もりたもりをblog

Valuation/Accounting/Finance/USCPA
何事にも前向きに取り組みます!

なぜベンチャー企業は無借金経営なのか~事業リスクと資本構造~

2009-05-11 04:39:36 | アプライド・ファイナンス




○「ベンチャー企業には無借金経営のところが多い。それは設立後まもなく信用力が低いことによるものか?」。

そもそもベンチャー企業は、どのようにして資金調達をしているのでしょうか。B/Sに目を向けると、右側・貸方の大半が株主資本であり、借入金(有利子負債)は殆ど見られません。経営者の立場から株主資本と借入金では、どちらが“使いやすい”かを、検討してみましょう。その視点の一つが「調達にかかるコスト」です。

株主と借入金提供者では 期待利回りが異なります。

株主の持分は、経営がうまくいって、B/Sの左側にある資産の時価評価額が大きくなれば大きく拡大し、経営に失敗すればその失敗による損失を負担することになります。

一方、借入金提供者は、通常は貸した資金は回収できる反面(企業が債務超過となって初めて資金の回収が困難となる反面)、経営がうまくいって企業価値が増加したとしても当初の貸付金元本+金利以上のリターンは得られません。

以前にも解説したように、企業が創造した価値は、まず借入金提供者に優先的に分配され、余ったら株主に還元されます。株主は“残り物”にしか権利がなく、この結果、株主のリターンは業績によって大きく変動します。つまり、株主は借入金提供者に比べて、より大きなリスクを背負っているわけです。従って、大きなリスクを背負った株主は、少ないリスクしか背負っていない借入金提供者より高い投資利回りを要求します。

これが株主資本と借入金の大きな違いの一つです。

経営者の立場から株主資本と借入金では、どちらの資金が低コストで借りられるでしょうか。これは当然、期待利回りの低い借入金です。とすれば、合理的な経営者であれば、調達資金のより大きな部分を借入金で賄おうとするはずです。にもかかわらず、冒頭述べたようにベンチャー企業の多くは株主資本に頼っています。なぜでしょう。

一つの理由は、借入金は株主資本と異なり、約束した期日に投資家に対して一定の金利を支払い、また、期限になれば元本を返済しなければならないという制約にあります。さもないと債務不履行で倒産します。これに対して、株主資本はいつまでに返済しなければいけないという期限はありません。企業はゴーイングコンサーンを前提としているからです。

もう一つの理由(これが本源的な理由なのですが)は、企業の特質やその時点での事業構造によって、どこまで借金ができるかに大きな違いあるという点です。これは創業したての企業は信用力が低くて借金はできないといった単純なことではありません。これを解く鍵がFCFです。

FCFは、企業が生み出したCFから企業が長期的に成長するための設備投資のような「投資」、そして日常のオペレーションに必要とされる「増加運転資本」を控除したCF、つまり企業にとっては手元に置いておいても使い道のない「余剰キャッシュフロー」です。これが投資家(借入金および株主資本を提供する投資家)への返還原資となります。

FCF = EBIT×(1-税率)+減価償却費-投資-増加運転資本

※EBIT=税引き前、金利支払い前利益
※FCF=NOPLAT - 純投資

なお投資家へのFCFの返還にあたっては、借入金の提供者が先にCFを取り、残りのCFがあれば株主に還元されるます。では借入金の提供者に返還すべCFがなかったら企業はどうなるでしょうか。この場合は債務不履行で倒産となります。

このことは、企業がどこまでお金を借りられるかは、その企業が生み出すFCFのバラつき具合によって規定されることを示します(図2)。

たとえば、収益が安定しておりFCFも安定している東京電力*1のような会社は、その必要資金のほとんどを借入金で調達しても、債務不履行を起こすことはまずありません。またFCF自体が極めて安定していることから株主への配分額もかなり安定しています。つまり、借入金のリスクは極めて低く、また株式のリスクもかなり低いということを意味しています。実際、東京電力はその必要資金の大部分を長期の社債で調達しており、その金利も年率2%以下と低いです。

一方、同社の株式は、常に極めて安定した株価を示しています。これは投資家からすれば、キャピタルゲイン(株価の値上がり益)は、あまり期待できないことを意味します。ただし同社の配当利回りは2%前後と比較的、高いです。こうした株式は「配当株」と呼ばれ、投資家はキャピタルゲインではなく、インカムゲイン(配当金)を目的に投資します。

この、対極にあるのが、今回の主題となるベンチャー企業です。成長性の高いベンチャー企業は投資案件が豊富にあり、また売上高も急成長しているために増加運転資本の金額も大きいです。

したがって投資CFがマイナスになりがちで、⊿WCも大きくプラスになりがちです。つまり余剰CFであるFCFは低水準で、往々にしてマイナスになりやすいのです。またFCF自体のバラつき具合も大きいです。

このような企業が借入金をしたらどうなるでしょう。FCFが借入金の返済原資であることから、債務不履行となり倒産してしまう確率が高くなります。だからベンチャー企業は借入金による資金調達が難しく、コストの高い株主資本に依存せざるをえないのです。

最新の画像もっと見る