節目のシーズン10が放送されたばかりで、大晦日スペシャルも好調だったようです(画像:テレビ東京 【ドラマ24】孤独のグルメ Season10公式サイト)
今なお大晦日に放送された「NHK紅白歌合戦」の是非を問うような記事が話題を集めていますが、歴史の長さや、かける時間・人・金の多さなどを踏まえると当然かもしれません。 【グラフ】生涯未婚率「学歴」だけでこうも違う過酷な現実 一方、民放各局の大晦日特番に目を向けると、低予算ながら視聴率民放2~3位の結果を出し続けているのが、「孤独のグルメ」(テレビ東京系)。近年は日本テレビ、TBS、フジテレビの大晦日特番に勝つケースも見られるなど、その存在感はグルメドラマというレベルを超えたようにも見えます。
「孤独のグルメ」は昨年10月7日~12月23日にかけて、節目のシーズン10が放送されたばかり。恒例となった「大晦日スペシャル」の放送も終わって、ひと息……と思われがちですが、そうではありません。 テレビ東京は昨年9月15日から月~木曜、17時45分~18時25分の“帯ドラマ”として、「孤独のグルメ 全話イッキ見」を行っていて、現在はシーズン6が再放送中。これはつまり、「夕食時というタイムリーな時間帯にも楽しんでもらおう」という戦略でしょう。
■平日夕食時や休日昼食時にも放送 他のエリアでも、テレビ北海道とテレビせとうちが、同様の夕食時に放送。さらに、夕食時の放送を行わないテレビ大阪も9日(祝)14時56分~16時29分、テレビ愛知も7日(土)11時30分~13時5分、TVQ九州も9日(祝)13時30分~16時50分と、新年最初の三連休に傑作選を放送します。「孤独のグルメ」で扱われる大半の飲食店は東京か関東近郊であるにもかかわらず、すべての系列局から重用されていることに驚かされました。
また、昨春からParaviと、ひかりTVで、「孤独のグルメ~美味しいけどホロ苦い…井之頭五郎の災難~」が配信されています。これは放送10周年のメモリアルイヤーに考えられた新たな試みであり、「配信コンテンツとしても稼ぐ」という点でさらなる進化を感じさせました。
ただ、このような戦略は「孤独のグルメ」だけではなく、テレビ東京の番組全体にわたるものだったのです。 これまでテレビ東京は「孤独のグルメ」だけでなく、同じ深夜帯に「ワカコ酒」「侠飯~おとこめし~」「きのう何食べた?」「忘却のサチコ」「新米姉妹のふたりごはん」「絶メシロード」「女子グルメバーガー部」「ひねくれ女のボッチ飯」「先生のおとりよせ」「しろめし修行僧」「ザ・タクシー飯店」「晩酌の流儀」などのグルメドラマを量産し、今冬も「今夜すきやきだよ」が放送されます。
大晦日「孤独のグルメ」が他局を圧倒できる納得の理由
さらに昨年4~9月には、お取り寄せがテーマのグルメドラマ「よだれもん家族」を日曜11時台の昼食時に2クール放送。前述したように昨年9月から現在まで「孤独のグルメ」を夕食時に放送していることから、グルメドラマの放送時間帯が深夜だけでなく、休日の昼食時や平日の夕食時に広がっている様子がうかがえます。 これらの戦略によって「グルメドラマはテレ東」という印象は決定的なものになりましたが、「孤独のグルメ」が火をつけた“飯テロ”はドラマだけではありません。
■全時間帯戦略と一大キャンペーン まず昼の時間帯では、平日が「昼めし旅」「虎ノ門市場」、土日は「男子ごはん」「種から植えるTV」「ひるパ! 土曜はゆるっとホームパーティー」を放送。次にゴールデン・プライム帯では、「タクシー運転手さん 一番うまい店に連れてって!」「デカ盛りハンター」などが放送されているほか、「出没! アド街ック天国」「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」「有吉の世界同時中継」などもグルメがメインコンテンツとなっています。
