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遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う

「遊行七恵の日々是遊行」の姉妹編です。
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2022年に見たものの統括と展覧会ベスト10など

2023-01-09 00:56:09 | 展覧会
2022年はこのブログもfc2の方も大してあげることが出来なかった。
理由は要するに非常に多忙であったのと、職住環境の大変化があったこと、それに伴ってわたしの体調が一気に悪化したことなどである。
2023年はもう少しましになればと思う。
というわけで、特によかったものを統括するという形で挙げたいと思う。
マンガの原画展、建築関係、展覧会と三つに分けてゆく。

2022年はマンガの原画展の素晴らしいのを多く見た。
1月には大ベルセルク展。
7月から9月にはゴールデンカムイ展
同時期に村上もとか展、谷口ジロー展。
秋には楳図かずお展、青池保子展。
年の終わりには高丘親王航海記展の中での近藤ようこ展ともいうべき高丘親王航海記原画展。
ベルサイユのばら50周年展、弥生美術館では村上もとか展に続いて楠本まき展もあったが、こちらは京都マンガミュージアムの巡回を弥生美術館バージョンにしたもの。
いずれもたいへん印象深い展覧会だった。


特に素晴らしい自然描写を見せてくれたのはゴールデンカムイ展での北海道と樺太、村上もとか展の山岳、谷口ジロー展の山嶺か。
デジタル、アナログ+デジタル、完全アナログでの表現という違いがあるが、いずれも眼を瞠る素晴らしさだった。
更にキャラの魅力も非常に深く、造形美の面白さも堪能した。凄い技術を目の当たりにしたのだ。

実はこの三つの展覧会だけは撮影可能(一部禁止有)で特にゴールデンカムイ、村上もとか展は複数回行っていてその度に大量に撮影したのだが、あまりに大量すぎていまだにまとめられないが、いつかはと思っている。

そして恐怖とおぞましさの究極の表現は楳図かずお展と大ベルセルク展で味わわされた。
特に80代の楳図かずおの新作百点は暴力的なまでの恐怖があり、思い出すことを脳の何処かが拒否しようとする。これは色彩の暴力に脳が対応できなくなったのもある。一枚絵が百点ばかり続くだけでなく、それが全て物語として生きており、終末へ向かっているのだ。異常な恐怖に負けてしまった。
それと逆に大ベルセルク展は物語に登場するキャラの巨大フィギュアもあったが、それよりもモノクロでの過剰な線描が人の神経経路を侵してきたのには参った。
恐怖と言うものは一度それを取り込んでしまうと、掃うことは不可能なのかもしれない。

少女マンガに変革をもたらした青池保子展では改めてその細部の繊細な表現に驚かされた。これまで見ていた筈のものを自分が認識しきれていなかったことに気づかされたのだ。
特に「エロイカより愛をこめて」は中学の時からずっとファンとして今に至るわたしだが、カラー原画を見て印刷では出てていなかった描写に驚愕した。しかも出力不可能なことを知りつつもそれでも描くということにも絶句した。青池世界の深みを改めて思い知らされたのだ。

そして真逆ともいえるのが省筆の面白さを教えてくれた近藤ようこ作品。コミカライズした高丘親王航海記の原画展だけでなく、恒例のビリケン商会での個展でもよいものを見せて貰えた。
余白というものが読者にもたらす想像力と、その想像した何かが次のシーンで形を取って出現する、そのことがたいへん興味深かった。

七人のマンガ家の志向はすべて異なっており、それをこうして楽しめたのは非常に良かった。
豊饒な年だったと言っていい。だが、もう谷口ジロー、ベルセルクの三浦建太郎の新作には会えないのだ。
そのことだけは悲しい。




2022年は久しぶりに建築の大々的なイベントの開催が再開された年でもあった。
イケフェス大阪2022
京都モダン建築祭
ほかにもオープンしなけんなどである。
今回わたしはイケフェスと京都モダンとに参加し、多くの建物に再会または初見の挨拶をした。
個人的には他にもあれこれ建物を見学している。名を挙げることが出来ぬものもあるのでそちらの詳細は述べない。

