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Buona Verdura

人生を味わい尽くす食いしん坊野菜ソムリエの日々の記録

ヴァイオリン職人探偵ミステリー

2015年06月21日 | Libro
書店に気になるタイトルの2冊が並んでいた。
(そう、ちょうどこの写真のように)





迷わず 「ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密」(ポール・アダム / 青木悦子 訳)(原題:Paganini's Ghost) のほうを選択。

読み始めて間もなく、もう1冊のほうが先に書かれたことを知ったが、既にグイグイと引き込まれてしまっていたのでそのままこちらを先に読むことにした。

名ヴァイオリン職人ジャンニのもとに一挺のグァルネリ(天才演奏家パガニーニ愛用の名器 "イル・カノーネ")が持ち込まれるところからストーリーが始まり、その冒頭のシーンはまるで映画でも見ているかのように鮮明に絵が浮かび興味が一気に引きつけられる。

クレモナの郊外にたたずむヴァイオリン工房。そこで長年に渡り数々のヴァイオリンと静かに向き合いながら丁寧な仕事をしてきたジャンニが綿密な捜査に協力してゆくのだが、それはもうミステリーの域を超えたヴァイオリン・オタクの世界

魅力あふれる主人公ジャンニの人柄に惹かれていく一方で、パガニーニの生涯や作品についても詳しくなるし、グァルネリやストラディヴァリの知識も得られる・・・という、クラシックファンにとっては一粒で二度美味しい作品だ。

ジャンニが語るイザベッラとロッシーニの部分は、ミステリーを読んでいることを思わず忘れてしまう。

美術品ディーラーの死、黄金製の箱、その中に入っていたパガニーニに宛てた古い手紙・・・ジャンニの友人でありクレモナの刑事でもあるアントニオとの楽器をめぐる推理談義はなかなか奥が深くて楽しい。

続けて読んだ 「ヴァイオリン職人の探求と推理」(原題:The Rainaldi Quartet)は、同業者であり親友でもあるトマソ・ライナルディの殺害をきっかけに、悪徳ディーラーや贋作がはびこる楽器業界の舞台裏を描く。

やや複雑なストーリーながらもすべてが明解で説明も簡潔、とても読みやすいが、海外の作品は登場人物が多くなると私の場合は途中で確認作業が必要だ^^;。
それにしても、単なるヴァイオリン職人がここまで体を張り命がけで捜査に協力するなんてスゴイなぁ・・・いや、それ以前にジャンニがいなかったら事件が解決できないってどうよ!とツッコミを入れたくもなる(笑)

ライナルディの孫娘ソフィア(音楽院の学生)にジャンニがグァルネリの "デル・ジェス" を渡すラストシーンは感動的。

クラシック音楽に造詣が深いポール・アダムと青木悦子さんの名訳が生んだ本邦初登場のヴァイオリン職人ミステリー。
ジャンニの心理を描く部分では心に響く言葉も沢山あった。
続編が出ることを期待したい。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

2冊を読み終えてグァルネリやストラディヴァリへの興味が高まっていた時、タイミングよくNHKの「スタジオパークからこんにちは」に千住真理子さんが登場することを偶然知った。千住さんが語る「デュランティ」(1716年製のストラディヴァリウス)への思いやエピソードがこれほど興味深く感じたのもこの本格ヴァイオリンミステリーのお陰かもしれない。

そして、久しぶりに弦楽四重奏のあのシブ~イ世界にも浸りたくなった
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未知の世界をのぞいてみる

2015年04月12日 | Libro
昨年、高倉健さんが亡くなった直後にNHKで放送されていた特集番組を見てとても感銘を受けた。

「懸命に生きている人物を描くには、自らも懸命に生きなくてはならない」

役者であれば当然のことかもしれないが、健さんの口から出てくる言葉にはズシリとした説得力があった。
他にも感動して思わずメモった言葉は沢山ある。

"自分は日本が誇る大スターのことをほとんど何も知らなかったのだなー" とつくづく思い、この本を手に取った。

「あなたに褒められたくて」 高倉健 著 (集英社文庫)



