goo blog サービス終了のお知らせ 

遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う

「遊行七恵の日々是遊行」の姉妹編です。
こちらもよろしくお願いします。
ツイッターのまとめもこちらに集めます。

「絵画 村山家ゆかりの画家たち」をみる その2

2021-04-22 00:23:39 | 展覧会
続き。


小磯良平 薔薇 1955  
丁度労働者の絵や抽象表現も始まりだしてたかな。その時代でもこうした重厚な薔薇の絵を描いている。
この翌年から小磯は武田薬品の薬用植物園に咲く花々をその機関誌に描くようになる。

川口軌外 柘榴1 1939  ナマナマシイ爆ぜ方の柘榴。スペインのボデゴンを思い出させる。


杉山寧 鯉 1959  エメラルド色の水中に泳ぐ白い鯉。しぃんとした光景。後のスタイルがこの頃すでに確立されている。

川西英 薔薇 1958頃  白に青の濃い背景に黄色と赤の薔薇。明るくていいなあ。

栗原忠二 芍薬 1923  ふわっとした花びらの質感がよく出ている。綺麗な花。

ここで肖像画が並ぶ。
宮本三郎 村山長挙氏 1944.12.14  
東郷青児 姉妹(村山美知子、富美子) 1944
どちらも水彩画でそれぞれの画家の特性が出ている。全く知らない人々なので画家の仕事以外は何もわからない。
ただ、姉の方が柔らかく、妹の方がしっかりめなのはやはり「姉と妹」らしくて面白い。

山下摩季 富士越龍 1960  横長の画面に広がる龍。竜のまとう空気感のようなものが伝わる。

ここからは近世絵画
花鳥図屏風 18世紀  三段に分かれている。一番上は金地、中辺りが飛ぶ鳥、下には花々やその蜜を吸う鳥などがえがかれている。雀が可愛い。

葛飾北斎日肉筆画帖 1835  最晩年の仕事なのだが、力の衰えは感じない。

鷹が可愛い。これはアタマをかいているのかもしれない。なんとなくちょっと甘えてるようにも見えて、そこが可愛い。猛禽でも可愛いものは可愛い。

伝・円山応挙 菜花に猫図 19世紀  これは好きな絵で以前から絵葉書をめでている。かわいいなあ。菜の花だけでなく菫も咲いていて、ねこもにゃあとした顔つき。
蝶々はいないね。いたら吉祥画になるのかな。


伝・応挙 歌仙図  文屋、遍照、業平の三人がいた。

渡邊南岳 観桜美人図  枝垂桜を愛でる二人。一人は女中だろうか。

黒田稲皐 群鯉図 1823  この人の絵も仲間入りか。鯉狂いの絵師。府中市美で見た時にはギョッとしたな、魚だけに。←金カムの尾形のようなことを言う。

原在中 鯉図 1832  これは前々からここで見ていた。二匹の鯉を腹を合わせるようにして括ってる。
たぶん鯉こくにでもするんだろうなあ…

原在泉 立雛図  明治のお雛様図。

伝・狩野探幽 戯画図巻 なんか野原で宴会してるんだが。
猩々と陶淵明と人麻呂(人丸)


西行にお酌するのは牛若丸?酒呑童子の横には婆さんの小町、もう一人の名が読めない。


給仕するのは鬼たちかな、よく働くがおこぼれちょうだいもいるな。


将軍塚絵巻模本 17-19世紀  この元本は高山寺のか。前にも他で見ているな。
塚を拵えようと働く人々。田村麻呂だったかな。そういえばわたし将軍塚行ったことないわ。

今はもう後期開催中なので展示替えされた分を見に行きたいと思う。

「絵画 村山家ゆかりの画家たち」をみる その1

2021-04-17 16:25:36 | 展覧会
御影の香雪美術館では村山家から寄贈された絵画を今回初めて展示している。
「絵画 村山家ゆかりの画家たち」
このタイトルにある通り、様々な画家たちが朝日新聞社主・村山龍平とその娘婿・長挙をはじめ一家に贈ったり、依頼に応じてその場で即興的に描いた作品が集められている。
これらはHPによると、昨年亡くなられた村山美知子さんが寄贈されたとのこと。
長寿を保たれた美知子さんは長年にわたって村山コレクションの保存に熱心に取り組んで来られたそうで、おかげでわたしたちはこの御影そして中之島の香雪美術館で素晴らしいコレクションを愉しませてもらえている。



チラシ表に選ばれたのは池田遙邨「朝日新聞大阪本社」1960
池田遙邨は「美の旅人」と呼ばれ、50代以降は山頭火の足跡を追ったり、東海道を徒歩で何度も往来したりする人だったが、大大阪の都市美をも楽しく描写する人でもあった。
89年の京近美の池田遙邨の遺作展の宣伝をTVで見て衝撃を受けたのも忘れられない。
92年の高島屋での「美の旅人」展もまことによかった。
この二つの池田遙邨展がわたしの中で、ある種の世界観の変移を起こさせたのだ。

