日本の総理は、アメリカ議会で何を話すのだろうか、と考えていたとき、
ふと、『大逆転(Trading Places)』(1983年)という素敵な映画を思い出した。
裕福な男と、貧しい男の立場が、ある日突然入れ替わるのであるが、
貧しい男はすぐに裕福な男を装って振る舞い始め、裕福な男は、貧しい男の怒りに満ちた、生き残りをかける生活を否応なしに始めるのである。
『大逆転』は、
「確りと相手の立場に立って考えなければ、その人の考えていることや、感じていることを理解できない」
ということを教えてくれる。
特に、協力関係を築くためには、その人(とその背後にある国)の苦しい状態を理解し、まず、ひとりの人間として、それに反応するほど、理解しようとすることが出来るし、また、相手のことを知るほど、自身の偏見に気づき、偏見を抱くこと自体を上手に素早く抑えられるのである。
ところで、精神療法家と治家には多くの共通点が在り、影響を及ぼす範囲は大きく違っていても、目標や手法は極めてよく似ている。
両者とも、ときには明言され、ときには隠されることもある動機を理解し、それらに訴えかけることによって、相手の態度や行動を変えようとする。
また、精神療法家が基本的に1度に1人の患者に働きかけるのに対して、政治家は何百万という人々に影響を与えるが、両者が持つスキルはよく似ている。
精神療法家が、患者の信じているものが間違いで自滅的であったとしても、いきなり間違いを証明しようとして事実に基づいた議論を行うことは、まず、ない。
先走って患者に現実を押しつけようとすると、患者は、怒りや不安、困惑を感じ、頑なになり、精神療法家と共に治療に取り組む意欲をなくしてしまう可能性がある。
真実は、人を自由にすることもあるが、患者の側にそれを聞きいれる準備が出来ていなくてはならないのである。
優れた精神療法家は、患者の隠れた苦悩をくみ取ると同時に、その苦悩を和らげる現実的な方法を見つける取り組みを、患者と共に少しずつ行ってゆくのである。
政治家にも精神療法家と同様の戦略が必要であるように、私は、思う。
患者が間違っているからといってすぐに、信じていることを捨てられないように、世界にとって誤った危険なものであるからという事実に基づいた議論だけで、世界はいきなり、これまで信じてきたものを捨て去ることなどは出来ないのである。
この点を、よく著しているのが、1979年7月1日にジミー・カーター大統領が、行った「A Crisis of Confidence(信頼の危機)」いわゆる「社会の沈滞(malaise)」と呼ばれたテレビ演説である。
カーターは、エネルギー危機のなかで、アメリカ国民は自信を失い、共通の目的を失っていると指摘し、エネルギー問題の解決策を提示した。
また、同時に、この解決策がアメリカの結束と、将来に対する信頼をよみがえらせ、国と国民全員に新たな目的意識を与えると説いたのだ。
しかし、このカーターの演説は、アメリカにもアメリカ国民にも現在の状況は間違いであることを説明し、事実にもとづいた論を展開し、先走って現実や問題解決策を押しつけようとした結果、国民に怒りや不安困惑を感じさせ、カーターと共に歩む意欲をなくさせてしまったのである。
カーターは、勇気を持って事実に向き合うように有権者に素直に呼びかけたつもりかもしれないが、「確りと相手の立場に立って考え」なかったために、「相手の考えていることや感じていることを理解」できず、レーガンにある意味「大逆転」されて、1期4年で政権の座を去ることになったのである。
精神療法家であれ、政治家であれ、最初に行うべき最も重要なことは、相手の立場に身を置いて考えることである。
「自分が(自国が)この人(国)の状況にあったら、私自身もこの人(国)のように行動し、考え、感じるかもしれない」という前提に立つことから始めるのである。
細かい差異は在るとはいえ、大まかなところでは皆同じなのであるから、似たようなニーズや不安、欲求不満を抱え、似たような形で人生の危機に対処していることに加え、認知と神経科学の研究から、政治的保守派の人々は、精神的にも生物学的にも、恐怖を感じる状況に対してより強い反応を示す傾向があることが解っている。
国外だけに対してだけではなく、国内に対しても、
精神療法において精神療法家と患者の協調に必要なことは、政治家と私たちとの効果的な協調に必要なことであるように、私には、思えるのである。
以下は、精神療法で基本的ルールとされるものである。
ルールのなかの「精神療法家」を「政治家」に、「患者」を「国民」(または有権者)に置きかえてみてほしい。
・精神療法家は誠実であること、また、患者にも誠実であるように促すこと。
・患者との強い絆を築かなければ患者を助けることはできない。
・患者の言葉遣い(感覚)で話をする。
・患者の話をよく聞き、患者が精神療法家から学ぶのと同じくらい多くのことを患者から学ぶようにする。
・共感と信頼が治療(言い換えるならば政治)に最も必要な要素である。
・痛みや恐怖、怒り、落胆を自由に表現するように患者を励ます。
・患者のニーズと、患者がそれをどのように満たしてほしいと感じているかを確認する。
・現実的な目標と期待について話し合う。
・性急な判断をしない。
・(過大な期待をさせるのではなく、)徐々に希望をもてるようにする
・精神療法家が自分の感情を意識し、それを効果的に活用する。
・治療のなかの何もかもが同じ重みを持つわけではない(ことを理解する)。
・患者が潜在的に持つ変化への転換点に常に注意し、変化を起こすために出来ることはなんでもする
ルールの一部に(丸カッコ内)で私なりの付け足しをしているところがあるが、政治家が精神療法家のルールを少しでも国民との日々の取り組みに生かせば、さらによい政治家になることが出来ると、私は、思うのである。
ここまで、読んで下さり、ありがとうございます。
前回から、数回、総理のアメリカ訪問に合わせた話にしています。相変わらずミーハーですみません^_^;
今日も、気分の良い晴れですね(*^^*)
今日も、頑張りすぎず、頑張りたいですね。
では、また、次回。