ないものねだり

解脱しちゃったり、悟りの境地に行き着いちゃったりしているわけではないので、僕には、多少の欲がある。
みつを風に書けば、そりゃ人間だもの。
少しくらいあったって、ダライ・ラマも怒りはしないでしょ。

でも、僕は、他人と比べたことはないのだが、人よりも欲が少ないと思っている。
食欲とか性欲とか睡眠欲は、人並みだと思われる。放浪欲とかは人よりも強かろうが、最近はそっちもこっちもテンツな感じ。
物欲は、最近めっきりなくなったなぁとしみじみ。欲しいもの、見当たりません。必要なものはあるけれども、ほしいものはない。
先週末下着を二着買ったけれど、それは必要に応じてだったわけで、街をブラブラしていていきなり欲しくなったわけでもないし、前々から調べていたわけでもなく、本当に必要になり、選ぶとか迷うとかもなく、ここに行ったら絶対あるだろうという店に行き、何種類かのなかで選び、買った。唯一気をつけていたのは、給料前だったので値段と、たかが下着を買うのになるべく貴重な休日の時間を割かないようにした、ただそれだけだった。
洋服もCDも、最近は困ったことに書籍や雑誌まで、そういう感じで、なんか購買欲が刺激されず、とくに書店へは仕事柄行っておいたほうがいいという義務感にかられることもあり足を運ぶのだが、欲しい本がないということではなく、なんとなく読む気がしない。雑誌も気になるのはいくつかあるのだが、書棚の前で手にとってはみるものの、レジまで進む気にならない。街角で配布されているR25も、もらってはいるものの、結局テレビ欄くらい読むだけで、今週も記事はまだ読んでいない。
テレビ番組も毎週絶対に見逃せないものがあるわけじゃなく、DVDだって結局あんまり見ていない。友人にもらったファミコンだって、ボンバーマンをしばらく続けていたものの、全50面をクリアしてしまってから、モチベーションが下がり気味で、新しいゲームに取り掛かろうという気も起きない。
世の中別にどーでもいーや、って投げやりな感じになるわけでもなく、かといって、熱を入れて何かに怒ることもない。毎晩ニュースを見ながら、酒を飲んで、おーおー中国がまたえらいことやっちゃったねー、とか、芦屋な放浪画家と同姓同名の人を見て、事件ではなく言動がやけに気になっちゃったりとか。
そんなどこか気が抜けたサイダーのような感じの甘ったるい生活を送っているわけだが、やはりそれでも僕にはまだ欲がある、と思ったのは、隣の芝が青く見えることが多くなってきたからだ。

旅行をしていたときは、自分は自分、他人は他人で、あくまでもマイペースマイライフな感じだったのだが、やはり社会に出ると、否応なく、他との比較が生まれてくる。
ま、これはしかたないことだ。広告だらけの資本主義社会に生きている身にとって、広告の洗礼を免れることはまずもって無理だろうから。

まだいまのところ、ストレートに金とか女とか、絵馬に書けそうもない欲望が渦巻いていることはなく、もう少し寝たいとか、休みがもう一日長ければとか、通勤電車の乗車率が下がれば（フレックス制度のある会社にしておけばよかった）とか、近所のスーパーのお惣菜が半額になってないかなとか、そんなかわいらしい欲しかない。
それでも、帰国時に比べて、やはり欲の芽が少しずつ出てきたかな、という感覚はある。

冒頭にも書いたが、別段修業する気も悟りの境地に向う気もないので、欲が出てくるのは問題ないことなんだろうが、ちょっと世間からドロップアウトしたような隠者のような、兼好法師のような生活もあこがれないわけではないので、ここしばらくはガッついて求めないスタイルを維持していこうと思う。


もうすぐ年末年始で、普段は通り過ぎるだけの神社に行く機会も増えるだろうが、毎年のように、初詣でごったがえす神社をテレビ越しに見るたびに、なんか人間の欲望が渦巻いている現場をまざまざと見せ付けられているようで、気分が悪くなる。
画面いっぱいに映る人の群れ。小銭を手にし、神に、己と己の身内の幸せを祈る。宝くじが当りますように。恋人ができますように。家族健康で過ごせますように。志望校に合格しますように。金持ちになりたい。パパとママにおもちゃを買ってもらえますように。営業成績が上がりますように。などなど。
なかには殊勝な人もいて、世界平和だとかお願いしちゃう人もいるけれど、少数派でしょ、確実に。
新年一発目からそんな欲望が渦巻いている光景を見せ付けられているわけ。
だから、へそまがりな僕は、一人、初詣には必ず行くけれど、お願いなんてしたことない。神様、いいよ、僕の願いなんて聞かなくて。
もし僕が神様なら、そういう願いをまったくしないヤツの願いを逆に叶えちゃうと思うから、あえての行動。

ま、いちばん欲深いのは、そんな僕ですが。