【 『意識と脳』 2015年9月 紀伊国屋書店刊
スタニスラス・ドゥアンヌ著/高橋 洋 = 訳 】
【 2017年9月11日 一応、読了 】
2年前の9月、発売と同時に購入し、すぐに読み始め、途中休憩もあったが、全体の[3分の2]ほど読み進んでいた。ところが、昨年10月仕事の都合で、それから約10ヶ月間手つかずで中断していたのを、今年8月になって急遽思い出し、後半部分を読み進め、ようやく今回読み終える。
何とも意味深長で、興味深く、示唆の多い内容のある本だ。
○ ○ ○
今、【ビッグデータ】という言葉が巷に飛び回っている。そのビッグデータから派生する問題意識は、全く別の2つの大きな流れに分かれている。1つは、《監視社会》や《盗聴》という問題につながる流れだ。もうひとつは、《ディープラーニング》という言葉に象徴される《人工知能》と人間の《脳の働き》との関連を探る方向だ。
この本に興味を持ったのは、最近の人工知能のめざましい進展と人間の頭脳の関係であり、上の2つの流れから言うと、後者の方向に関するものである。《盗聴》や《監視》、あるいは《ビッグデータ》を使っての《個別広告》や新しい《技術開発》などの応用分野を探るものではなく、《人工知能》の進展を前提として、あくまでも《脳の働き》とその独自性を探求したものだ。
人間の《脳の働き》でキーワードとなるのは、何といっても《意識》(あるいは《無意識》)と《記憶》と《思考》の関連である。《心》や《価値観》も《人工知能の機能》と比較する場合は大事の内容になってくるが、ここでは除外している。
著者はこのような人である。
「本書では、哲学的な謎を実験によって検証可能な現象へと変えた戦略を詳しく解説する。(序-「思考の材料」)」と、書かれているように、内容は決して分かりやすいものではない。
《コンシャスネスアクセス》《グローバル・ニューロナル・ワークスぺース》や《識閾値》だのと、やたらに難しい用語が飛び出してきて、一度読んだくらいではなかなか理解するまでには至らないが、なんとなく核心に迫る重要なことが書いてあるような気がする。
理解していないものが本の内容を伝えるなんていうことは到底できないが、『ウーム、なるほど!それにはびっくり!』というものを、ここで1つだけ紹介しておく。
下の写真は本書から抜粋(スキャン)したもので、【左図】は、上の部分の[A]・[B]の部分を参考のために拡大コピーしたものである(もちろん、細工はしていない)。【右側のそれ】は、実験の便宜のために、上部分だけを拡大コピーしたもの。
この絵に、以下のような説明文がついている。
『 私たちの感覚の背後にでは、強力な無意識の計算が実行されている。・・・一見するとマス目Aはマス目Bより暗く(濃く)見える
はずだ。ところが驚いたことに、どちらのマスも同じ濃さで印刷されている。・・・一瞬のうちにあなたの脳はこの図を解析し、光が
右上から射し、円筒がチェス盤に影を投げかけていることを見て取り、イメージから影の部分の暗さを減算し、影の下になるマス目の
真の色合いと推定されたものをあなたに見せる。つまり、これらの複雑な計算の最終結果のみが意識にのぼるのだ。
』
そして、(周囲のマスを覆えば確認できる}と付け加えられているから、そうしたら確かに同じだった。
〔スクリーンの画面でも確認できるので興味ある人は、画面の白い部分を覆える紙を用意して、マス目A,Bにあたる部分だけをカッターナイフで切り取って見たらいい。]
これには恐れ入った。《人間の脳の働きって、なんてすごいのだろう》と。《こんなこと到底、今のコンピュータでも絶対にできない》と。
【錯視】を扱っている本には他にもいろいろな例が載っているが、【無意識】と【意識】の関係をわかりやすく示し、脳がその背後で行っている巧みな計算(作業)までをも明らかにしてくれる例示にはびっくりした。
巷にあふれている本によると、「2045年に《シンギュラリティ―(技術的特異点)》が訪れて、人工知能が人間を支配する」とか「近い将来、半分近くの人が人工知能に仕事を奪われ、《大失業時代》を迎える」とか言われている。
『人工知能』が【チェス】から【将棋】、ついには【囲碁】の世界までも人間の能力を超え打ち負かすようになった。そんな様子を見ていると、上のような見解が出てくるのも当然といえる。しかし、考えてみればコンピュータも人工知能も人間を支える【道具】である。その能力が飛躍的に進歩しても、《限られた世界》での話に過ぎない。道具が人間の力を上回ったのは、今に始まったことではない。ジャッキは人は持ち上げられない車をやすやす挙げる。飛行機は飛べない人間を空に浮かべて運んでくれる。計算機は人間の速さの何億倍・何兆倍の速さで正しい答を出す。
しかしそれでも、AIは自ら学習し、自らの能力と可能性を高め、そのうち人間を凌駕すると、一方の科学者は言う。
どうなるのかは、自分には想像もつかないが、2045年にそのようなことが起こるとは、【上の例】を見てもありえないと考える。
しかし、この本の著者ドゥアンヌ氏はこの点に関しても肯定的に考えているようだ。