イケフェスでは二日間に以下の建物を見学・撮影させてもらった。
・浦辺設計・光世証券・北浜長屋・三井住友銀行・東畑建設・太成閣・小川香料・オリックス・松坂屋
・食道園・自安寺・源ケ橋温泉・鶴身印刷所・上町荘・谷町界隈・大阪農林会館・原田産業・大阪写真会館・大阪商工信用金庫・β本町橋・大塚大阪本社・フジカワビル・生駒ビルヂング
さらにその道すがらにわたしは堺筋を徘徊し、谷町筋を延々と歩くなどもし、ほかにもずっとわからなかった某建物に久しぶりに再会もしている。
狭いとはいえやはり大大阪の名残が生きるこの都市にはまだまだ魅力的な建物が無限に隠れている。

京都モダン建築祭は今年が第一回目であり、その為に色々とトラブルもあったようだが、それでもこうして開催にこぎつけられたのはよかった。
見たくても見れないままの建物がまだまだ京都には多い。
わたしが二日の内に見たのは以下の建物である。
・御幸町教会・京近美・京市美・武徳殿・京都図書館・時忘舎
・旧寺江家住宅・旧成徳中学
二日目は天候がよくなかったので公式の建物見学は早めに切り上げ、あとは下京区を徘徊し、これまで知らなかった建物をいくつか発見した。
これらはツイッターでは挙げているが、やはりあまりに膨大な数を処理しきれず、年を越えた今年にはなんとかしたいと思っている。

なお建築関係の展覧会に良いものが少なくなかったのもこの年の特徴だった。
というのは、大阪工業大学が創立百周年記念展覧会を開催し、それがいずれもよかったのである。
・大阪町づくりの軌跡と文化 梅田の大工大で開催。
・仁和寺名宝と片岡安の設計 こちらを仁和寺霊宝殿で開催した。
そして大阪大学総合文化博物館や高島屋史料館では大大阪時代の魅力を伝える展覧会を開催した。
・大大阪時代の中之島
・大大阪時代の百貨店
いずれもイケフェスとも深い関連を持つ展覧会であった。

また四天王寺宝物館でも貴重な展覧会があった。
・金剛組 四天王寺を支えた宮大工たち
世界最古の会社である。この会社は一度破綻したが、何があろうと失わせてはいけないと高松組が全面支援をして、今日に至っている。
そのこともとても素晴らしいと思う。

さて展覧会ベストをあげるというところへ来たが、2022年は殆ど観に行けていなかった。
コロナと言うこともあったが、個人的にあまりに色々ありすぎて、そちらを優先した結果、身動きが取れなくなったのだ。
体調不良と言うことまで出てきて、もう本当にアウトかと思った年だった。
それでも見に行けたもののうちから見た月日順で挙げてゆこうと思う。

首都圏というくくりで挙げる。
・明治文学の彩り 口絵・挿絵の世界 日本近代文学館
・特撮美術監督・井上泰幸 東京都現代美術館
・田中保 埼玉県立近代美術館
・キース・ヴァン・ドンゲン 汐留ミュージアム
・新版画/ヘレン・ハイド 千葉市美術館
・装いの力―異性装の日本史 松濤美術館
・丸ノ内移転記念 静嘉堂
・澁澤龍彦 高丘親王航海記 鎌倉文学館
ここまで8つ。
あとの2つを挙げる代わりに同点の展覧会3つを挙げる。
共通性があるのでいいかもしれない。
・金子コレクションの寄木細工 國學院大學
・ちいさい、ちっこい、ちっちゃ 紅ミュージアム
・昭和のおもちゃ 中野区歴史民俗資料館

関西の展覧会
・華風到来 大阪市立美術館
・サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇 京都国立近代美術館
・みんなのまち大阪の肖像 中之島美術館
・入江泰吉「文楽」 奈良市写真美術館
・シダネルとマルタン えき美術館
・リニューアル記念 藤田美術館
・明治・大正・昭和の絵はがき くらしの今昔館
・博覧 なぜ、人は集めるのか 龍谷ミュージアム
・よみがえる川崎美術館 神戸市博物館
・三つの百景 川西英 神戸ゆかりの美術館

特に好ましい展覧会を選んだわけだが、そのわりには感想をなかなか挙げていない。
なのでアーカイブ的役割として、今年中に何とか・・・

色々と見落し・見損ねた展覧会や建物公開も多いが、それでも大いに楽しめたのはまことによかった。

「よみがえる川崎美術館」をたずねる

2022-12-03 03:10:28 | 展覧会
むかし、川崎正蔵と言う人がいた。
この人は天保8年に薩摩に生まれ、若くして長崎に出て海運業に携わり、やがて大坂で小さな店を開いた。
そして明治になったばかりの頃に土佐沖で遭難して一命を取り留め、それで西洋型船建造に乗り出したそうだ。
数年後築地で造船所を開業し、やがて明治14年に神戸で川崎兵庫造船所を創設した。
この辺りで、わたしなどにも川崎正蔵が川崎重工の創設者だと納得がゆく。
今も生きる企業だからだ。