健さんの人柄がストレートに伝わってくるような素敵な体験を綴るエッセイ。
感情豊かで素直な言い回しに気持ちがほぐされ、口語体で書かれている部分は本人の声が聞こえてくるようで銀幕のスターがとても身近に感じられた。

「Black Rain」で共演したアンディ・ガルシアの話だとか、マイケル・ダグラスがレストランに招待してくれた話だとかが出てくると、"おー、さすが高倉健じゃー" とハイテンションになってしまうミーハーな私^^;。

中学時代にボクシングに夢中になり、学校にかけ合ってボクシング部を創立してしまった熱い健さん。
毎年善光寺参詣を欠かさなかった健さん。

中でも心に残ったのは「ロンドンからの電話」。いい話だった。

最後はとても厳しかったお母さんへの想いが綴られている。

「お母さん、僕はあなたに褒められたくて、ただ、それだけであなたがいやがっていた背中に刺青をいれて ― 中略 ― 三十数年駆け続けてこれました」

涙なしには読めなかった。

どこを読んでもじんわりと感じられる優しさや温かさから、高倉健という人そのものの飾らない純粋な心が伝わってくるような1冊だった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「新・外交官の仕事」 河東哲夫 著 (草思社文庫)



元外交官である著者が「外交官とは何する人ぞ?」という疑問を持つ人たちに応えて日本の外交の実相を明かす。最新情報を取り入れたアップデート版。

外交官のイメージというと、真保裕一の「アマルフィ」に登場する黒田康作とか・・・もっとぶっちゃけるならその黒田役を演じた織田裕二とか・・・
つまり自分の外交官に対する知識度は極めて低い。

とはいっても、外交官のありのままの姿を知ったところで取り立てて驚くようなこともなく、だいたい想像していた通りの仕事の内容がより詳しく説明されている。

任地国により異なる国民性の特徴を知ることや、交渉の進め方における心理面でのかけ引きの重要性、それからODAのしくみなどについても丁寧に書かれている(それでもやっぱり私にとっては複雑だけど)。

「一筋縄でいかない途上国の現実」では、具体例のひとつひとつに "そっかー" と思わず頭を抱えてしまった。
(たとえば "豊かな国が途上国に寄贈した水洗トイレは、(断水が多いため)この世のものとは思えない惨状を呈している" とか "最先端の医療機器は電力不足で電圧や周波数が急変してすぐに壊れてしまう" など)。

実際にその仕事に携わった人でなければ語れないような苦労話や、最後の章 "「直接民主主義」の時代の外交" は興味深かった。

刻一刻と変化する国際情勢。
今では国民一人一人が世界中のニュースをいち早くキャッチして、ネット上では意見を自由に語り合う場も増えているが、国としての外交戦略はどうなのか?その方向性をうっかり誤ってしまうと何だかとんでもないことが起きかねない・・・最近そんな不安が自分の中でどんどん大きくなっている。そして、ある意味この本も日本の外交の未来に警鐘を鳴らしているといってもいいかもしれない。

読み終わったあと、在日する各国の大使をはじめとする外交官たちに今の日本について思うことを聞いてみたい、とふと思った。もしかしたら、我々日本人よりもはるかにこの国の今の状態が見えているかもしれない。
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吉田松陰と久坂玄瑞

2015年02月08日 | Libro

「吉田松陰と久坂玄瑞 ~高杉晋作、伊藤博文、山県有朋らを輩出した松下村塾の秘密」河合敦 著 (幻冬舎新書)




"もし神様が「たった1人だけ歴史上の人物に会わせてやろう」と言ってくれたら、私は迷わず吉田松陰を選ぶだろう" という教師であり歴史研究家でもある著者が、松陰と玄瑞の師弟関係をわかりやすく解き明かしてくれる1冊。

松陰が生前に残した膨大な日記や手紙類を丹念に読み解きながらその人となりを浮かび上がらせているので、とても興味深く読み進めることができる。

松陰について書かれたものを読むにつけ、この人は徳のある教育者にとどまらならい偉大な人物だったことがよくわかるのだが、この著でも同様で "身分を超えた人間愛" や "人の長所の見抜く天才的な才能" を持ち合わせる血気盛んなアジテーターという人物像がとても人間的に描かれている。