スタニスラス・ドゥアンヌ著/高橋 洋 = 訳 】
【 2017年9月11日 一応、読了 】
2年前の9月、発売と同時に購入し、すぐに読み始め、途中休憩もあったが、全体の[3分の2]ほど読み進んでいた。ところが、昨年10月仕事の都合で、それから約10ヶ月間手つかずで中断していたのを、今年8月になって急遽思い出し、後半部分を読み進め、ようやく今回読み終える。
何とも意味深長で、興味深く、示唆の多い内容のある本だ。
○ ○ ○
今、【ビッグデータ】という言葉が巷に飛び回っている。そのビッグデータから派生する問題意識は、全く別の2つの大きな流れに分かれている。1つは、《監視社会》や《盗聴》という問題につながる流れだ。もうひとつは、《ディープラーニング》という言葉に象徴される《人工知能》と人間の《脳の働き》との関連を探る方向だ。
この本に興味を持ったのは、最近の人工知能のめざましい進展と人間の頭脳の関係であり、上の2つの流れから言うと、後者の方向に関するものである。《盗聴》や《監視》、あるいは《ビッグデータ》を使っての《個別広告》や新しい《技術開発》などの応用分野を探るものではなく、《人工知能》の進展を前提として、あくまでも《脳の働き》とその独自性を探求したものだ。
人間の《脳の働き》でキーワードとなるのは、何といっても《意識》(あるいは《無意識》)と《記憶》と《思考》の関連である。《心》や《価値観》も《人工知能の機能》と比較する場合は大事の内容になってくるが、ここでは除外している。
著者はこのような人である。
「本書では、哲学的な謎を実験によって検証可能な現象へと変えた戦略を詳しく解説する。(序-「思考の材料」)」と、書かれているように、内容は決して分かりやすいものではない。
《コンシャスネスアクセス》《グローバル・ニューロナル・ワークスぺース》や《識閾値》だのと、やたらに難しい用語が飛び出してきて、一度読んだくらいではなかなか理解するまでには至らないが、なんとなく核心に迫る重要なことが書いてあるような気がする。
理解していないものが本の内容を伝えるなんていうことは到底できないが、『ウーム、なるほど!それにはびっくり!』というものを、ここで1つだけ紹介しておく。
下の写真は本書から抜粋(スキャン)したもので、【左図】は、上の部分の[A]・[B]の部分を参考のために拡大コピーしたものである(もちろん、細工はしていない)。【右側のそれ】は、実験の便宜のために、上部分だけを拡大コピーしたもの。
この絵に、以下のような説明文がついている。
『 私たちの感覚の背後にでは、強力な無意識の計算が実行されている。・・・一見するとマス目Aはマス目Bより暗く(濃く)見える
はずだ。ところが驚いたことに、どちらのマスも同じ濃さで印刷されている。・・・一瞬のうちにあなたの脳はこの図を解析し、光が
右上から射し、円筒がチェス盤に影を投げかけていることを見て取り、イメージから影の部分の暗さを減算し、影の下になるマス目の
真の色合いと推定されたものをあなたに見せる。つまり、これらの複雑な計算の最終結果のみが意識にのぼるのだ。
』
そして、(周囲のマスを覆えば確認できる}と付け加えられているから、そうしたら確かに同じだった。
〔スクリーンの画面でも確認できるので興味ある人は、画面の白い部分を覆える紙を用意して、マス目A,Bにあたる部分だけをカッターナイフで切り取って見たらいい。]
これには恐れ入った。《人間の脳の働きって、なんてすごいのだろう》と。《こんなこと到底、今のコンピュータでも絶対にできない》と。
【錯視】を扱っている本には他にもいろいろな例が載っているが、【無意識】と【意識】の関係をわかりやすく示し、脳がその背後で行っている巧みな計算(作業)までをも明らかにしてくれる例示にはびっくりした。
巷にあふれている本によると、「2045年に《シンギュラリティ―(技術的特異点)》が訪れて、人工知能が人間を支配する」とか「近い将来、半分近くの人が人工知能に仕事を奪われ、《大失業時代》を迎える」とか言われている。
『人工知能』が【チェス】から【将棋】、ついには【囲碁】の世界までも人間の能力を超え打ち負かすようになった。そんな様子を見ていると、上のような見解が出てくるのも当然といえる。しかし、考えてみればコンピュータも人工知能も人間を支える【道具】である。その能力が飛躍的に進歩しても、《限られた世界》での話に過ぎない。道具が人間の力を上回ったのは、今に始まったことではない。ジャッキは人は持ち上げられない車をやすやす挙げる。飛行機は飛べない人間を空に浮かべて運んでくれる。計算機は人間の速さの何億倍・何兆倍の速さで正しい答を出す。
しかしそれでも、AIは自ら学習し、自らの能力と可能性を高め、そのうち人間を凌駕すると、一方の科学者は言う。
どうなるのかは、自分には想像もつかないが、2045年にそのようなことが起こるとは、【上の例】を見てもありえないと考える。
しかし、この本の著者ドゥアンヌ氏はこの点に関しても肯定的に考えているようだ。