ひまわり通信

私からあなたへのお便りです

『夜のピクニック』

2009年11月17日 20時55分57秒 | 
夜のピクニック (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社

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裏表紙あらすじより

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながら、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。



たった24時間のお話なんですが、中身はとっても濃いです。

最近“走る”小説を読んでいましたが、“歩く”ということもとてもとても奥深いのだと改めて思いました。

“走る”に比べて“歩く”は、スピードが遅い分、たくさんじっくり思い、感じ、考える、ことができるのです。

1年生、2年生、と積み上げてきた行事が、3年生となった最後に正に完結する、という感じです。

静かに、燃えている、青春がここにありました。



以下、引用です。


P119
昼と夜だけでなく、たった今、いろいろなものの境界線にいるような気がした。大人と子供、日常と非日常、現実と虚構。歩行祭は、そういう境界線の上を落ちないように歩いていく行事だ。


P127
夕暮れの時には、辺りが暗くなってくるのに疲労が重なって憂鬱になったが、日が暮れてしまうと、逆に少しずつ元気になってくる。自分が新たな世界の住人になったことを認めたからだ。昼の世界は終わったけれども、夜はまだ始まったばかりだ。物事の始まりは、いつでも期待に満ちている。

…この部分が次の部分につながります…

P442
何かが終わる。みんな終わる。
頭の中で、ぐるぐるいろんな場面がいっぱい回っているが、混乱して言葉にならない。
だけど、と貴子は呟く。
何かの終りは、いつだって何かの始まりなのだ。


P189
忍はボソボソと話し続けた。
「おまえが早いところ立派な大人になって、一日も早くお袋さんを楽させたい、一人立ちしたいっていうのはよーく分かるよ。あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ。もちろん、おまえのそういうところ、俺は尊敬してる。だけどさ、雑音だって、おまえを作っているんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思ったときにはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。」

…この部分が次の部分につながります…

P344
正直、あの時は忍が何を言っているのかピンと来なかった。珍しく口ごもり、熱っぽく呟いていた友人の姿にきょとんとしていただけで。
だけど、今はなんだか彼の言っていたことが分かるような気がした。
今は今なんだと。今を未来のためだけに使うべきじゃないと。


P239
「へえ、自分の知らない才能を発見したかな―――大体、俺らみたいなガキの優しさって、プラスの優しさじゃん。何かしてあげるとか、文字通り何かあげるとかさ。でも、君らの場合は、何もしないでくれる優しさなんだよな。それって、大人だと思うんだ」


P272
好きという感情には、答えがない。何が解決策なのか、誰も教えてくれないし、自分でもなかなか見つけられない。自分の中で後生大事に抱えてうろうろするしかないのだ。


P354
昨日から歩いてきた道の大部分も、これから二度と歩くことのない道、歩くことのないところなのだ。そんなふうにして、これからどれだけ「一生に一度」を繰り返していくのだろう。いったいどれだけ、二度と会うことのない人に会うのだろう。なんだか空恐ろしい感じがした。


P414
並んで一緒に歩く。ただそれだけのことなのに、不思議だね。たったそれだけのことがこんなに難しくて、こんなに凄いことだったなんて。




歩く。
歩き続ける。
それが、人生?
なのかな…

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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私も読みました (sumire)
2009-11-17 21:14:09
YASUKOさん、今晩は。
恩田さんの出身校の行事を題材にされて書かれたのですが、丁度 婿殿が同じ卒業生なので
読んでみました。詳しく感想は聞いていませんが一つの卒業式だったようです。私は走ること、歩くことは好きで得意でしたのに 今は夢の中です。
常に前に歩く道があるうちはゆっくりでも歩いて行きたいです。
歩くからこそ見えて来るもの (美香しゃん)
2009-11-18 06:21:49
散歩をしていると、そういうものに気付かされ
それについてしみじみ考える自分がいます
(が、その散歩したのは一体何時の事?)

この本も惹きこまれそうですね
読んでみたいです(*^_^*)
遠歩(えんぽ) (ジンコ)
2009-11-18 06:54:09
学生時代に、夜を徹して阿蘇のふもとから
大学まで歩き通したことがあります。

今朝はゆっくり引用文を味わう時間がありませんが、その分、
「今日を味わって歩いて」きますね(^_-)

いってらっしゃい&いってきます(^o^)/
青春時代 (冬のひまわり)
2009-11-19 08:32:16
大人にはくだらないって判断されちゃう経験が、
人間性を作っていくんだよね。
そうか~、なんか忘れていたよ。

>雑音だって、おまえを作っているんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思ったときにはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

そうなんだよね。納得。
ご無沙汰です (ピョン)
2009-11-20 12:32:26
大変ご無沙汰しています。
今、瀬尾まいこさんの「戸村飯店」青春100連発を読書中です。
「夜のピクニック」
また、読む本が出来てうれしいです。ありがとう!!
息子さんの体調良くなりましたか?
びくびくしちゃいますが、ワクチン接種の順番が回ってこない私達としては、軽く感染して免疫をつけるのもひとつの手かなと思ったりします。どうぞ、お大事に。
お母様との旅行、喜んでいただいてよかったですね。(*^_^*)
読書 (ぽわん)
2009-11-20 23:48:06
本を読みたくて、衝動的に本を買ったりしています。
あさのあつこさんの短編を読みました。
『風が強く吹いている』は、
私が読む前に、いま、入院中のお友達に貸しています。
とっても面白いって、喜んでくれているので、よかった~と思ってますが、
やっぱり、自分も読みたい・・。
けど、いま、また見にくくなって来て・・
なんか寂しいです。
YASUKOさんの本の紹介で、読んだ気分に浸っています。
いつもありがとう~。
sumireさん (YASUKO)
2009-11-21 17:00:10
そうですか。
お婿さんの出身校なんですね。
伝統の行事が在るっていいことですよね(*^_^*)

sumireさんは治療入院の連休ですね。
頑張ってください。
美香しゃんさん (YASUKO)
2009-11-21 17:01:55
その時々のスピードって結構大事なんですね。
見えてくるものが違うでしょうし、心の状態も違うでしょう。
でも走って速く目的地まで行きたい時もあるし、臨機応変ですね(^_-)-☆
ジンコさん (YASUKO)
2009-11-21 17:03:44
>学生時代に、夜を徹して阿蘇のふもとから
大学まで歩き通したことがあります。

とても貴重な体験をしましたね。

この一週間のジンコ先生奮闘記も涙しながら読みましたよ。
ジンコさんのブローチが増えましたね(^_-)-☆
冬のひまわりさん (YASUKO)
2009-11-21 17:05:41
こうやって考えていくと、無駄なものはひとつもないって理解できますよね。
特に我々の息子たち、はちゃめちゃやってても、糧になっていくんでしょうねぇ。