尾道市向島町の里海を眺めて

瀬戸内海(尾道・向島)で見られる海の生物等をご紹介

ウミウシは大変なものを盗んでいきました

2011-05-27 18:50:13 | 生物
先週末に少し浜辺を歩いて、採集依頼されていた生物の様子見をしてきました。
その時、ふとヒラミルに付いているヒラミルミドリガイが目に留まったので、
樹脂包埋標本にするために拾ってきました。





よく見るとクロミドリガイも数個体ついていたので、これもついでに固定。
上のヒラミルミドリガイの写真にも写っていますが、大変小さなウミウシです。
クロミドリガイは2~3mm程しかありませんので、よく見ないと見つけられません。
他にもブドウガイなどがついていました。





さて、これら緑色のウミウシたち。
実は吸血鬼も驚くような能力を持っています。
それは葉緑体を海藻から盗み、自らの体内で光合成をおこなわせることです。
これを盗葉緑体といい、囊舌目に属するウミウシの一部がその能力を備えています。
ウミウシの緑色は単にカモフラージュだけではなかったという驚きの現象です。
草食系生物の究極の形といえるかもしれません。

上記写真や緑色のウミウシ全てが葉緑体を盗めるわけではなく、
また、他の生物もこのように葉緑体を盗むことがあり、
なかには盗んだ葉緑体をさらにピンハネするというヤクザな生物もいます。

盗んだ葉緑体はウミウシの中で長いときは半年ほど保持され、
光合成によって得られた代謝物はウミウシに供給されます。
一般に、海藻の葉緑体ゲノムは陸上生物と比べてさほど減退しておらず、
核DNAにさほど依存せずに生存可能であるため、盗まれた葉緑体は保持されやすいと考えられています。
陸上の植物から葉緑体を盗み、それを利用することはできないようです。


盗むのはどうするのか?
おそらく食事の際に葉緑体を海藻から取り出すと考えられていますが、
どうやって分解せずに取り込むのかなど、細かい経路はまだわかっていません。
囊舌目のウミウシは、歯舌で海藻に穴をあけ、そこから内容物を吸い取ります。
最後に一例として、タマノミドリガイがフサイワズタから吸っている写真を載せておきます。



ウミサボテン

2011-05-20 21:07:28 | 生物
ちょっとした事情により、ウミサボテンが伸びる様子を撮影した動画を取り直すべく、
新しいウミサボテンを採集に行きました。
同時に、これまで展示していた古株を元の場所に戻してきました。



下は伸びてきたウミサボテン。
小さくぽつぽつ見えるのは餌のアルテミアです。



ただ伸びていく様子を撮影するのでは、本職のセンスや機材にとても敵わない。
そこで、小さくなったウミサボテンをサンゴ砂の上に置き、
ウミサボテンが何らかのトラブルで海底から引き抜かれた状態を作り出し、
その状態から元のように埋まって伸びる様子を再現しました。
暗幕を使用したり、プロの技をちょっとだけ真似てみたつもりです。

ウミサボテンが伸びる様子(Expansion of Sea Fingers)


ウミサボテンについては、以下のページに少しだけまとめてあります。
http://home.hiroshima-u.ac.jp/rinkai/index.cgi?%a5%a6%a5%df%a5%b5%a5%dc%a5%c6%a5%f3
http://home.hiroshima-u.ac.jp/rinkai/index.cgi?%a5%a6%a5%df%a5%b5%a5%dc%a5%c6%a5%f3%a4%bd%a4%ce%a3%b2
色々と内部事情による制限があって、レポートに丸写しされるような図鑑的な記述にはしていません。
浅学非才な私にとっては結構厳しい縛りで、それならばと興味と話題性を持たせるような記述にしています。
そうすると今度は主観的で客観性に欠けると非難轟々です。
和名ダメ、学名ダメ、図鑑的で引用可能な記述ダメ、でも客観的で格調高くというのがご注文です。
それに応じてリンク先のページを改訂しますが、難題に頭を抱えています。
無味乾燥な内容にしていいなら割と簡単なのですが・・・。

