あぶないお兄さんの話
あぶないお兄さんが住んでいたシルバートンの町
先々週、コロラドは恐ろしいほどの寒さに襲われた。 外に郵便物を取りにいっただけで、体がカチンコチンに凍ってしまうほどの寒さだった。 Weather Channelをチェックすると“コロラド、ローカルの只今の気温はマイナス2度”と出ていた。
マイナス2度か、、えーっと、摂氏-2度じゃないな、華氏-2度。 ということは、えっ、-20℃。 寒いはずだ。
外の雪を見ながら、ふと凍えた山奥でひと冬中、雪に埋もれて亡くなっていた 「あぶないお兄さん」 のことを思い出した。
あぶないお兄さんの名前はチャーチル。 このブログのシルバートンのところで書いたが、シルバートンのコーヒー屋さん Mobius Cycles and Cafe のオーナーである。 今年の8月初旬、新聞を広げると、DEATH IN THE WILDERNESSのタイトルが目に入り、見覚えのある人の顔写真が載っていた。
「この人、シルバートンのコーヒー屋さんの、、、」
彼は2008年6月にデンバーからコロラドトレイルに入ったが、8月に行方がわからなくなり、今年の6月に死体で発見された。 死因は餓死。 トレイルからはずれた山奥の古い探鉱小屋の前で倒れていた。 彼は山よくを知っている人だから、冬装備もせず食料も持たずに山奥に入っていくなんて考えられないし、行方不明になる直前に愛犬を人に預けたり、食料の補給をしてくれていた人に 「ありがとう。でももう食料はいらない」 と電話を入れていることから、わざとトレイルから道をはずし、自殺したのではないかといわれている。
私がデュランゴに住んでいた2007年。 週末になるとシルバートンへいった。
デュランゴだけでも充分小さな町なのに、なぜさらに小さな、人口500人ちょっとのシルバートンへ行ったかと言うと、心地よく過ごせるコーヒー屋さんがあったから。 オーナーのあぶないお兄さんは、毎週やって来てはアメリカーノを2杯飲むアジア人に、お愛想のひとつもしなかった。 そのかわり、コーヒーを入れる前にお湯でカップを温め、両手でよーく温まったのを確認してからおいしいコーヒーを注いでくれた。 彼が創った空間は心地よく、放っておいてくれる無関心さがよかった。
真ん中のビルがMobius Cycles and Cafe。 建物はボロいが中はきれいに改装してあり、とても居心地のいい空間だった。
( この頃、コロラドでもスターバックスが人気で、デュランゴに来る前に住んでいたところにも4-5件ほどスタバがあった。 でも、どのスタバへ行っても同じ笑顔で How are you? と迎えられ、ケーキを頼むと Good choice! と褒められ、コーヒーを渡すときは、Have a good one. と再び微笑んでくれる店員さんのマニュアル通りの対応が、ちょっと苦痛になっていた。 意地悪な私は、後ろを向いてカップにコーヒーを注いでいる店員さんの背中にむけて、“いま、あなたは笑っていない。 絶対に笑っていないでしょう。” と変なテレパシーを送ってしまうのだ。)
シルバートンのあぶないお兄さんは、デンバーでディスクジョッキーをやっていたらしい。 物欲、金欲を嫌い、理想の地を求めてシルバートンにやって来た。
古いビルの店舗を借り、何ヶ月もかけて床を磨き壁を塗り替え、最高級のエスプレッソマシーンを購入して、コーヒーショップ&自転車のリペアショップ Mobius Cycles and Cafe をオープンした。 Mobius はあぶないお兄さんが夢を託し、力を注ぎ込んで作りあげた、理想の空間だった。
しかし、シルバートンのような小さな観光地で、しかも冬には雪に埋もれてしまうような町で、コーヒーショップの経営は大変だ。 Mobius Cycles and Café もすぐに経営難に陥った。
週末の夕方、町の人たちの演奏がはじまる。 あぶないお兄さんは、シルバートンの町にとけこんでいたのだが。
彼はシルバートンを去った後、コロラドスプリングスにも少しいたようだが、コロラドトレイルを歩くといって出かけたきり、帰らぬ人となった。 デンバーからデュランゴを結ぶ長いコロラドトレイルを踏破するつもりだったのか、それとも最初から死へのトレッキングへ出かけたのか。 彼の死体が発見されたとき、、やせ衰えた肩にはまだ小さなバックパックがかかったままだったという。 日記帳も発見されたが、長い間1メートル以上の雪に埋もれていたため、読解不可能。
唯一、デジタルカメラに残された彼自身の映像が、彼の最後の姿を残している。 「絶食をして40日。 多分、明日の自分の誕生日に死ぬだろう。」
シルバートンであぶないお兄さんの追悼会が催されたとき、空に美しい虹がかかったらしい。 私はシルバートンで虹など見たことがない。 できれば大粒の雹(ひょう)でも降って、あぶないお兄さんが大嫌いだった金の亡者の運転する高級車のボディを凹ましてほしかった。
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あぶないお兄さんが住んでいたシルバートンの町
