放浪日記

刮目せよ、我等が愚行を。

ポルトガルを求めて 【マカオ】

2004年10月21日 | 澳門、香港
1997年、香港が英国から中国に返還された。
街には「回帰」という文字があふれ、街全体が人工的なお祭りのような騒ぎだった。
日本にも政治レベルから小ネタレベルまで、返還に関するさまざまなニュースが送られてきていた。
その2年後、澳門(マカオ)がポルトガルより中国に返還された。
僕の記憶では、澳門の回帰は日本にほとんど報道されることはなかった。

香港には旅行の終着地や出発地としてよく訪れていたが、澳門に行こうと思ったことは一度もなかった。澳門のイメージはカジノしか思い浮かばなかったからだ。

今回、澳門に行くことに決めたのは、安いチケットがたまたまとれたから。中華圏で行っていないところは澳門だけだったから。それだけの理由だった。
実際に行くまで、澳門=カジノというイメージは変わらなかった。

結論から先に書いてしまうと、澳門はイメージ通りカジノの街だった。競馬、ドッグレースなどのギャンブルの街だった。夜の蝶たちが踊り狂う、男のための街だった。香港から、日本から、そして中国大陸から、一獲千金と一夜の情事を楽しむために男たちが集う街だった。
カジノでは、1枚のチップの最低が日本円で1000円ほど。それを山のように積み上げ、ほんの数秒で消えていく。
沢木耕太郎が夢を見た澳門は、成金どもと派手なネオンサインに蹂躪され、消え去ってしまっていた。

僕は、なにをすればいいのだろう。
初日の夜にカジノに出向き、成金たちのあいだで、なけなしの予算を一瞬で失ったとき、そう思った。ガイドブックもない僕は、観光局でもらってきた簡素な地図をホテルで広げながら、そう思った。
土地勘のある香港に行って、おとなしくサンミゲルビールを飲みながら、飲茶と太極拳を楽しもうか、とも思った。
でも、それでは澳門を見ていない気がした。つまらないことをつまらないと割り切ってしまうのは簡単だけど、もっと違う、カジノ以外の澳門を見てみようと思った。

翌日、僕は、澳門本島から橋でつながっているタイパ島に行くことにした。観光客がいないところへ。
庶民の暮らしを見てから、澳門を去ろうと思っていた。

バスに揺られて小1時間。
(ホテル前から乗ったバスは、発車直後、乗用車と接触事故を起こし、しばらく運転手同士の口論のため立ち往生。結局バスを乗り換えるはめになった)
タイパ島の中心地、官也街に着いた。
観光客のいないところへ向かったはずが、案外人がいて、正直うんざりした。しかし、ここにいる人は、本島で見かける成金やツアー客ではなく、子どもづれの家族やカップルといった、澳門の人々ばかりだった。官也街には、有名ポルトガル料理店が多いこともあり、休日のランチにそれを食べにきている人が多かった。どの店も混んでいた。
ポルトガル料理は、人が少なくなったころを見計らって訪れることにして、僕は官也街の路地裏に何気なく入った。

そこには、ペパーミントグリーンやクリームイエローに塗られたポルトガル式の住宅が建ち並んでいた。
建てられたのはいつごろなのだろう。その多くが、壁が崩れかけ、色が剥げかけ、窓ガラスが割られていた。朽ち果てていく過程のようだった。しかし、そこには人が今も生活をしているようで、開けっ放しの扉のなかからは、怒鳴り声にも似た勢いよい広東語が聞こえていた。
青い空、壁の淡い色使い、石畳の路地、時折姿を見せる野良猫、遠くから聞こえてくる広東オペラの歌声や麻雀の牌の音。迷路のように入り組んだ細い路地裏を歩いていると、ここが中華圏なのかポルトガルなのか、そして今はいつなのか、わからなくなってきた。
ただわかるのは、今、澳門にいること。
これが澳門だ。澳門に来てよかった、本当にそう思った。

どれだけ歩いただろう。迷いながら、何度も同じ路地裏を歩いていると、ここで生活をしている気分になってきた。前を何度も通っている雑貨屋で店番をしている老婆にちょっと笑顔を見せながら、僕は遅めのランチを食べに料理店に向かった。
アサリのワイン蒸しとラム肉の煮込みを注文し、ほどよく空いたお腹に、白ワインを流し込みながら、もう少し澳門を歩いてみようと思った。
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2 コメント

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あぁ、いいですね。 (makimaki@沖縄)
2004-10-23 22:27:11
行ってみたくなります。

そういう路地が私は大好きです。

広い、地平線が見える場所や雪山が見える場所も好きだけれど

そんな町歩きも大好きです。
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路地歩きには (にいや)
2004-10-25 20:38:15
澳門は非常におもしろかったです。



香港にはない独特の田舎臭さがたまりませんでした。

香港から日帰りで行くだけだったらもったいないです。

おすすめ!

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