その他、深夜帯にも「二軒目どうする? ~ツマミのハナシ~」「サンドナイツがプロ野球選手だけの居酒屋はじめました」などがあり、さらに特番の新企画が不定期放送されるなど、全時間帯でグルメ戦略を進めています。 その全時間帯でのグルメ戦略が次の展開につながったのが、昨年のシルバーウィーク(9月19~25日)に行われたグルメキャンペーン「テレ東系 食べる1週間! 食べ東 世界を幸せ口にする」。 期間中、多くのレギュラー番組でグルメをフィーチャーしたほか、視聴者投票で選ばれたグルメドラマがTVerで配信。さらに、東京・池袋で食イベント「食べ東グルメパーク」が開催され、食事券のプレゼント(1万円×1000人)やグルメ福袋などの企画もありました。単にグルメ番組を見るだけではなく、実際に食べて、もらって、買って楽しめる一大キャンペーンだったのです。
もともと民放各局におけるグルメは、つねにトップクラスのテーマ。実際、日本全国のテレビ局がグルメ関連企画を放送していますが、テレビ東京のようにグルメドラマを量産し、一大キャンペーンを行うことはありませんでした。他局もグルメは番組でたくさん扱っていますが、「グルメならテレ東」のように印象付けることも、配信、イベント、プレゼント、買い物などのさまざまな角度から視聴者サービスすることもなかったのです。 もう一歩深掘りすると、テレビ東京が扱うグルメの内容は、外食だけではありません。テイクアウト、お取り寄せ、レシピ、パーティーなど、細分化されたニーズに応えるような細やかさがあり、他局の追随を許さないものがあります。
■主要4局を凌駕した“らしい”戦略 グルメというトップクラスのテーマを局としてどう扱っていくのか。「さまざまな番組でちょっとずつグルメコーナーを入れる」「視聴率が獲れたらその割合を増やす」という他局に対してテレビ東京は、「グルメを主役に押し出す」「それを局のブランドにする」という戦略を採用していたのです。 テレビ東京は「孤独のグルメ」がスタートした2012年以降、同作を中心に据えつつ、グルメ番組をジワジワと増やしていきました。しかもそれはコロナ禍に見舞われ、外食の機会が減るという逆境が訪れても変わりません。
たとえば、昨春の番組改編キャッチフレーズは「テレ東の必殺技 アニメ・グルメ・ドラマ多メ」でしたし、前述したグルメキャンペーン“食べ東”のときも「日本で一番グルメ番組を作るテレビ局」「開局以来、ずっと食べてばかり」というコメントを発信していました。民放主要4局を向こうにまわし、「トップテーマであるグルメはウチの局がもらった」と宣言する自信としたたかさを見せていたのです。 テレビ東京が局員、予算、ネット局などのスケールで勝る主要4局を凌駕できたのは、「孤独のグルメ」のスタートから約10年の年月をかけた地道な積み重ねの賜物でしょう。少し見方を変えると、深夜帯のドラマできっかけを見いだし、そこで実績と信頼をつかんだあとにゴールデン・プライム、さらに昼や夕方にもアプローチしていく……。そんなステップアップのルートも主要4局では考えづらいテレビ東京らしさを感じさせられます。
■“孤食”が尊重されるように 最後に話を「孤独のグルメ」に戻すと、同作の強みはテレビ東京の利益にとどまりません。実際、地方をフィーチャーする出張編などでは観光客を引きつける地域活性化に貢献していますし、全国の飲食店や交通機関、宿泊施設、自治体などから「番組を誘致したい」という声が寄せられているようです。 もう1つあげておきたいのは、とかくネガティブなイメージで語られがちだった“孤食”が「孤独のグルメ」によって尊重されるようになったこと。老若男女を問わず、「1人でも食事を楽しめる」。さらに「1人だからこそ楽しい」というイメージすら広がったことで、「生きやすくなった」という声も見かけるなど、多様性の尊重が叫ばれる現代にフィットしたドラマなのでしょう。