2000年のセレクトセール、一躍脚光を浴びた馬がいた。
そのセールでは父サンデーサイレンス・母エアグルーヴの牝馬、
つまり後のアドマイヤグルーヴが注目を集め、セリでは2億3千万円の値がついて大きな拍手が巻き起こった。
しかし、この日のクライマックスは実はもう一つ、後ろに控えていたのだった。それはセール前までは『数いるSS産駒のうちの一頭』というだけの存在だったが…
父サンデーサイレンス、母フランクアーギュメント。
母の兄は米GⅠ馬、フランクアーギュメント自身もGⅠ2着の実績があり、全兄にあたるアドマイヤロードはOP勝ちがある。この当歳に付いた値段は当時レコードとなる3億2千万円だった。しかも落札したのは相馬眼に置いて右に出る者はいないと言われている、
『マイネル』のビッグレッドファーム(以下BRF)・岡田繁幸総帥。
こんな華々しい報道デビューを飾った馬。
フランクアーギュメントの2000、
その名は『カーム』。
そしてBRFでの育成・調教は順調に進み、当時から古馬を煽るくらいの動きを見せるなど『サイレンススズカ級』の評価をいただいていた。
数々の活躍馬の調教をつけて来たBRFの榎並氏も『あの馬に乗って以来、他の馬を誉めることができなくなった』とコメントしている。
しかし…明け2歳を迎えたばかりの春、カームは蹄骨骨折という再起不能級の重傷を負ってしまう。
関係者の熱意の結果、中央デビューはできたものの、3戦して未勝利。そして中央登録抹消、岩手競馬へと移籍した。
岩手に移籍し、菅原右師・厩舎関係者の根気強い仕上げで
最下級のクラスからデビュー(中央獲得賞金0のため)。
03年、11月12日のダート1200mを1番人気で快勝。
その後、戦歴を積み重ね、通算27戦14勝の戦績を残した。
そして岩手の有馬記念・桐花賞4着を最後に引退。
2006年からウチの牧場で種牡馬入りしている。
初めてカームを観た時の感想…
『やはり良い馬だ…綺麗な馬だ…バランスが良くて500kgを超えているようには見えない』と思った。
世間ではマンハッタンカフェがSSに生き写し、なんて言われているものの、はるかにマンハッタンよりSSに似ている馬だと思う。
性格は本当に穏やか。泥浴びが好きでよく寝転がっている。
ウチの社長が会合で岡田総帥に会った時のこと。
社長:『ウチでカームを持って来たよ。面白いと思わないか?』
岡田:『カームか…あれは本当に良い馬だった…(しみじみ)』
社長:『何言ってんだ、今でも良い馬だよ!(笑)』
と話をして来たそうだ。
能力的な欠陥で中央で結果が残せなかったわけじゃなく、再起不能級の故障という能力以外の要因。
潜在能力は『サイレンススズカ級』という評価、さらに復帰後・地方とはいえ14勝、『勝てる』ことを示したこともあり、種牡馬としては期待できる存在だとは思っている。
未知数は未知数…でも夢に賭けたいのが馬産
今年の当歳(初年度産駒)は2頭のみ。
アトムピットとキタノヤマンバが不受胎・流産してしまった結果だが、
今年はその2頭も無事カームの仔を受胎している。
市内の他の牧場で産まれたカーム産駒・メグミアリダーの2007は
良い仔が出て、BRFが中央で使うという話も出ている。
産駒のデビューは2009年。
志半ばで故障してしまい、中央で名前を轟かせられなかった、父の無念を晴らすような活躍をする産駒が出ることを切に願っている。