バスの乗客

高さのあるヒールの靴を履いていた長女が、バスから降りる1段目のステップでよろけて、そのまま地面まで落ちた。
脚も手もすりむいて痛々しかったけど、運転手さんも、ほかの乗客も、誰も救けてはくれなかったらしい。
聞いていて切なくなった。

同じ日。
今度は帰宅しようとして、また長女はバスに乗った。混み合っていて、長女は立ったままだった。
そこへ、腰の曲がった高齢のおばあちゃんがすこし大きな荷物をもって乗ってきた。
運転手さんが「お席の譲り合いをお願いします。」と車内アナウンスしたけれど、誰も立たなかった。

バスという乗り物は、電車よりも優先席の必要性を強く感じる。以前杖歩行だったときに、電車と違って左右に頻繁に揺られるバスは結構大変だった。

立っていた長女は、おばあちゃんに近づき
「お荷物、お持ちしましょうか?」
と声をかけた。
おばあちゃんは、大丈夫ですよ、と言ってそのまま立っていた。その間も、結局長女がバスを降りるまでも、誰も席を譲ってはくれなかった。

この話を長女から聞いていて、うちの子というのではなく、長女は思いやり深いひとなんだなと、
子どもではなくて、「ひとりの人」として初めて感じた。
私が高校生のときには、絶対にそんな行動はとれなかったと思う。
その年齢で自分のとっさの判断で、すっとすぐに声かけられるのかと、びっくりした。
大人になった今でも、わたしは出来る自信がない。座ってるひとたちー、誰か立ってあげてくださーいって、心のなかで念じるだけになりそう。

普段、家では毎日毎日同じことを注意され(自分の洗濯物たたみなさい、お弁当洗いなさいなど)、正直、高校生になってもこんなことで困ったものだと思う日のほうが多かったけど、社会のなかの長女はなかなか素敵なひとだ。やるじゃん、そう思った。嬉しかった。
オロナインを塗ってあげよう。

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