この川崎正蔵と言う人は明治の実業家として、金儲けだけでないもう一つの偉業を為した。
何かと言うと廃仏毀釈に端を発した日本の古美術の海外流出をとめようと、日本と東洋の優れた美術品を収集したのだ。
そして川崎正蔵の偉いところはそれらを秘蔵せず、美術館を拵えた、そこにある。
大倉喜七郎より先に開いた私立美術館である。
だが、まことに残念なことに大倉集古館と違い、大正末期には美術館は失われ、所蔵品は散逸してしまった。
川崎美術館が開館したのは明治23年(1890)、ただし今日のように大方の市民が気軽に行けるものではなかったが。
川崎正蔵の没後も大正13年(1924)まで美術館は続いたが、金融恐慌や災害などでとうとう終わってしまい、所蔵品は世界中のコレクター、美術館、博物館に渡り、大切にされてきた。


今年2022年、98年ぶりに行方の分かる川崎美術館旧蔵品が神戸市立博物館に集合した。
広告を見るといくつか「ああ、あれか」という作品もあり、他の美術館や博物館や展覧会でみている。
しかしこの規模でこうした集まり方をするのは本当に凄いことだと言っていい。
これまで誰もこんな企画を立てなかった・・・立てたかもしれないが実現しなかったのだ。
その待望の展覧会が川崎とゆかりの深い神戸で開催されることは本当に喜ばしい。
なにしろ美術館のあったのは布引だったそうな。
布引、熊内は今も高級住宅街で、そこに私邸を構えた富豪が美術館を拵えるというのは、まことに結構なことではある。
今だと竹中大工道具館があり、熊内には池長孟の南蛮美術館を転用した神戸市文書館がある。
こちらは往時の川崎美術館の外観。
「長春閣」と名付けていたそうだ。


さて前置きはここまでで三階からの展示会場へ向かう。

第一章 ─実業家・川崎正蔵と神戸
この辺りは造船業の繁栄という面白みがあった。
わたしは日本郵船歴史博物館でわくわくするクチだから、当然ながらこうした造船も楽しい。

川崎正蔵翁像 グイード・モリナーリ 1面 明治33年(1900) 川崎重工業株式会社  立派な風貌。わたしはこのモリナーリを知らないが、それにしてもなんとなく見たような…と思ったら、昭憲皇太后肖像の人か。松方正義も描いている。
明治の上流階級の人々の肖像画家。

株式会社川崎造船所創業総会決議録 1点 明治29年(1896)10月1日 川崎重工業株式会社  この中に同郷の松方幸次郎もいる。

川崎造船所広告(「神戸新聞」附録) 1枚 明治36年(1903)4月10日 神戸市立博物館  日露戦争前か。船がいっぱい載っている。

神戸市立博物館所蔵の古写真や古絵葉書から関連のものがでているが、こうしたものを見るのは本当に楽しい。

絵葉書では
・神戸川崎造船所カントリークレーンKawasaki Dock-yard, Kobe (k893) 1枚 大正時代・20世紀 神戸市立博物館
・株式会社神戸川崎銀行本店(「写真絵葉書等貼込帳 オールド KOBE」のうち) 1冊のうち1枚 大正時代~昭和時代初期・20世紀 神戸市立博物館
これらが近代の神戸の歴史を映し出す鏡ともなっていた。

企業が立ち上がる時、自前で銀行を拵えるところもある。
川崎正蔵も自前の銀行を拵えた。資本金は明治38年で百万円。今だといくらになるのか。
(令和での換算ではあまり実感もこもらなさそう…)

神戸川崎銀行正面写真 1枚 明治41年(1908)頃 神戸市立博物館
神戸川崎銀行牡丹会紀念絵葉書 絵葉書2 枚、袋1枚 明治時代後期~大正時代・
神戸川崎銀行牡丹会紀念絵葉書 1枚 明治44 年(1911) 個人蔵
神戸川崎銀行牡丹会紀念絵葉書 1枚 大正4 年(1915) 個人蔵
こうした記念の写真絵葉書は貴重だ。
なにしろ現物はもうどこにも存在しないので、こうした写真絵葉書で想像し、憧れるほかはない。