純粋でまっすぐ、決して歪むことのない志。
そんな松陰と冷静沈着な玄瑞の対比はそれぞれの気持ちがよく見えてくるようで面白い。
(松陰の死後、玄瑞はその遺志を遂げるため変貌していくようだが・・・)

優れた先見の明があったがゆえに短気でせっかち、とにかくすぐに行動すべき・・・そんな松陰がもし現代にやってきたら世の中はどう変わるだろう?・・・とやっぱりそこを考えてしまう。

処刑されると決まってからしたためた遺書からの一節が心に残った。

「どんなに短く一生を終える人間の中にも四季が備わっているものである。僕は30歳で死ぬが、そんな僕にも四季はきっとあるのです。たとえ10歳で死ぬ子にも四季は備わっているのです。
― 中略 ― もし同志が僕を憐れんでその志を継いでくれるなら、その種子は絶えることなく毎年実り続けるだろう」

人生を四季に例える美しい心と無念さが伝わってくるかのような一言一句。

「人の幸せは、生きた時間の長さには比例しない。いかに熱く生きたかによる」

という著者の一言もメモっておこう。

松陰も玄瑞も無念の死を遂げたが、残された膨大な書簡はこうして今なお人の心を動かしている。
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流星ワゴン

2015年02月08日 | Libro
ドラマの1話目を見て "流星ワゴンってこーゆー話だったんだ" と意外に思って読んでみたくなった。

「流星ワゴン」重松清 著 (講談社文庫)



仕事に疲れ、家庭に疲れ、人生に疲れたお父さんへの優しい応援メッセージである一方で、年を重ねる毎に父親という存在の前に立ちはだかる大きな壁とどう向き合うべきかと苦悶する息子たちに向けられたメッセージでもあると思った。

とはいっても、決してこれを読んだからといって元気になるようなエールではない。

現実はそう簡単には変えられないが、もしもそれが自分にとって大切なものであるならば、より良くしようと思うこと、諦めないことはとても大切。たとえ器用に立ち回れなくとも思いはきっと伝わる・・・読み終えたあとにそんな勇気がじわじわと湧いてくるような気がした。

ある時、"もう死んだっていいや" と思った主人公(永田一雄)の前に一台のワゴン車が現れて、過去の人生の分岐点に連れて行かれる。ワゴン車を運転する橋本さん親子と途中から同乗する主人公の父(なぜか一雄と同い年の設定でチュウさんと呼ぶことになる)という4人の男性が中心となってストーリーが展開されていく。

離れてしまった父と息子が現実の世界で心を通わせていくのではなく、不思議なドライブの中で "朋輩" として語り合うところがこの作品の最大の魅力だろう。(もっとも、昨今の父子の関係はきっともっとフレンドリーなんだろうけど)。

永田家の家庭の崩壊は悲惨な出来事ではなく、乗り越えるための試練とさえ思えてくる。
切なさを噛みしめながらも常に心のどこかで一雄を応援しながら読んでいる自分がいた。

"泣ける" という紹介もあったが、自分は女だからだろうか、そんなにボロボロ泣けるようなところはなかった。ただ、最後の最後に涙がハラハラと流れてきた一節があった。

「あなたが魔法を信じるなら、もしかしたら、橋本さんたちに出会うかもしれない。― 中略 ― もし橋本さんと健太くんに会えたら、伝えてくれないか。
僕は元気でやっている。」


ドラマがどこまで伝えてくれるのかが楽しみでもある。
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My best book of 2012

2012年12月30日 | Libro
今年読んだ本の中では断トツで一番のお気に入り。

「小澤征爾さんと、音楽について話をする」




ページをパラパラとめくると一見インタビューのように見えるけど、インタビューというより対談、いや、コアでマニアックなクラシック音楽ファンである村上春樹とマエストロ小澤征爾のとっても素敵なクラシック音楽談義の記録、とでもいったらいいのかな。

村上春樹が設定したテーマに沿って会話が進行していくんだけれども、そこに二人の上下関係や堅苦しさはまったくなくて、かといって音楽に対する情熱のぶつけ合いなんかでもなく、ただただ自然に響き合う大人の会話の時間が流れていく。

