「レフト・ビハインド」(ティム・ラヘイ、ジェリー・ジェンキンズ)を読んだばかりだったので、P-13現象で人類が消えるという事象を「携挙」に重ねて読んでしまった。
手前勝手な発想で読んだが、その発想で読んでみれば、意外なほどに双方の理解に役立ったのは、「パラドックス13」のなかに繰り返し、「天は自ら助くる者を助ける」という聖句が出てきたからだと思われる。
「レフト・ビハインド」では、全き信仰者だけが大患難を前に天に救われ(この世から突然消える)、信仰足りぬ残された者が邪悪な誘惑と闘いながら正しい道を模索する話であるのに対し、「パラドックス13」は、結果的には消えた側からの物語だが、極限状態におかれた人間の行動を考える意味においては通ずるものがあったと思う。

ともかく「パラドックス13」
P-13現象で世界が廃墟となった後も間断なく大地震と洪水は続く。
管理する人間を失えばインフラは全てストップし、街に溢れている物もやがては朽ち果てていくしかない。
P-13現象を経て存在を確認し合った者たちも、たちまち「生きる」ことが困難となる。
ただ「生きる」ことが困難となった時、それでも自分だけは生き残ろうとする者、他人の足手まといにならぬよう自ら生きることを止めようとする者、そもそも人間が消え失せ廃墟となった町で生きることに意味があるのかと悩む者が思う。
『せめて目標がほしい、と思った。
 生き続けることで何かを得られるのなら、それが何かを知りたかった。』

ただ生きるだけでも困難な状況で、その先にある目標を望む人間の姿は「人はただパンのみにて生きるにあらず」という言葉を思い起こさせたし、「天は自ら助くる者を助ける」という聖句が何度も書かれていることも併せ考えれば、東野氏はSFジャンルの作品に止まらない思いを込めて書かれたのだろう。
この言葉を裏付けるような登場人物の言葉もある。
『幸運を得たいのならば、まず自分の出来る最大限の努力をしろということだ。
 そのうえで俺は結果を受け入れる。
 行き着く先には死しかないということなら、その時初めて俺は観念する。
 しかしそれまでは諦めない。』
『生き抜こうとしない者には、奇跡なんか起きないと思え』

「レフト・ビハインド」と同時期に「パラドックス13」を読んだので、倫理や価値観に比重をおく読み方に繋がったが、理解しようにも分からない物理的現象という設定は、その状況下での心情の理解を曖昧にする面はあったかもしれない。だが、重力波のニュースを知り、その重力波の規模が大きければP-13は起り得るのではないか、であれば、そのとき自分はどうするのか、どうなっているのかと現実感をもって考えさせられた。
・・・・・このニュースを、このように受け留めていると書くことで、自分の物理音痴を曝け出しているのは情けないが、東野氏をはじめ理科系専門家による小説は、思わぬところで思わぬ気付きを与えてくれると感謝している。

というのも今、私がどうしても受け入れることが出来ずにジタバタしている本の作者が物理学者だからだ。
「14歳のための時間論」(佐治晴夫)
物理学から時間を解き明かそうという本で、14歳の子に理解できるように書かれているので、さすがに理屈は掴めているはずだが、それでも心が納得せずに困っていた。
それが、小説「パラドックス13」を思い出すことで少し視点が変わり、物理学的時間論を理解する心情的な助けとなっている、これが小説の良いところかもしれないと物書きの方々に感謝している。(参照、「家長ワンコが連れてくる春」

しかし、物語の世界に置き換えてもらわなくとも、世界が見えている人たちには、私とは全く違う世界が広がっているのだろうと思う。
違う視点や世界観という点で、雅子妃殿下を思い出した。
最近同時通訳者が、雅子妃殿下が皇室内で苦労されるのは帰国子女特有の「個性の“a”が、周囲の“the”に滲み込むことができ」ない点にあると書いているものを読んだ。雅子妃殿下は多くの皇族の方々と親しく交流されており、帰国子女ゆえに滲み込むことができない状態では全くない。
が、仮に雅子妃殿下が少し異なる視点をもっておられ、それゆえ相互理解が難しい点があるとすれば、その理由を帰国子女だけに求めることが誤解を拡大させているのだと思う。
雅子妃殿下は五か国語に堪能なだけでなく実は理科系にも秀でておられ、アメリカの高校時代には数学部に所属しておられ、得意科目は物理であったという。
物理音痴な私が物理学的時間論の理解に苦しむのと同様に、物理学を修めた人から見れば、それを理解しない人間の(屁)理屈は理解に苦しむものがあるのかもしれない。
その間にある、どうしようもない教養と理解の深度の溝を、優しい雅子妃殿下は御自身が埋めようとされたので、心が疲れてしまわれたのかもしれない。

ただ、どのように理解しようとも、「これからが、これまでを決める」ということは事実だと思う。

雅子妃殿下には辛く厳しい「これまで」の時間があったが、「これから」が素晴らしいものとなることで、「これまで」の時間の持つ意味も変わってくる。

雅子妃殿下には、これまでの時間を塗り替えるような素晴らしい時間を重ねていかれるよう祈っている。

恥の上塗りで、も一つ疑問を書いておく。
「重力波」と云うと「パラドックス13」以外にも実は、宇宙戦艦ヤマトの波動砲を思い出していた。
宇宙のエネルギーを動力にする兵器だが、確かワープの時にも利用していたはずで、物理の授業で「理論上はあり得る」と習った記憶があるような、ないような、あるような。

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