絵葉書 神戸川崎邸 牡丹 2 枚 大正時代~昭和時代初期  こちらはカラー版である。
「長春」閣と名付けるだけに春の花が華やかである。
ここの牡丹園は有名だったようだ。絵葉書から想像する。

絵葉書 BARON KAWASAKI'S GARDEN, KOBE. 1枚 大正9年(1920)~昭和時代  ああ男爵になっていたのか。なるほど。大倉喜七郎もそうだ。鴻池家も住友家もそうだ。
「国家ニ勲功アル者」これだ。

新聞にもその当時の造船の写真が出ていた。


第二章 ─収集家・川崎正蔵とコレクション
「川崎美術館」の収蔵品の本(図録というにはあまりに立派すぎる本)などが出ている。

長春閣鑑賞 川崎芳太郎編 6冊 大正3年(1914) 川崎重工業株式会社  その所蔵品の豪華本。鑑賞の鑑の字が金偏ではなく、「鍳」で記されていた。書体は隷書体に似ている。
「鑑」の異体字だから読み方も意味も同じ。
モノクロ印刷だが、上等な感じがある。
応挙の水飲み虎がいた。可愛い喃。

そろそろかつての愛蔵品にご面会である。





最勝曼荼羅 1幅 文安元年(1444) 奈良国立博物館  おお、あの…。これは雨乞いのための曼荼羅。そう認識されている。
奈良博のサイトに画像があるのでこちらへでどうぞ。
なかなか大きいので本当に実用だったらしい。

春日宮曼荼羅 1幅 南北朝時代・14世紀 MOA美術館 カラフル。改修したのかな。
上空に仏。下方には春日大社。小さく鹿もいる。ところがこれはMOAのコレクションで調べたら出てくれなかった。あちゃー

芙蓉に鶉図 土佐光起筆 1幅 江戸時代・17世紀後期 個人蔵  これもいかにも土佐派の絵で、木の下に一羽、それを見返る一羽と多分カップル。

源義経・周茂叔・陶淵明図 土佐光起筆 3幅 元禄2年(1689) 個人蔵  どういう取り合わせなのかと思うが、名前の順に中・右・左の並びで、視線はそれぞれ向かって→・←・→。
光起73歳の作。義経は高松での姿らしい。

雪月花図 勝川春章筆 3幅 天明3~7年(1783~87)頃 公益財団法人 摘水軒記念文化振興財団  雪はもう定番の香炉峰、月は石山寺の月、花は「いにしへの奈良の都は八重桜 けふ九重に にほひぬるかな」伊勢大輔。
画像はこちら

鳥窠白楽天問答・黄龍呂洞賓問答図 伝祥啓筆 2幅 室町時代・16世紀 個人蔵  この双幅は前述の長春閣本にも載っている。
それぞれ相手と対話中の図。前者はこれはもしTwitterなら炎上するよな、それぞれの見る先が違いすぎて。それにしても白楽天は杭州の長官という地位にあったからか、色々と厄介な相手と問答するシーンが描かれているなあ。なぜか日本に来てコテンパンにやられるという話まであるし。

達磨図 曾我派筆 一休宗純賛 1幅 室町時代・15世紀後期 個人蔵  えらいまた丸顔ですな。

室町時代の藝愛の花鳥画が並ぶ。
梔に双雀図 藝愛筆 1幅 室町時代・16世紀前期~中期 京都国立博物館 チュンチュンしてて可愛い。白い花もいいなあ。
桜に山鳩図 藝愛筆 1幅 室町時代 個人蔵  おや、この鳩は白い胸だね。
桃に山鳩図 藝愛筆 1幅 室町時代 個人蔵  白い花が綺麗。
芦に蟹鯉図 藝愛筆 1幅 室町時代 個人蔵  鯉の両目がロンパリだ。黒いカニも可愛い。
芥子に小禽図 藝愛筆 1幅 室町時代 個人蔵  こちらは赤い花。

