尾道市向島町の里海を眺めて

瀬戸内海(尾道・向島)で見られる海の生物等をご紹介

メバルとカサゴ

2012-12-04 21:16:11 | 生物
前回の珍魚すくいに使ったメバルとカサゴを養子にもらいました。


メバル


カサゴ

この2種は同じような環境(堤防や磯)で釣れるため、案外間違われやすい魚種です。
上の写真では体表の色がかなり違うので間違いにくいのですが、判別がしにくい色をしていることがあります。
様々な見分け方がありますが、一番わかりやすいのは目の大きさと口を見ることです。
メバルは「目張」というように目が大きく下顎が突き出ていますが、カサゴは目は小さめで上顎と下顎の位置が同じです。


メバル。目が大きく下顎が突き出る。


カサゴ。目は小さく顎が突き出ない。


この2種を飼っていると、行動パターンの違いがよくわかります。
メバルは水槽内でホバリングしながら中層を割とゆっくり泳ぎますが、
カサゴは底面でじっとしていて、泳ぐときにはかなり速く泳ぎます。
また、目の色がメバルは黄色いですが、カサゴは反射光が黄緑色に見えるようです。
餌の好みも違うようで、メバルは中層の浮いている餌(エビなど)を好み、底面の小魚にちょっかいは出しませんが、
カサゴは底面の小魚を旺盛に捕食します。同居させていた小さめのナベカが犠牲になってしまいました・・・。
磯の生態系を水槽に再現するのは大変難しいですが、やってみたいという話はよく伺います。
多少のノウハウは伝えられるように、経験を積んでいこうと思います。



ニッポンウミシダ

2012-10-20 19:24:24 | 生物
先日のウミユリに近い仲間のウミシダ類を今回はピックアップ。
棘皮動物に分類され、瀬戸内海の浅瀬でも見つけることのできる種です。
ホンダワラなどの海草の生えるガラ藻場でよく見かけます。


これはニッポンウミシダ(Oxycomanthus japonicus
ウミシダ類は外見からの分類が大変難しいらしく、体色の変化も大きいそうです。
羽枝の先端が黄色いものはニッポンウミシダの特徴だそうですから、たぶん間違いないと思います。

裏返してみるとこんな感じ。



足のようなものがたくさん生えていますが、これが巻枝と呼ばれる部分で、この部位を使って歩きます。


これは多分オオウミシダ(Tropiometra afra macrodiscus
腕が10本なのでそう分類しています。間違っているかもしれません。
ニッポンウミシダより大きめのサイズです。

採集するときはなるべく羽枝を触らないようにして岩などから剥がします。
羽枝は粘液を出しているためかベタベタしていて、軍手などに絡みつきやすいため、
採集したら海水ごとビニール袋に入れます。ジップロックなどが重宝します。

水槽に入れておくとボリュームもあって中々見ごたえがあるのですが、
気に入らない環境下だと腕が自切してポロポロと羽枝が落ちていきます。
餌は海水中のプランクトンなどを羽枝で集めて中央の口で食べるため、
飼育中はサンゴ用の餌をスポイトで吹き付けてやります。
市販されているコペポーダを粉上にしたものなどが良いそうです。


ちなみに、東京大学の三崎臨海実験所はニッポンウミシダの人工繁殖に成功しており、
要望があれば研究・教育用に限りほぼ実費のみで販売しています。

館山湾岸生物教育研究センターで見たウミユリ

2012-10-16 19:29:25 | 生物
10日から12日まで、お茶の水女子大学附属の湾岸生物教育研究センターに会議で行ってきました。
お茶大と言っても、湾岸センターは千葉県館山市にあり、東京駅から房総なのはな号という高速バスで2時間ほどかかる場所です。
会議の中身は各地の臨海実験所で採集・飼育・施設整備に関わる職員がそれぞれの技術や情報を交換するものです。
女子大の施設のはずですが、見渡す限り会議に参加したおっさん達の群れでした。

館山では主にバフンウニの研究及び飼育を行っている現場を今回見学しました。
バフンウニは大体冬場に産卵期を迎えますが、それを温度管理して産卵期のウニを通年供給することに成功しています。
これらの調整されたウニは、各地の大学や教育機関における研究・教育のために発送されています。
ご希望の方は是非、湾岸生物教育研究センターに相談してみてください。





バフンウニの見学以外で興味を引いたのは、トリノアシ(Metacrinus rotundus CARPENTER)というウミユリの仲間が
飼育されていたことで、100mほどの海底から採泥器(ドレッジ)で採集したようです。