夜の土佐堀川に浮かぶボートも可愛いな。それを柵から見る二人も。
(ここはカップルではなく、ぜひとも「アベック」と言いたい)
ほのぼの大阪。
ちなみにこの頃の大阪朝日新聞社はこれか。

現在はフェスティバルタワー。

中村不折 神武天皇御即位 1916  神武天皇と言えば八咫烏だが、その八咫烏はJリーグの象徴にもなったけれど、ここにはいない。多くの人が集まる中での御即位。中村不折は古代中国、日本神話などに材を取った堅固な油彩画と洒脱な挿絵と書と、三つの方向でいい作品を多く残している。久しぶりに彼のコレクションや作品があつまる書道博物館に出かけたくなった。

安彦良和「神武」は「ナムジ」の続編と言うか同じキャラの現れる物語ではあるけれど、時代は流れ、そこではナムジの息子ツノミが神武の為に命がけになる話が綴られる。
「天孫降臨」はあくまでも勝者側の見方で、敗者は受け入れるしかないわけだが。

ラビンドラナート・タゴール 仏陀に帰命す(ナモ―ブッダ―ヤ) 1916  詩聖タゴールが来日した際にベンガル語で綴ったものがある。
仏教的な言葉をここに記したのはタゴールがそれだからではなく、村山達日本人への言葉であるのだろう。
この時に撮った集合写真はwikiのタゴールの項目に出ている。
大観、川口慧海らも一緒。
また個人的には、タゴールと言えばサタジット・レイの映画や、アンジェイ・ワイダ「コルチャック先生」でユダヤ人の子供らが自分らの暗い運命を前に、死を恐れぬよう、理解しようとタゴールの作品を演じるシーンが、深く印象に残っている。

横山大観 正気放光 1955  金色の光が一斉に放たれている富士山。

画像になるとまた違うように見えるな…
タイトルは同じ水戸の藤田東湖の詩「正気の歌」から。冒頭を写す。
「天地正大の氣、粹然(すいぜん)として神州に鍾(あつま)る。
秀でては、不二(ふじ)の嶽(がく)となり、巍巍(ぎぎ)として千秋に聳(そび)え、
注ぎては、大瀛(だいえい)の水となり、洋洋として八洲を環(めぐ)る。」
水戸の書生っぽさが老大家となっても残っていたという大観だから、それでよろしいんや。

岡本一平 村山朝日社長 1912-22  肖像画。洒脱な筆致で夏目漱石のそれを思い出させてくれる。いい感じの「漫画」なんだよなあ。
かの子、太郎というヒトビトと家族だというのを思うと、逆にものすごく真っ当な人なのではと言う先入観があるのだよ…

大谷尊由 大瀧図 1934  171.4x71.5の大きな掛け軸いっぱいに水しぶき、下に青波、イワツバメ飛ぶ光景。
村山龍平の息子・長挙に贈ったもの。
大谷光瑞の弟。彼の書画は思文閣のカタログでよく見たが、かなりたくさん書画が残っている。
兄の大事業・大谷探検隊の財政援助をしたが、例の疑獄事件のため、兄の後も継がず、その後は貴族院議員となった。この絵はその時代のもの。
ああ、やっぱり大谷探検隊が好きだ。
茶の湯で使う羽箒も大小揃って村山に贈り、それがここにある。アメリカの鷲羽根らしい。

ラファエル・コラン オデオン座天井画の素描 1889頃  美人画。最初に資料で見たとき小磯風な美人にも見えた。いいなあ。天井画自体は行方不明となったそうなので、こうした素描は大事だ。


河合新蔵 風景(初夏の散策) 1910  緑の濃い風景。洋装の人々の後ろ姿。木の影がゾウの神様に似ている。
かれは吉田博の妻・ふじをの姉の夫。
…次女が婿を取って跡取りになってる、というのではなく、やはり博少年の才能に吉田が惚れ込んだというのがいい話だなあ。

吉田博 往く秋 1910  茶色い風景。向こうに白い山々、平地に遠く村。明治の洋画。遠近の面白さ。


堂本印象 藤娘 1955  大津絵のそれを印象風に描く。顔を隠して藤を担ぐ娘。
ここで歌舞伎舞踊「藤娘」について解説が入っている。
六代目による偉業の一つ。演出の変更。

印象 清風 1940  白鷺が一羽、木に止まる。後ろの跳ね毛が風を感じさせる。
薄紫の背景がそっとあるのもいい。

印象 ベニス グラン・カナル 1953  外遊した成果の一。来たゴンドラを眺める・待つ二人の女の後ろ姿。ここではその先は水上のみで建物は見えない。

同じシチュエーションでもゴンドリエのポーズが異なるのが印象美術館に所蔵されているそう。わたしは未見。そちらは建物も描かれている。
時間の推移のようにも思える二作。