中世の花鳥画や仏画のいいのが多くて元々の出どころのことも考える。
相当な処から出たのだろうなあ。
続いて近世。

芙蓉図 狩野山楽筆 1幅 桃山時代~江戸時代初期・16~17世紀 個人蔵  これもきれいな花。以前に山楽展を見たときのことを思い出す。

陳汝福筆観音童子図 狩野探幽筆 1幅 江戸時代・17世紀 個人蔵  白衣観音と善財童子。白衣はくっきりと描かれている。坊やは左下にいる。

さてここから応挙が並ぶ。

呂洞賓図 円山応挙筆 1幅 天明7年(1787) 個人蔵  これはなかなか気品のある人で剣を背負い長い竿先に酒入りの瓢を引っかけてはいるが、流浪者には見えない。そのあたりがやはり応挙だからかもしれない。

四季富士図 円山応挙筆 4幅 安永8年(1779) 個人蔵  淡彩で四幅富士の四季を描く。

猛虎渓走図 円山応挙筆 1幅 天明7年(1787) 個人蔵  渓を駆け巡って崖に着く虎。カッコよさと可愛さが同居する。

石譜図巻 円山応挙筆 村瀬栲亭跋 1巻 江戸時代・18世紀後期 個人蔵  淡彩というより薄墨で様々な石を描く。
三井家からの寄贈だそうな。

闇夜漁舟図 与謝蕪村筆 1幅 江戸時代・18世紀後期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館  この絵はよく逸翁美術館でみかけ、見るたびますます好きになる一枚。夜の漁で働く父子。遠くの蘆の透き間には小さい家の灯りがまるで光の渦の様にあふれかえっている。

雪景山水図 与謝蕪村筆 1幅 江戸時代・18世紀後期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館  やっぱり蕪村の良さというものはしっくりくる。
この山では遭難などしないだろう。


三十六歌仙偃息図巻 呉春筆 1巻 江戸時代・18世紀後期~19世紀初期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館  この絵も川崎美術館のだったか。たいへん楽しい絵で、河川たちがたわいもないゲームに興じている。平和でいい。戯画と言ってもイケズなものも風刺もない。

牡丹図 伝徽宗筆 1幅 元時代・13~14世紀 個人蔵  出ました風流士。芸術の才能はあったけど、激動する時代に生まれたのが気の毒なりよ。
赤、白、紫のほかに二色。たいへん綺麗な牡丹。

観音図 伝白良玉筆 1幅 元時代・13~14世紀 個人蔵  下に白衣で頭の周囲に光輪のみえる観音さん、その上を行くのが韋駄天。面白い構図。

雪中花鳥図 伝王李本筆 1幅 南宋時代~元時代・13世紀 東京国立博物館  寒くとも川の中にいるのも。

阿弥陀三尊像 1幅 南宋時代・13世紀 九州国立博物館  これは光がドロップ型ですな。

広目天眷属像 康円作 1躯 文永4 年(1267) 静嘉堂文庫美術館  赤いフィギュアですよ。力強そう。
正直な話海洋堂などのフィギュアの造形師さんたちって現代の名工だと思うのよ。
かれらはこうした神仏像も拵えることができるからね。

沃懸地高蒔絵桐竹文硯箱 1合 桃山時代・16世紀 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館  おお、これも川崎美術館のだったのか。チラシに出ているよ。

龍図堆朱食籠 2合 清時代・18世紀 林原美術館  いやもういかにも。大きくてね、龍まみれ。

色絵群馬文変形皿 鍋島焼(有田 岩谷川内窯) 10枚 江戸時代・1650年代頃 佐賀県立九州陶磁文化館(白雨コレクション)、 佐賀県立九州陶磁文化館  二か所の所蔵先が判明している。
十枚とも馬のポーズがみんな少しずつ違う。
今回のメインビジュアルが馬の屏風だったが、けっこう馬の絵柄のが好きだったのかな。
上はその屏風の一部、下はこのお皿。


青花楼閣騎馬人物図壺 景徳鎮窯 1口 明時代中期・15世紀 香雪美術館  描写が結構リアルである。

第三章 ─よみがえる川崎美術館
往時どのような展覧会を開いたかという資料などがある。
よい絵はがきもずらり。

絵葉書 神戸 布引 久形橋 Hisakata-bridge, Nunobiki, KOBE. 1枚 大正時代~昭和時代初期
938 HARBOR OF KOBE 布引から神戸市街を望む(「日本名所風俗写真帳 2」のうち) 1冊のうち1枚 明治時代中期・19世紀 神戸市立博物館
絵葉書 神戸川崎邸 美術館 1枚 明治時代後期~大正時代・20世紀 名古屋市博物館
なぜか名古屋市博物館にもここの邸宅の写真絵葉書がある。