ウミユリは棘皮動物門に属し、ヒトデやウニ、ナマコなどの仲間になります。
その名の通り海に咲く百合のような形から和名が来ています。英名もsea lilyで、
ウミユリ綱を示すCrinoideaも百合のようなものという意味です。
根や茎のように見える部分はそのまま茎と呼ばれ、花弁のような腕(冠部)があります。
茎からちょろちょろと生えているのは巻枝と呼ばれます。
再生能力があることでも知られている生物です。

基本的に深海性の固着生活を送るウミユリですが、実は移動することができます。
私が見た時には時間がさほどなかったため移動している様子を見ることはできませんでしたが、
巻枝を使ってゆっくり匍匐前進し、冠部の腕を使って高速移動をする種もあるそうです。
中には140m/hという速度で海底を歩く種もあるらしく、歩く様子が見れるファイルも見つけました。
転載するのはまずいかもしれませんので、「A jogging flower」で検索してみてください。すぐ見つかります。
なかなかにシュールな光景です。

後は、臨海実験所の生命線である海水のラインを見学し、海水ポンプや取水口の形状、貯水槽などを確認しました。
そしてそれぞれの供給先の様子も見るのですが、中には実に人なれしたハコフグの仲間?がいました。
人が寄ると海面に浮かんできて、触らせてくれます。向島にも芸達者な生物が欲しい所です。


海水ポンプ室。実験所の心臓。


屋上の海水タンク。ポンプでくみ上げた海水をここに貯め、落差で各実験室に供給。


屋外水槽と会議に参加した面々。



湾岸生物教育研究センターの皆様には大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。

ヨツアナカシパンの発生

2012-09-07 20:53:57 | 生物
先日採集したヨツアナカシパンを海洋生物学実習Bに提供し、発生の観察を行ってもらいました。

まずは採卵・採精。
カシパンに水道水をかけて、表面に付着している精子を破裂させます。
(未受精卵を取るために、既存の精子は殺してしまいます)
そして肛門に注射針を差し込み、0.5MのKClを0.5mlほど注入します。



そのまま生殖口を下にして(つまり上下逆さま)、しばらく待ちます。
するとKClによって収縮した筋によって卵あるいは精子が放出されます。
卵は何度か濾過海水でよく洗います。


左がメス(卵)、右が雄(精子)


放精。生殖管が4本見える。


放卵。直径約400μm程のピンク色の卵。直接発生(幼生を経ずに変態すること)をするため、卵は大型。
緑色の色素については後述。

動画「ヨツアナカシパン産卵と放精」



この卵と精子を使って媒精し、25℃の濾過海水中で保持すると卵割が進み、やがて稚ウニになります。


8細胞期


孵化(胞胚)
ちょうど卵殻から胞胚が出ようとしているところです。


プルテウス型幼生
ヨツアナカシパンは直接発生と呼ばれる発生様式を示し、他のウニ類(ムラサキウニやバフンウニなど)
のようなプルテウス幼生になって長期間の浮遊生活をしないため、消化管などはありません。
そのため、プルテウス「型」幼生と記述しておきます。


変態して着底。受精から3日ほどで稚ウニになります。
こうなると管足も伸ばして歩きます。

ヨツアナカシパンは傷がついたり、衝撃を与えるとそこから緑色の色素を出します。
KClを注射した際にこの緑色の分泌液が出てきますが、これは空気に触れると酸化して黄色になります。
昭和28年ごろにこの色素についての研究がされたそうですが、近年の解析技術で調べると
何かおもしろい物質などが見つかるかもしれません。
ちなみに、この汁は大変ひどい臭いがします。ウニが少し腐ったような臭いです。
捕食者に食べられないように忌避物質が含まれるのかもしれません。


黄色くなった分泌色素


海水中に放出されたばかりの色素。緑色を呈する。

変態した稚ウニは、実習の最後に採集地の近くの砂地へ放流しました。
親は死んでしまいますが、漂白して何かのイベントのお土産に加工します。

キュウセンの寝相

2012-05-25 19:08:47 | 生物
時折「魚って寝てるの?」と聞かれることがあります。
魚の種類によって睡眠の取り方は違うようですが、
魚は専門外なので詳しいことはよくわかりません。

はっきりと寝ているとわかる魚にキュウセン(Halichoeres poecilopterus)がいます。
瀬戸内海では大変よくみられる魚で、磯からの投げ釣りでよくかかります。
キュウセンは夜間及び冬季に寝ることで知られており、
飼育に慣れると水槽の中で寝ているのを観察できます。
尾で砂を巻き上げて自分の体にかけ、砂底と一体化したようにみえます。



ところがあまり落ち着かない状況だと、目だけはしっかりと出してこちらをうかがっています。
左のたわしみたいなものはオオブンブクというウニの仲間です。



水温が高くなってきたために昼間は寝ることが少なくなってきましたが、
ライブ放映している水槽で運が良ければ寝ている姿が見えるかもしれません。