先々週、コロラドは恐ろしいほどの寒さに襲われた。 外に郵便物を取りにいっただけで、体がカチンコチンに凍ってしまうほどの寒さだった。 Weather Channelをチェックすると“コロラド、ローカルの只今の気温はマイナス2度”と出ていた。
マイナス2度か、、えーっと、摂氏-2度じゃないな、華氏-2度。 ということは、えっ、-20℃。 寒いはずだ。
外の雪を見ながら、ふと凍えた山奥でひと冬中、雪に埋もれて亡くなっていた 「あぶないお兄さん」 のことを思い出した。
あぶないお兄さんの名前はチャーチル。 このブログのシルバートンのところで書いたが、シルバートンのコーヒー屋さん Mobius Cycles and Cafe のオーナーである。 今年の8月初旬、新聞を広げると、DEATH IN THE WILDERNESSのタイトルが目に入り、見覚えのある人の顔写真が載っていた。
「この人、シルバートンのコーヒー屋さんの、、、」
彼は2008年6月にデンバーからコロラドトレイルに入ったが、8月に行方がわからなくなり、今年の6月に死体で発見された。 死因は餓死。 トレイルからはずれた山奥の古い探鉱小屋の前で倒れていた。 彼は山よくを知っている人だから、冬装備もせず食料も持たずに山奥に入っていくなんて考えられないし、行方不明になる直前に愛犬を人に預けたり、食料の補給をしてくれていた人に 「ありがとう。でももう食料はいらない」 と電話を入れていることから、わざとトレイルから道をはずし、自殺したのではないかといわれている。
私がデュランゴに住んでいた2007年。 週末になるとシルバートンへいった。
デュランゴだけでも充分小さな町なのに、なぜさらに小さな、人口500人ちょっとのシルバートンへ行ったかと言うと、心地よく過ごせるコーヒー屋さんがあったから。 オーナーのあぶないお兄さんは、毎週やって来てはアメリカーノを2杯飲むアジア人に、お愛想のひとつもしなかった。 そのかわり、コーヒーを入れる前にお湯でカップを温め、両手でよーく温まったのを確認してからおいしいコーヒーを注いでくれた。 彼が創った空間は心地よく、放っておいてくれる無関心さがよかった。
真ん中のビルがMobius Cycles and Cafe。 建物はボロいが中はきれいに改装してあり、とても居心地のいい空間だった。
( この頃、コロラドでもスターバックスが人気で、デュランゴに来る前に住んでいたところにも4-5件ほどスタバがあった。 でも、どのスタバへ行っても同じ笑顔で How are you? と迎えられ、ケーキを頼むと Good choice! と褒められ、コーヒーを渡すときは、Have a good one. と再び微笑んでくれる店員さんのマニュアル通りの対応が、ちょっと苦痛になっていた。 意地悪な私は、後ろを向いてカップにコーヒーを注いでいる店員さんの背中にむけて、“いま、あなたは笑っていない。 絶対に笑っていないでしょう。” と変なテレパシーを送ってしまうのだ。)
シルバートンのあぶないお兄さんは、デンバーでディスクジョッキーをやっていたらしい。 物欲、金欲を嫌い、理想の地を求めてシルバートンにやって来た。
古いビルの店舗を借り、何ヶ月もかけて床を磨き壁を塗り替え、最高級のエスプレッソマシーンを購入して、コーヒーショップ&自転車のリペアショップ Mobius Cycles and Cafe をオープンした。 Mobius はあぶないお兄さんが夢を託し、力を注ぎ込んで作りあげた、理想の空間だった。
しかし、シルバートンのような小さな観光地で、しかも冬には雪に埋もれてしまうような町で、コーヒーショップの経営は大変だ。 Mobius Cycles and Café もすぐに経営難に陥った。
週末の夕方、町の人たちの演奏がはじまる。 あぶないお兄さんは、シルバートンの町にとけこんでいたのだが。
彼はシルバートンを去った後、コロラドスプリングスにも少しいたようだが、コロラドトレイルを歩くといって出かけたきり、帰らぬ人となった。 デンバーからデュランゴを結ぶ長いコロラドトレイルを踏破するつもりだったのか、それとも最初から死へのトレッキングへ出かけたのか。 彼の死体が発見されたとき、、やせ衰えた肩にはまだ小さなバックパックがかかったままだったという。 日記帳も発見されたが、長い間1メートル以上の雪に埋もれていたため、読解不可能。
唯一、デジタルカメラに残された彼自身の映像が、彼の最後の姿を残している。 「絶食をして40日。 多分、明日の自分の誕生日に死ぬだろう。」
シルバートンであぶないお兄さんの追悼会が催されたとき、空に美しい虹がかかったらしい。 私はシルバートンで虹など見たことがない。 できれば大粒の雹(ひょう)でも降って、あぶないお兄さんが大嫌いだった金の亡者の運転する高級車のボディを凹ましてほしかった。
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