マエストロに対する村上春樹の尊敬と愛情が、実にさりげなくこの指揮者の魅力を引き出している感じがして、"いい出会いとはこういうことをいうんだなー" と思った。逆にいえば、村上春樹でなければ小澤をここまで語らせることはできない、と明言してもいいくらい。

真面目な音楽の話の合間に、時折ふっと目の前にある食べ物の話題に移る瞬間、自分もそこに居合わせるかのような臨場感が生まれて、ずんずん引き込まれていってしまう。このへんはもう流石としか言えない。

アバドの名前もちょいちょい出てくるのが嬉しい(*^^*)。

と、あんまりここであれこれ書いちゃうとこれから手に取るかもしれない方に申し訳ないので、最後に「まえがき」から心に残った一節を。

小澤さんが少しでも長く、少しでも多く、「良き音楽」をこの世界に与え続けてくれることを、僕は心から希望している。「良き音楽」は愛と同じように、いくらたくさんあっても、多すぎるということはないのだから。そしてそれを大事な燃料として取り込み、生きるための意欲をチャージしている人々が、この世界には数えきれないほどたくさんいるのだから。
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「リンゴが教えてくれたこと」 が教えてくれたこと

2010年09月07日 | Libro

著者の木村秋則さんはTV出演しているのを見たこともあるし、この本の内容もだいたいわかっているつもりだった。

ところが、いきなり冒頭の "はじめに" の中に出てくるこの5行を読んで愕然としてしまったのだ。

神様が地球のみんなのお願いを聞いてくれるとします。
「家族みんなが、金持ちで幸せに暮らせますように」などと人間は願います。
神様が木や鳥やすべての地球上の生き物の願いを聞きます。
すると何のお願いが一番多いでしょうか。
「人間がいなくなったほいうがいい」


素朴なのにどこかドキッとさせられる文章にすっかり心を奪われ、何度も涙を拭いながら読んだ。

自然栽培のリンゴがうまくいかずに悩んでいる時に、木村さんは山に自生しているドングリの木の周辺を観察し、そこには生命があふれ、すべてが循環していることに気づく。

ドングリの木もそれだけで生きているのではない。周りの自然の中で生かされている生き物だと気づきました。
そう思ったとき、ああ、人間も本来そうじゃないのかと感じました。人間はそんなことをとっくに忘れてしまっている。自分一人で生きていると勘違いしている。だから自分が栽培している作物も、農薬を撒くとどんなに自然の調和環境から逸脱して本来の姿から変質していくのか、少しも理解しないで突き進んできたのではないかと思いました。


【木村哲学】
日本の農業の内側を知り尽くしているからこその木村哲学が展開される。

心に刻んでおきたい個所はこんなブログなどには書ききれないくらいあるが、その中のいくつかをメモっておきたい。

今の農業は観察する力を失っています。土の上だけ、目に見えるところだけしか見ていません。人間は分からないところ、見えないことろに目をやろうとしません。専門家がそこに目を向けても、総合的に見るのではなく、根一本だけを見て物事の結論を出そうとしているのが今の社会ではないかと思います。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

自然のものは枯れていきます。人がつくったものは腐っていきます。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

農業は人間のやさしい心を育みます。
(中略)
もし自分がキャベツだったら、トマトだったらと自分を置き換えて野菜と接すれば、対人関係でもやさしさが戻ってくることでしょう。相手を自分のように考えれば心がやさしくなります。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私はリンゴの実らない期間があまりに長かったので、自然の野菜やお米を作ることができました。もしリンゴがすぐ実っていれば、野菜やお米はほとんど勉強しなかったかもしれません。リンゴの木はよく私のことを見てくれているなあと思います。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

奇跡は努力の結晶だと言います。簡単にできたら苦労はありません。一つずつ壁を越えて階段を上っていくごとに、また新たな壁が生まれます。どうしたら壁をクリアできるのか、知恵を振り絞っていくところに人生の意義があります。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

【軌跡のリンゴを生んだ観察力】
何に対しても好奇心旺盛な木村さんの観察力は尽きない。
その中でも私が特に感動したのは、害虫との戦いの日々の中で、虫を知るべきだと思い立ち、虫眼鏡とピンセットでハマキムシの観察を始めたところ。