資料色々
川崎美術館第四回展観招待状及び縦覧券(池長通宛)招待状1枚、縦覧券2 枚、封筒1通 明治26年(1893)5月25日 神戸市立博物館(池長孟コレクション)  池長孟の養父。大富豪である。

川崎美術館開館式列品目録 1冊 明治23年(1890)9月6日 願成寺
川崎美術館第八回陳列品目録 1冊 明治32年(1899) 兵庫県立図書館
川崎美術館第九回陳列品目録 1冊 明治34 年(1901)以降 島根大学附属図書館(桑原文庫)
川崎美術館第拾弐回陳列品目録 為徳光院殿豁堂恵然大居士追福開館 1冊 大正2年(1913) 阪急文化財団
こうした資料からどのような作品が並んでいたか、どういった形で並んでいたかを想像するのだ。


襖の再現コーナーへ。

月夜浮舟図・江頭月夜図襖 円山応挙筆 8面 天明7年(1787) 東京国立博物館  引手が花モチーフで綺麗。

五時半になった。わたしは知らなかったのだが、土曜日はこの時間からこの屏風のみ撮影可能なのだった。
海辺老松図襖 円山応挙筆 12面 天明7年(1787) 東京国立博物館

ツイートでは5時と書いてるが、間違い。
とても静かな波のうち返し・・・

江岸楊柳図襖 円山応挙筆 8面 天明7年(1787) 東京国立博物館
雪景山水図 円山応挙筆 1幅 天明7年(1787) 東京国立博物館
矛盾なく連なる世界。左端に七つの建物が列ぶ。

麝香猫図 宣宗筆 1幅 明時代・宣徳元年(1426) 個人蔵  こいつに会いたかったのだ。
グッズも色々あった。けっこうなことだ。


武陵桃源・李白観瀑図 岳翁蔵丘筆 2幅 室町時代・16世紀 出光美術館  強い滝。この桃源図を見ていると諸星大二郎の作品を思い出す。せつない桃源の物語。全ては幻・・・


第四章 ─美術とともに
良い工芸品が並ぶ。清朝のそれに範をとったような感じの七宝焼。強いトルコブルーを下地にみっちりみしみしの文様のもの。それを再現と言うか、日本でも作れるのをみせたのかな。
梶佐太郎というひとの作品。


牡丹唐草文鐶付七宝花瓶 梶佐太郎作 1口 明治時代後期~大正時代・19~20世紀初期 名古屋市博物館
このようなパターンで香炉や花瓶がある。いずれも名古屋市博物館所蔵。名古屋も七宝焼の盛んな土地であった。

白地龍鳳凰文七宝花瓶 梶佐太郎作 1合 明治時代後期~大正時代・19~20世紀初期 名古屋市博物館
これはまた更紗を思わせるような綺麗な・・・


菊唐草文七宝香炉 梶佐太郎作 1合 明治時代後期~大正時代・19~20世紀初期 宮内庁三の丸尚蔵館
やはり優れた作品なのでここにも収められている。

二枚の桐鳳凰図屏風がある。
伝狩野孝信筆8曲1双桃山時代~江戸時代・16世紀後期~17世紀初期林原美術館
狩野探幽筆6曲1双江戸時代・17世紀サントリー美術館
表現はそれぞれ違う。鳥がニガテなわたしはちょっと逃げたくなった。なんか攻撃的な面構えの鳳凰なのである。

