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日照り続きでそそのかされIPO:大幸薬品(正露丸)

2009-03-21 07:06:31 | アプライド・ファイナンス
久しぶりに知名度の高い企業のIPOがありました。「ラッパのマークの正露丸」で皆さんにもおなじみの薬品(コード:4574)です。

今期業績は回復か?
直前期売上高5,296百万円(前期比4.7%増)、経常利益602百万円(前期比22.3%減)は、利益率だけ見ればなかなか立派ではありますが、増収減益なのが玉に傷です。このようにIPO直前期の利益成長が失速している場合には、翌期(09年3月期)の業績が再び回復に向かうかが、極めて重要となります。決算期間際の2月上場でデビューを果たす以上、会社公表の09年3月期の業績予想(売上6,118百万円、営業利益864百万円、経常利益789百万円)は手堅いと主幹事の野村證券は見ているのかもしれません。


ひたすら正露丸を作り続けて60年
1902年に中島佐一が製造販売を開始した「忠勇征露丸」の製造販売権を、戦後の混乱期、1946年4月に柴田音治郎(現大幸薬品の創業者)が継承して以来60余年、この会社は、ただただひたすらに正露丸を売り続けて、ここまで生き残ってきた感じです。現在も売上の8割以上が正露丸関連で、これまでは「究極の単品経営」という名がふさわしい企業であったと言えそうです。

日本国内における整腸、下痢止め大衆薬としての「正露丸」の知名度、ブランド力は圧倒的で、類似品は多数あるにも関わらず、この分野の「ガリバー商品」であることは間違いないでしょう。この「ブランド神通力」が模造品のあふれるアジア諸国でも通じるかが問題なわけです。

所在地別セグメント情報を見る限り、中国、台湾でも、徐々に売上を伸ばし、頭打ちの国内市場を補っているようです。(ただし、所在地別セグメント情報によれば、中国・台湾事業の営業利益率は、各々2%、3%程度と、国内の38%程度と比べるとまだまだではありますが・・・。また有象無象のジェネリック系の企業とも競争していかなければならないことを考えますと、日本以外のアジアでの低い営業利益率もむべなるかなと思いますし、今後の劇的な改善も難しいと思われます。)

大衆薬事業モデルの特徴
この会社のコスト構造に目を向けると、大衆医薬品事業の本質がよくわかります。ドラッグストアで正露丸が1,000円で売られているとすると、ざっくり言って、製造原価は280円、営業マンや管理部門の人件費が130円、ラッパのマークの広告宣伝費やドラッグストアへのリベートに220円使っている計算になります(08年3月期PLより)。
商売の鍵は、「TVCMや広告、リベートなどをいかにうまく使って、ドラッグストアの棚を確保し、どれだけ正露丸の販売を伸ばせるか」にかかっていると言えそうで、なんだか特定のロングセラー商品に依存する化粧品販売会社のビジネスに近い感じもします。ラッパのマークのブランド維持費は、それなりに高いようですし、ブランド力の維持こそがこの会社の生命線です。

次なる成長の柱
正露丸の海外売上高・利益の伸び率以外に、この会社の今後の成長性を占う意味での注目点は、2006年に外部の会社を買収して、新規事業として立ち上げた感染管理事業の成長の行方にあると言えそうです。感染症予防の製品である「クレベリン」ブランドの衛生製品キットの販売は好調で、08年3月期に194百万円だった売上高は、08年12月第3四半期(9ヶ月決算)で760百万円まで拡大しています。まだまだ規模は小さいですが、いずれこの商品が正露丸の「次の柱」として育てば、この会社、面白いかもしれません。

よくわからないIPOの目的
08年12月末でCashが2,207百万円(総資産の約20%)もあり、無借金であることもあって、IPO時には、第三者割当増資はせずに、創業一族の売り出しのみ(つまり彼らのキャピタルゲインのみ実現)だったようです(総資産の20%でキャッシュリッチに分類されるんだから日本の企業はうらやましいよ~)。「一体何のためのIPOなんだろう?」とかなり疑問はありますが、「株数が増えない分、投資家に優しい」とも言えそうです。創業者一族が会社と縁を切るためだけのIPOだな~。日照りが続いたせいで「なんでもいいからとりあえずに何か無いのか!」という野村社内事情によるIPOの気がします。

Valuation
会社公表の予想営業利益と前期実績DP費を使った、08年3月19日現在のEV/EBITDA倍率は、(時価総額10,630-現金2,207)/(予想営業利益864+前期DP費164)=8.2倍となっています。同じような強い大衆医薬品ブランドを持つ同業他社などと比較するかも?龍角散、葛根湯、浅田飴、養命酒・・・



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