コロラド州より、小さな町の小さな物語

コロラドの魅力は小さな町にありました。人気の田舎町への小さな旅と、日々の暮らしのレポートです。

シルバートンのあぶないお兄さんの話

2009-12-19 04:22:17 | 日記
あぶないお兄さんの話






あぶないお兄さんが住んでいたシルバートンの町


先々週、コロラドは恐ろしいほどの寒さに襲われた。 外に郵便物を取りにいっただけで、体がカチンコチンに凍ってしまうほどの寒さだった。 Weather Channelをチェックすると“コロラド、ローカルの只今の気温はマイナス2度”と出ていた。
マイナス2度か、、えーっと、摂氏-2度じゃないな、華氏-2度。 ということは、えっ、-20℃。 寒いはずだ。 
外の雪を見ながら、ふと凍えた山奥でひと冬中、雪に埋もれて亡くなっていた 「あぶないお兄さん」 のことを思い出した。

あぶないお兄さんの名前はチャーチル。 このブログのシルバートンのところで書いたが、シルバートンのコーヒー屋さん Mobius Cycles and Cafe のオーナーである。 今年の8月初旬、新聞を広げると、DEATH IN THE WILDERNESSのタイトルが目に入り、見覚えのある人の顔写真が載っていた。
「この人、シルバートンのコーヒー屋さんの、、、」







彼は2008年6月にデンバーからコロラドトレイルに入ったが、8月に行方がわからなくなり、今年の6月に死体で発見された。 死因は餓死。 トレイルからはずれた山奥の古い探鉱小屋の前で倒れていた。 彼は山よくを知っている人だから、冬装備もせず食料も持たずに山奥に入っていくなんて考えられないし、行方不明になる直前に愛犬を人に預けたり、食料の補給をしてくれていた人に 「ありがとう。でももう食料はいらない」 と電話を入れていることから、わざとトレイルから道をはずし、自殺したのではないかといわれている。

私がデュランゴに住んでいた2007年。 週末になるとシルバートンへいった。
デュランゴだけでも充分小さな町なのに、なぜさらに小さな、人口500人ちょっとのシルバートンへ行ったかと言うと、心地よく過ごせるコーヒー屋さんがあったから。 オーナーのあぶないお兄さんは、毎週やって来てはアメリカーノを2杯飲むアジア人に、お愛想のひとつもしなかった。 そのかわり、コーヒーを入れる前にお湯でカップを温め、両手でよーく温まったのを確認してからおいしいコーヒーを注いでくれた。 彼が創った空間は心地よく、放っておいてくれる無関心さがよかった。




真ん中のビルがMobius Cycles and Cafe。 建物はボロいが中はきれいに改装してあり、とても居心地のいい空間だった。


( この頃、コロラドでもスターバックスが人気で、デュランゴに来る前に住んでいたところにも4-5件ほどスタバがあった。 でも、どのスタバへ行っても同じ笑顔で How are you? と迎えられ、ケーキを頼むと Good choice! と褒められ、コーヒーを渡すときは、Have a good one. と再び微笑んでくれる店員さんのマニュアル通りの対応が、ちょっと苦痛になっていた。 意地悪な私は、後ろを向いてカップにコーヒーを注いでいる店員さんの背中にむけて、“いま、あなたは笑っていない。 絶対に笑っていないでしょう。” と変なテレパシーを送ってしまうのだ。)

シルバートンのあぶないお兄さんは、デンバーでディスクジョッキーをやっていたらしい。 物欲、金欲を嫌い、理想の地を求めてシルバートンにやって来た。
古いビルの店舗を借り、何ヶ月もかけて床を磨き壁を塗り替え、最高級のエスプレッソマシーンを購入して、コーヒーショップ&自転車のリペアショップ Mobius Cycles and Cafe をオープンした。 Mobius はあぶないお兄さんが夢を託し、力を注ぎ込んで作りあげた、理想の空間だった。
しかし、シルバートンのような小さな観光地で、しかも冬には雪に埋もれてしまうような町で、コーヒーショップの経営は大変だ。 Mobius Cycles and Café もすぐに経営難に陥った。




週末の夕方、町の人たちの演奏がはじまる。 あぶないお兄さんは、シルバートンの町にとけこんでいたのだが。


彼はシルバートンを去った後、コロラドスプリングスにも少しいたようだが、コロラドトレイルを歩くといって出かけたきり、帰らぬ人となった。 デンバーからデュランゴを結ぶ長いコロラドトレイルを踏破するつもりだったのか、それとも最初から死へのトレッキングへ出かけたのか。 彼の死体が発見されたとき、、やせ衰えた肩にはまだ小さなバックパックがかかったままだったという。 日記帳も発見されたが、長い間1メートル以上の雪に埋もれていたため、読解不可能。
唯一、デジタルカメラに残された彼自身の映像が、彼の最後の姿を残している。 「絶食をして40日。 多分、明日の自分の誕生日に死ぬだろう。」