牧馬図屏風 狩野孝信筆 8曲1双桃山時代~江戸時代・16世紀後期~17世紀初期個人蔵  この屏風今回のメインビジュアルである。馬たちの生き生きとした様子がいい。






海外のコレクターに大切に守られてきたのが今回初めての里帰りだそう。

第五章 ─ 川崎正蔵が蒔いた種─コレクター、コレクション、美術館
遂に終焉の時を迎え、売り立てが行われる。

神戸川崎男爵家蔵品落札高値表1枚昭和3年(1928)神戸市立博物館  この当時で12万円と言う高値がついているのは牧谿の作品。

川崎男爵家蔵品絵葉書  仁清の叭叭鳥、乾山の秋草文の器などがある。

最後の最後にもう一つの見たかったものが来た。
伝銭舜挙「宮女図(伝桓野王(かんやおう)図)」元時代・13 世紀~14 世紀 個人蔵

前にも見ているが、やはりいい。この細かな動作がリアル。
男装の宮女の仕草。

ああ、良いものを見た。
12/4まで。

「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」展を思い出す

2022-09-30 14:04:10 | 展覧会
過去の展覧会のことを挙げるのが近年のわたくしのスタイルで、よく言えば「記憶と記録の為に」または「アーカイヴ」ですが、まあいうたら「リアタイに書けない」と言うことですわ。
それでこちらは昨夏の神戸ゆかりの美術館での「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」展での撮影可能だった浮世絵シーン。
この展覧会は樺島勝一の「正チャンノ冒険」までで、よい展覧会でした。




何故一年以上放置してたのかさすがにわからない。←ヤバい発言。
まあとにかく撮れたのをまとめます。

本の挿絵が楽しい。

影絵でなんかパフォーマンスするのが「無礼講」での宴会芸。
地獄の釜へ「足を揃えて飛べ」てか。飛び過ぎて釜を飛び越してるがな。
鰯の頭も信心から…



てんぐのたまご 何をしてはんねんと思ったら、長い鼻を使って働いてますな。
下段は「しゃぼん」これが巨大化して色々とあほらしいことが。



大新板文字絵姿  人買いとか普通におるね。「口上」する人はやっぱり身を伏せてる。
文字絵姿と言えば元祖か中興の祖かが書家の三藐院近衛信尹で、天神さんを描いてましたわ。


シルエットもある。

よく見たら橋の向こうとこちらでなにやら物騒な…


江戸の人はなんにでも楽しみを見出すものです。

曲結びでいろんな形を見せる。
「ろくだんめ」は六段目か、傘をさすのが定九郎。なかなか面白い造形画家にも見える。
一筆書きの感覚だよな。



大津絵のメンバーによる百万遍の数珠繰り。
昔々わたくしは宗派が違うからこの数珠繰りと言う行事を知らず、初めて見たのが歌舞伎の四谷怪談とドラマの「心中宵庚申」で、更に山上たつひこのマンガもあったか。あれでぞわぞわしてすごく惹かれたのだが、現物を見たのは京都の百万遍の知恩寺と大阪平野の融通念仏宗の大念仏寺。どちらも非常に長い長い数珠でしたなあ。
まあこれは大津絵の明るいメンバーだから怖くもなんともないが。



八世團十郎の死に絵。女たちの悲傷。大人気の俳優がわずか32歳で、江戸から離れた大阪でまさかの自殺。
お墓は天王寺の一心寺にあるけど、江戸の人々みんなびっくりしすぎて大量に死に絵が出たよ。
ところでこの自殺の原因は諸説あるけど、わたしは杉本苑子「傾く滝」ファンなので、ついついそれを思うのでした。

見なはれ、猫まで仲間になって泣いてやる。


北斎漫画いろいろ。
おばけと公家のページがつながってるのは北斎にしたらオバケも公家も同じようなものなのかもしれない。
地獄の様子もありました。





フルカラーの地獄


賽の河原で泣く子供らにまといつかれるお地蔵さん



こちらはお酒とご飯の戦いだったかな。


細部がなかなか怖い。





けっこうおおがかりな作品も。















こっちはまた何をしているのだ。





おいなりさんも。



明治の宴会



さてこちらも何をしてるんだか。

上は蝙蝠の戯画、手にはこうもり傘。
下は…


こらこら…


地獄太夫が浄玻璃の鏡を見たら骸骨が出た―

普通はこれはないんやけどね。
こういうのを見たら、稲本楼の小稲が高橋由一にリアリズムの手法で描かれて「こんなのわっちではない」と泣いたのを思い出す。
そういえばあの小稲は時代的に伊庭八郎の彼女さんの小稲かな。

開化の達磨

背中に猫載せながらへらへらと女に笑いかける達磨。「いろは新聞」か何かを読んでるみたいですかな。

明治の擬画にはやっぱり開化のグッズが出てくるもんです。
面白かったよ。

夢二×文学 「絵で詩をかいてみた」 ― 竹久夢二の抒情画・著作・装幀― 

2022-08-22 15:54:06 | 展覧会
これも以前の展覧会。だいぶ経ったのでまとめる。
弥生美術館と夢二美術館は一度来訪すると二つ以上楽しめる美術館なのだ。