印象 回春 1952  …川と土手とを描いている。小高い丘。小屋もぼんやりと。水面には白い木が映る。素直にタイトルをみることにしよう。

印象 背戸の水車 1955  これはもうモダンな筆致・表現のもの。金と黒と緑の抽象的な作品。かっこいいよ。

土田麦僊 黎明 1925  丑年だから元旦に牛の絵。二頭の牛が並ぶ。目元に個性がある牛たち。


山口華楊 白梅 1950  メジロかウグイスか実はよくわからないくらいの小鳥が止まる。
ほっとする一枚。

伊藤廉 栗と柘榴 1935  濃いなあ。開いてるのと閉じてるのとがある。ああ、この時代の洋画だなあ。

長くなるので一旦ここまで。

東京藝術大学大学博物館で渡辺省亭展を楽しもう

2021-04-02 23:33:43 | 展覧会
近年少しずつ世間の認知度が高まりつつある渡辺省亭の大きな回顧展が東京藝術大学大学美術館で開催されている。
これまでなかなか彼の作品を目の当たりにすることは出来なかったが、この展覧会があることで彼の画業の魅力が多くの人に知られるようになれば、とてもめでたいと思う。

開幕前の26日に内覧会へ出かけ、許可を得て撮影させていただいた展示風景などを手掛かりに、渡辺省亭の魅力について、勝手ながら記したいと思う。

まず地下二階から展示が始まる。エレベーターで降りると、まずはイントロダクションとして映像展示がある。
省亭の仕事やその方向性などについてのことがここからわかる。
そこを過ぎると赤坂の迎賓館内部を飾る七宝額の原画たちがこのように素敵な設えで観客を出迎えてくれる。



そういえばわたしが最初に省亭を知ったのは、NHKスペシャルの迎賓館の特集番組だった。
加賀美幸子さんのナレーションでね。
原画を省亭が担当し、それを濤川惣助が無線七宝で拵える。
花鳥画の粋を改めて目の当たりにするような作品と建物空間の美にときめいた番組。
前後期でここの作品も入れ替わるので、どちらも観たい人はぜひ。
それにしても明治の職人の凄腕には驚くばかりなりよ。

前掲のチラシを見てもらってもわかるように、何と言うてもやはり省亭は花鳥画の、それも薄紅色の使い方も艶やかな、牡丹の絵が素晴らしい。
こういう色調を絹の上に表現できる技能の高さに、ただただ息をのむばかり。
今、古い時代のものの方に美を感じる人が多いのは、やはりこうした作品を知るからではないかとも思う。

一方、省亭は美人画も素晴らしい。
ここにあるのは江戸の四季美人や故事来歴に登場する美人たち。



一瞬すっきりした表現に見えるけれど、目元の艶めかしさにときめく女人ばかり。
じっくりと眺めてほしい。
「塩冶判官の妻」の風呂上り姿の図。芝居で言う「顔世御前」というところだが、これは「前賢故実」から採ったもので、わたしが最初に観た省亭の美人はこの人だった。
あれは奈良そごう美術館で見た気がする。

室津の遊女も白衣観音も本当に皆とても綺麗。
ここでイヤホンガイドが活躍する。
省亭の奥さんはかなりの美人だったそう。
その奥さんの面影を美人画に投影させているという息子さんの話などもこれで知る。
美人の奥さんを自作にという画家は少なくない。
日本画だと山川秀峰が有名だし、洋画では山下新太郎がいる。むろん他にも…
こういうことをちょっとばかり知るのも楽しい。イヤホンガイドからはそうしたこぼれ話も聞くことが出来る。

主に明治に活躍した人だけに明治20年代の雑誌興隆期にも大いに関与した。
本画ばかりが持て囃されるご時勢ではあるが、省亭はそんなことも気にせずよい仕事をしている。
明治の四大文豪の一人で今では逆に知る人も少なくなった山田美妙、彼の本の挿絵や口絵を担当している。



なんとこの時期に裸婦を描いている。
いいものを見れて嬉しいわ。

今回の展覧会でこれまで何故省亭が「忘れられた」存在だったかについても解説がある。
かれは展覧会に出品することで世に作品を知らしめようとする人ではなかった。
個人的な受注を受けて作品を制作する人だったのだ。
これは上方、特に大阪に多いパターンなのだが、浅草育ちの省亭もそういう仕事のやり方を選んだのだろう。
そのために個人コレクションが主体となり、当時素晴らしい実力と名声と需要があっても、後世になかなか伝わらなかったようだ。
所蔵先を見ると、諸外国に納められているもののほかに、白澤庵、培広庵の名が出ていた。
世田谷の斎田記念館からも作品が来ている。これは嬉しい。
斎田記念館は江戸時代の名残を思わせる大きな大きな邸宅の一隅にある記念館で、蒐集品は幕末から明治のご当主が集められたものなのだった。
納得する。

他に動物画も戯画も素晴らしく、また作品はこの対幅だけだが、書にも深い味がある。


濤川の無線七宝の壺は省亭の原画。二人のコラボは奇跡の美を生み出した。


今の世になって再びこうしてスポットライトが当たるようになったのはとてもめでたい。
図録は小学館から刊行。いい造りの本。

往ける方は明治の素晴らしい作品をぜひとも目の当たりにしてほしい。
5/27まで。
その後巡回などもある予定。