私自身は、決してアップル製品の先駆的な理解者でも熱心なユーザーであったともいえない。 20年ほど前に最初に持ったラップトップが、友人から買ったパワーブックで、それはとても気が利いて、使って楽しいものだったから数年間愛用した。 だがWindows95が出て以来、マックPCは使っていない。 Ipod も娘用が最初だったし、ようやく自分のiphoneを使い始めたのも最近のことだ。 機能だけなら、Windowsやドコモで充分というのが言い訳だったが、文字や画面の美しさ、その重さや手触り、指で画面をなぞるインターフェイスなど手にして楽しくなるのは、アップル製品に共通の味わいであり価値だろう。
Jobsの遍歴、成功した製品やアニメ映画会社、あまり成功しなかったニュートンのような先駆的なもの。自分が作った会社を追われ、そこにまた戻って落ち目になっていたアップルをマイクロソフトを上回る時価総額の会社に再生させたという非凡なストーリー。 Jobsの熱心なフォロアーでなかったので、有名な2005年のスタンフォード大学での卒業式のスピーチもろくに知らなかったが、今回それを初めて全部聴いた。
虚飾の全くない、簡潔なスタイルで述べられたそのスピーチはわずか15分ほどだが、ジョブスの人となり、哲学と人生観が率直に表現されていて素晴らしいの一言に尽きる。 彼の不遇な生い立ちから、中退した大学で出会ったカリグラフィーがMacの美しいフォントを生んだこと。 アップルを追われたことが、その後の転換と創造を生んだこと。 2004年にガンが見つかり「死」に直面して考えたこと。 そして、最後に発せられた”Stay hungry, stay foolish."という完璧な結びの言葉。 ジョブスの製品のように、シンプルで機転がきいて美しいこのスピーチは、歴史に残る大統領のそれに匹敵する感興と余韻を聞くものの心に残す。
運命の皮肉は、ジョブズ自身が死の淵から戻って新しい人生に踏み出した頃、新しく社会に出て行く学生たちへの餞(はなむけ)に送った言葉が、彼自身の辞世のごとく今こうして聴かれるということだ。 毎日鏡の前で、今日の予定は本当に自分のやりたいことだろうか、と問い続け、自分の気持ちに忠実に、妥協しないで生きることの大切さ私たちに教えてくれる。
既に伝説となりつつある、このスピーチを忘れないように、YouTubeで1000万回以上視聴された映像をリンクしておきます。