ハマキムシはつぶらな瞳をして意外にかわいい。その大きな目でじっと見られると憎っくき敵なのに殺せなくなって、葉っぱに戻したこともありました。益虫の顔はどうかと思ってクサカゲロウを見ると、これがまるで怪獣映画に出てくるような顔をしていました。


やがて害虫のハマキムシはリンゴ畑から姿を消すが、さまざまなことを教えてくれたこの虫のことを忘れないように、また彼らに感謝の気持ちを表すために、木村さんはハマキムシのかわいらしいイラストを名刺や出荷用の段ボールに載せているそうだ。
ハマキムシもびっくりだろう。木村さんを困らせるようなことは二度としないに違いない。

農業に限らずどんな事でもじっくりと観察を続けることはとても大切で、それがいずれ揺らぐことのない自信に繋がることを教えられた気がする。

定義が曖昧な有機農業についても色々と考えさせられたが、それこそこの話になるととてもここには書き切れない。
でも、ある意味今の自分にとってこの部分は一番の関心事でもあるので、消費者の立場からじっくりと考えていきたいと思っている。

最後に、この本を読みながらどうして涙が出るのだろうと考えた。
もちろん感動した部分は沢山あるが、何だかこの本を読んでいるうちに、いつの間にか汚れてしまっていた自分の心が自然に立ち返っていくような喜びがあった。

実らないリンゴの木から多くのことを教えてもらったという木村さんの感謝の気持ちが大きく実って、沢山の人々に希望の光を降り注いでくれる一冊となった。
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ロスト・シンボル

2010年04月23日 | Libro


ようやく読み終えた、という感じ。
もちろんスリル満点のダン・ブラウン・タッチであるが、正直なところ、今までのようにわくわくするようなストーリー展開を楽しめなかったのはちょっと残念。

前4作はどれも気持ちがスーッと作品に入り込んで行けたのに、今回はあと一歩先へ入っていけない壁を感じたまま終わってしまった。
理解が困難な "フリーメイソン" や "古の神秘" のせいかもしれない(^^;。
それとも、今回は舞台がワシントンだったから?

暗号を読み解く場面も今ひとつ。

相変わらず "なんでそうなる!?" と思うような現実と大きくかけ離れた出来事の連続は想像の域を超え(そこがいいんだけど^^;)、登場人物たちがあまりにも神憑り的に感じられて感情移入するスキがなく、ラングドンの人間としての魅力も今までほど感じられなかった。

きっと期待が大きすぎたせいだろう。

もちろん、キャサリンとラングドンの知恵合戦は痛快。
二人の会話にツイッターが出てきたのも何だか微笑ましかった。

と、今回はいつになく辛口の感想になってしまったが、それでもやっぱり次作が待ち遠しい。
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食堂かたつむり

2010年03月09日 | Libro

映画を観に行く前に読まなくちゃ、と思って慌てて文庫本を買った。

大切にしていたすべてのものを失い、ただひとつだけ残った祖母の形見の "ぬか床" をかかえて故郷に帰る倫子。

"私にはもう、このぬか床しか、寄る辺がない。"

そんな崖っぷちに立たされた主人公を静かに見守りたくなった時から、自分も 「食堂かたつむり」 に携わる人間のひとりになっていたような気がする。

この物語には数々の要素が込められているが、終始一貫して描かれている倫子の頑固なまでの食材への思いやりは清々しくて美しかった。

ザクロカレー、林檎のぬか漬け、野菜だけを使ったフランス料理、そしてジュテームスープ・・・どれも美味しそうで作ってみたくなったけど、実は私が一番気になったのは毎朝エルメス(飼い豚)のために焼かれる木の実入りのパンだ。この焼きたてのパンをサクサクと音を立てて頬張る豚が羨ましくて仕方なかった(笑)。

一日一組だけのちょっと変わった食堂。そしてその食堂を訪れた人々に次々と奇跡が起こる。ストーリーはとてもロマンティックで素敵だ。
情景がくっきりと目に浮かんできてはそこに居合わせているような気分にもなれた。

