今までに描いたはがき絵をいろは歌に沿って紹介していくシリーズの三周目が、いよいよ最終回です。現代仮名遣いにない「ゐ」と「ゑ」はとばしました。「を」と「ん」で始まるはがき絵も見つかりませんでしたので、全部で四十四作品を紹介できました。
三周目の第十五回目、最終回の今回は「せ」と「す」の二つです。
『せ』・・・扇風機
扇風機の絵を描いて「味付け海苔をとばす風が吹く。100円ライターでおさえる。」と書き添えました。
説明が必要ですね。昔のスナックの風景です。クーラーなんか無いんです。あっても効いてないんです。カウンターの隅に扇風機があって、首を振っているんです。味付け海苔はお客さん全員に出すおつまみです。袋を切って、中身を袋の上に置きます。それだけでは扇風機がこっちを向いた時に海苔がどこかへ飛んで行ってしまうので、100円ライターで押さえています。扇風機があっちを向いているすきにライターの下から海苔を一枚とって食べるのです。ライターはすぐに戻さないと、扇風機がこっちを向いて海苔を飛ばしにかかります。カラオケがあまり普及していないので、お店の人はおしゃべりが上手です。知識が豊富でどんな話にも合わせてくれました。今のように客が勝手にカラオケで盛り上がっていて、ときどき水割りを作るだけ、という感じではないのです。
「扇風機」は夏の季語。歳時記を開くとこの季語の「本意」が伝わってきます。私の思い出の中の扇風機はこんなふうに首を振っています。
『す』・・・睡蓮
睡蓮を描いて「モネの真似」と書き添えました。睡蓮といえば印象派の巨匠クロード・モネの名が思い浮かびます。エドゥアール・マネという画家もいて、名前も活躍した時期も似ているので、混同されることもあります。たしかマネの方が8歳年上だったと思います。マネにはピクニックをする3人の人物を描いた「草上の昼食」という作品があり、モネはその絵をオマージュした「草上の昼食」という作品をものしています。モネによる「マネの真似」と言えそうですね。ややこしいですね。
マネは睡蓮の絵を連作していて、200点以上が残っているそうです。亡き妻への追想や懺悔の気持ちが込められているという説もあります。私なんぞがちょこちょこっと睡蓮を描いて「モネの真似」というのもおこがましいのですが、ダジャレということでお許しいただくことにしましょう。余談ですが、マネの「オランピア」をゴーギャンが模写した絵が残っています。つまりその絵はゴーギャンによる「マネの真似」です。また、マネもモネも自画像を残しています。マネの自画像はマネによって描かれたマネ、つまり「マネのマネ」、モネの自画像はモネによって描かれたモネ、つまり「モネのモネ」ですね。と、ここまで書いてどうしても気になったので調べてみて、わかったことがあります。マネが描いた「庭のモネ一家」という作品があるそうです!マネによって描かれたモネ、つまり「マネのモネ」も存在します。
睡蓮は俳句では晩夏の季語に分類されています。蓮も晩夏の季語ですが、蓮が水面から花茎を立ち上がらせて、いわば「空中で」咲くのに対して、睡蓮は水面に接した状態で、いわば「水に浮かんで」咲くという違いがあります。おえかきのお題に出た時には気を付けたい相違点です。
「はがき絵いろはうた」と称して今までに描いたはがき絵をいろは順に紹介していくシリーズも、これで3周目が終わりました。
4周目は「あつまれ!おえかきの森」というおえかきのチャットゲームで合作した絵をたくさん紹介していく予定です。解説文を新たに加えてご覧いただいておりますので、4周目もぜひお付き合いくださいね。