シルバートンであぶないお兄さんの追悼会が催されたとき、空に美しい虹がかかったらしい。 私はシルバートンで虹など見たことがない。 できれば大粒の雹(ひょう)でも降って、あぶないお兄さんが大嫌いだった金の亡者の運転する高級車のボディを凹ましてほしかった。



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クリップルクリーク  こんな山の中にカジノがあるなんて。

2009-12-03 04:22:37 | 旅行
クリップルクリーク こんな山のなかにカジノがあるなんて





メインストリートのBennett Ave.  カジノがずらっと並ぶ


コロラドに来てすぐ、何かのパンフレットでCripple Creekクリップルクリークの写真をみた。 歴史を感じる古い建物が並んでいた。 昔は金鉱の町だったというが、コロラドの金鉱の町はほとんどがゴーストタウン化しているのに、こんなに綺麗に町並みがのこっているなんて。  じゃあ、日本に送るクリスマスカードの写真はクリップルクリークで撮ろう、ということになった。
コロラドスプリングスから車で一時間。 クリップルクリークはパイクスピークの南西の斜面、標高9494フィート(2894メートル)に位置する。

町の入り口に古い鉄道の車両が置かれ、ここがインフォメーションセンターだ。 すぐ隣に駅舎があり、5月から10月の間、観光用に機関車トーマスに似た小さな蒸気機関車が走っている。




インフォメーションセンター。 内部も客車のままで座席に座って少し休憩できる。地図やパンフレットももらえる。





夏の観光シーズンの間は、おもちゃのような機関車が走る。


メインストリートを車でゆっくり走った。 歴史を感じさせる建物。 リタイヤしたら小さな田舎町で暮らしたい夫は、「ここ、いいよねーー。」なんて言っている。 でも、車を降りて歩いてみると、なんとなく変だ。 古い建物には新しいペンキが塗られ、町並みもきれいに保存されているのだが、何かが違う。 雰囲気がどうも。。。

「なにかが変。」と感じた私の勘は当たっていた。 建物のなかを覗いてびっくり。 ドアのむこうにはずらりとスロットマシンが並び、完全にギャンブルの世界なのだ。

コロラド州はギャンブルが禁止されているんじゃなかったっけ?
あとでインフォメーションセンターで聞いてわかったが、ゴーストタウン化を避けるため、1990年のコロラド州議会でCripple Creek、 Central City、Blackhawkの3つの町で、カジノが許可されたらしい。 そういえばコロラドスプリングスからカジノ行きのバスが出ていると聞いたことがあった。 クリップスクリークのことだったのか。




1890年代の金鉱採掘が体験できるMollie Kathleenのゴールドマインツアー


コロラドは1860年代から金鉱ブームで沸いていたが、クリップルクリーク周辺に金脈があることは知られていなかった。 しかし、このエリアで15年ちかくも金鉱を探している男がいた。 カウボーイのBob Womackだ。 彼は金脈を掘り当てたが、“変わり者で飲んだくれのホラ吹き男”のBobの言うことは誰も信用しなかった。
その後、本当に金があることがわかると、この小さな山間のまちに大勢の人がおしよせ、1892年、クリップルクリークはゴールドラッシュに沸いた。
人口500人の田舎町は、1893年には人口が1万人に達し、1900年には人口5万人に膨れ上がった。 1890年から1910年の間、この町は、World’s Greatest Gold Campと呼ばれていた。 
当時は、メインストリートのBennett Ave.にはデパートが並び、駅舎には頻繁に汽車が到着した。 16の教会、学校、カレッジ、40人の医者、音楽の先生は80人にのぼり、ほとんどの家にはピアノがあったという。

今、クリップルクリークの町を歩いても、 ”世界で一番素晴らしい金鉱の町” だった頃の繁栄を思い起こさせるものはあまりない。
インフォメーションセンターの女性に、「1990年を境にカジノの町に変身したのですね。」 と言うと、
「あら、クリップスクリークは今も探鉱の町よ。」 という返事がかえってきた。
「採鉱は365日行われているし、鉱山で働く人は325人もいるのよ。」





私はおそるおそる聞いた。
「じゃあ、ここでギャンブルする人はどんな人? 鉱山で働く人が多いの?」

インフォメーションセンターの女性はあっけらかんと言った。
「あなたねー。 ギャンブルが好きな人は、ここには住めないわよ。」

そうですよね。 ここはお金を使いに来るところだから。 それに、この町はまるで時間が止まったような町。 一攫千金を当てるとか、勝負に勝つとか、そんな夢を見ることさえ難しい気がする。




二年前にオープンしたHeritage Center。 探鉱ブーム時代の町の様子や歴史を紹介している。 展示は充実しているが、建物の入り口がこわい



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