サインは「夢二」でなく「夢路」。
「め」尽くし。め組の提灯、「め」絵馬。
大きな目の少女、白椿の愛らしい着物、傘は白梅モチーフか。
朱塗りの柱には三社札、周りに鳩。神社仏閣の境内。



炬燵にもたれる少女。髪は少し幼い形。しかし背景の屏風は艶めかしい。
矢絣の着物を着た幼さの残る少女だが、読んでいるのはもしかすると情痴ものかもしれない。
夢よ浅かれ 大正15年



SAYONARAと書かれたポスター。ちょっと思わせぶりだが、旅行のポスターかもしれない。
いや、レコードのジャケットかもしれない。



夢二が装幀した様々な本。
子供向けのものから大人向けまで多種多様。



白梅を背景に本を手にする少女。おさげにりぼん。


柳原白蓮の戯曲「指鬘外道」口絵
常の作品と雰囲気が違うが、これもまた夢二の魅力。

口絵の前にこんな言葉がある。
「幻の地獄 竹久夢二画

もつと血が欲しくばこの私の血を絞るがよい、
そなたには疫痢の様に嫌はれたこの私でも、
夜になればあまたの瘦犬共がやつて来て、
骨までしやぶるであらう。        」


夢二の担当した雑誌表紙も数多い。






そのうちから
「淑女画報」

白い睡蓮が初々しい。


「新少女」

小鳥と少女がいる「花の下蔭」
大正五年の空気が伝わってくるようだ。


夢二の美人画も確かに良いものだけれど、わたしはかれの装丁、童画、イラストの方が特に好ましい。




 



大正ロマン・昭和モダンのイラストレーター 高畠華宵展 ―ジェンダーレスな まなざし― 5

2022-08-20 23:34:27 | 展覧会
これで最終回。
挿絵や物語の1シーンなどを集める。

人魚

アールヌーヴォーとはまた違う妖艶さがある。
女優の鰐淵晴子さんを少しばかり思い出す美貌。


生き生きした少女たち



「ナイル薔薇曲」とはまた別個かもしれないが、それを想起させる一枚

戦う少年の健気な美。大蛇の表現もまた決してみにくいものではない。


合奏する良家の子女と子弟。まだ前髪立ちの少年と島田を結った娘と。



ゴルフ。キャディーの少年に話しかける少女。
こちらも少女の方が年長だろう。



物語の挿絵 
剣道の道具を身に着け、額からの血を手ぬぐいでしばりつつも。



朝の身支度をする少年。



弁天小僧だろうか。
時間の止まった空間に抗うように刃を掲げる少年



梅花の下の若衆が短冊を手に。



中間らしき少年が年長の武士たちに痛めつけられている。
その苦悶に耐える瞼の美。



船の上で出会う二人の少年。
アコーディオンを演奏する少年は少し年かさか、佇む少年の憂いがちな心に演奏は届くのだろうか。



物語「ナイル薔薇曲」より。

少年少女の活躍する物語。
わたしが最初に弥生美術館に行ったとき、その直前にこれらの新発見の挿絵が大量に世に現れ、急遽池袋で展覧会が開催された。
わたしも予定を変更し、池袋へ走った。
数年後これらの作品の分類と調査が完了し、展覧会にも出るようになったが、その時にはわたしは弥生美術館友の会会員として、東京へ定期的に行くようになっていた。
全てはここからだともいえる。




磔刑少年の美にはふるえるようなときめきがある。


介抱されるその様子にも…


少女の懇願を拒絶する。

前掲のおろちと戦う少年。これは「ナイル薔薇曲」の1シーン

弥生美術館との付き合いはこの時からだから本当に長い。



日本が舞台の物語もまた艶やかだ。






縛られる少年へのときめきはやはり華宵、彦造からだろうか。

こちらは南蛮小僧。
以前にまとめたものはこちら

海賊たちに強制労働させられている南蛮小僧。どきどきするわ…

海賊たちを出し抜いて江戸へ戻って活躍していた南蛮小僧だが、あるとき連中に捕まり危機一髪!


弟分の富士松の犯行現場に来合わせ、ちょっと茫然となる南蛮小僧。



他の物語でもどきどきするものが多い。
















先般、「熱帯への旅」展の感想に挙げた中に松園さんのスケッチのチャイナ女子がいたが、似た感じの娘



最後に弟子たちを描いたスケッチなど