小学校による磯採集(2011)1回目

2011-05-20 20:48:25 | 日記
5月16日に近隣の高見小学校の児童による磯採集が行われました。



磯に出る前に危ないこと、やってはいけないことを十分に注意したうえで近くの岩場に案内。
ガイダンスにかなり時間を割いたため、活動時間が短くなってしまいました。
まだ1回目で要領を得ていないので、採れた生物は少な目。
海水温も16℃程で冷たく、当日はかなり濁っていたことも影響しました。
潜ってもほとんど何も見えず、ただ寒いだけでした。
次回はもう少し海水温も上がるでしょうし、子供たちもコツをつかむと思うので、
いろいろな生物を採ってくることでしょう。


下の写真は子供たちが採集したコケギンポ(Neoclinus bryope)。
頭にコケが生えているように見えます。




ニホンスナモグリの孵化

2011-05-12 18:45:57 | 生物
先月半ばに磯を散策。
水槽に入れれそうな小魚を採っていたのですが、
手伝ってくれた院生のA君がニホンスナモグリを見つけました。



近縁種が幾つかあり、私は甲殻類の分類がとても苦手なので間違っているかもしれません。
殻は柔らかいのでアナジャコではないことは確かです。
お腹の赤いのは卵です。
この時期特有の婚姻色の赤色も背中に見えます。

せっかくなので、卵を少し拝借。
実体顕微鏡で観察すると、胚発生は進んでいる様子。




このまま雑居水槽に入れるとデスマッチが始まってしまうので、
小さな水槽に隔離しました。
飼い続けること半月。卵の色が変わり、卵塊に海水を送るような仕草を見せ始めたので、
念のためと思ってカメラを設置しておきました。
私物のデジカメで長期戦を覚悟して品質を落として撮影したため、
解像度はあまりよくないのですが、それらしい様子は撮影できました。





ニホンスナモグリ孵化


生まれてきた子供たちは肉眼ではボウフラのようにしか見えませんが、
これも顕微鏡で見るとこの通りかわいらしいものです。



ただし、そこは弱肉強食の世界。
一緒に飼っていたアシナガモエビモドキ?に食べられてしまいます。
これ以上飼育するのも難しいので、生息地の魚がいない場所を選んで放流してきました。

このアシナガモエビモドキと思われるエビですが、これも卵を持っていて、
同じように卵を拝借して顕微鏡で覗いてみると・・・





(`Д´)
エビに顔芸をされるとは、人生何が起きるかわからない。

ヨウジウオ(オクヨウジ)

2011-05-02 19:07:06 | 生物
先日お出かけ先で、ヨウジウオ(Syngnathus schlegeli)が水槽に入っているのを見ました。
そういえば去年の写真と動画があったはず・・・と思ってパソコンの中から発掘。
ヨウジウオはタツノオトシゴ(Hippocampus coronatus)の仲間で、立派な魚類です。
瀬戸内海では潮が引いたときにアマモ場に潜んでいる様子が見かけられます。

6/17訂正
この記事の写真は全てオクヨウジ(Urocampus nanus)です。
タイトルともに修正いたしました。







餌はどうするの?とよく聞かれます。
一番簡単なのは孵化させたアルテミア(ブラインシュリンプ)をあげることです。
人工のペレットや冷凍アミ等はほとんど食べません。
目の前で生餌としてちらちら動かないと食べてくれません。
タツノオトシゴと似て食べるのが物凄く下手で、
水槽内の海水の流れが速いと食べることができないこともあります。
お食事の様子はこんな感じ。

ヨウジウオの食事


オクヨウジはタツノオトシゴと同じく、掴まる物がないと弱りやすくなります。
市販の海草を模した人工物で構わないので、ヨウジウオが気に入ってくれるようなら
入れてあげた方がよいかもしれません。
こちらではフサイワズタという海藻を一緒に入れています。
他の海藻や海草よりも溶けにくく、長持ちするので重宝しています。

昨年はタツノオトシゴの孵化がうまくいったので、今年はできればヨウジウオで挑戦したいと思っています。