ただひとつ残念だったのは、映画のキャストを知った後に読んだので、どうしても役者のイメージが被ってしまったこと。
特に登場人物の中でも私が大好きだった熊さんは、常にブラザートムの顔が浮かんでしまった(笑)。
まぁ、これは仕方ないか。

読み終えた時にいい気持ちになれたので何だか映画を観に行く気がしなくなってしまった。

自分の中に創られた料理のイメージとあの独特な世界をもうしばらく大切にしたい気がする。
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さよならドビュッシー

2010年02月24日 | Libro



タイトルに惹かれて読んでみた。
ショパンではなくドビュッシーにしたところがいいよね。

第8回 『このミステリーがすごい!』 大賞受賞作だけあって、音楽スポ根ものにミステリーが織り込まれた "音楽ミステリー"。
ピアニストを目指す少女(香月遥)が主人公なので青春チックなのかと思いきや、ストーリーは結構生々しく展開されてゆく。
突然の火災、全身皮膚移植、遺産相続、同級生たちからの心ない言葉・・・これがミステリーだと知らなかったら読むのが辛くて途中で挫折していた可能性が大きい。

遥のピアノの教師である岬先生の存在が唯一爽やかな風を吹きこんでくれているが、その岬洋介も何かを企んでいるような怪しさがあり、かといってこれといった手掛かりもなく結末がさっぱりわからないままあっという間に舞台はコンクールへ。コンクールの描写は緊張感と臨場感に溢れており、自分もそこに居合わせているかのような気持ちになった。

最後のオチにはやられたが、だとしたらそこに至るまでのハラハラドキドキ感をもっと感じたかった気もする。
もしくは最初から読者にだけは事実を暴露して常にハラハラさせるっていう手法もいいなぁ。(おっと、ネタバレすれすれ)。

主人公と教師のコンクールに賭けるひたむきな情熱をしばし余韻として楽しんだ。
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生き方

2010年02月12日 | Libro


稲盛氏の著書は機会があったら読んでみたいと常々思っていたのだが、今回はまず手始めに最近また話題となっている「生き方」を読んでみた。

タイトルからして "ちょっと重めなのかな?" と思っていたけど、ぜんぜんそんなことはなく、むしろさらさらと読めてしまう感じ。
最後は宇宙の流れにまで話が広がるので壮大な気持ちで読み終えることができた。

成功本や教訓本の類は結構好きでよく読むが、 "なるほどこれは自分にも役に立ちそうだ" と思える部分がある半面、どうも同意できない部分もあったり成功者ゆえにどこか自慢めいていて読者を見下しているように感じてしまうこともあったりしたが、この「生き方」は著者の体験から誰もが心がけることで実践できることをとてもわかりやすい言葉で伝えたいという真摯な気持ちや熱意が溢れていて、読み終えた後は不思議と悟りを開いたような心境になった。

といっても、それはその時だけの話で結局ぜんぜん実践できていないのはいつものこと(笑)。

著者は仏門に入られているので宗教的な要素を感じる方もいるようだが、私は特に気にならなかったし、むしろだからこそ当たり前のように感じる言葉にも新鮮で不思議な説得力があるのかなと思ったほど。
説得力を感じるのは著者の年齢もあるかもしれない。自分の父とほぼ同じ年齢なので素直に入ってきた気がする。

一創業者としての経験に基づく話がほとんどだが、もちろん同業者でなくても当てはまる話ばかりだし、働くことが生きていく上でとても意味のあることだと自然と思えてくる。

人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力

この稲盛流の人生の方程式が教えてくれるのは、人生や仕事の結果はこれら三つの要素の "掛け算" によって得られるものであり、けっして "足し算" ではないということ。

何よりも大切なのは「考え方」で、考え方次第で人生は決まってしまう。考え方にはマイナスポイントがあるので、能力や熱意に恵まれながらも考え方の方向が間違っていると、それだけでネガティブな成果を招いてしまう。つまり考え方がマイナスなら熱意や能力がどれだけ大きくても掛け算をすればマイナスにしかならない、というわけだ。

また、ここには「利他の心」という言葉が出てくる。ちょっと違うかもしれないが、西田氏の「他喜力」という言葉を思い出した。

自分という人間の未熟さや不完全さを知る上でも読んでよかった一冊。
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