「サイバーアーツジャパン アルスエレクトロニカの30年」展
木場まで出張って、プレビューを覗いてきました。
いわゆるオープニングパーティの類が今やすごく苦手なのだが、マルチメ系(死語)のアートなら息子も楽しめるかな?と思い、連れて行ってみた。果たして息子は会場に入るなり、鈴木康広さんの作品にとりつかれ、延々とそのまわりで駆け回ってはしゃいでおった。遊具とでも思ったか。
鈴木さんの作品は、巨大な白い円柱状のオブジェの下部にあいた郵便ポストのような穴から、木の葉の形をした紙を入れると、てっぺんの開口部からそれが吹き出してきてヒラヒラ舞うというもの。実はこれ、昨年ぼくが羽田空港を通りかかった時に展示されていて、その時も通りすがりの子どもたちがわっと群がって延々と遊んでいた情景をおぼえている。複雑な仕組みや思想も大事だが、とりあえず子ども心をわしづかみにする直裁さ、やっぱり大事だよね。
そして、来てみたらこの展覧会、去年のうちのクリスマスパーティに来てた面子 - 明和電機、八谷和彦、クワクボリョウタ、エキソニモ - が一同に会するものだった。だから何だってことはないが(笑)
八谷くんの代表作(社会的に有名って意味で。アーティストとしての代表作はやはり"視聴覚交換マシン"と個人的には思ってる)『ポストペット』の展示は、あの桃色熊「モモ」の原寸大フィギュア(いや原寸とはモニターで見る小さなサイズか?)が、こたつでうたた寝してるというイイ感じに肩の力の抜けた作品。
エキソニモの作品は非常にコンセプチュアル。たとえばインターネットにあふれる情報の中から延々「神」という言葉を検索し、「ゴット」という単語に即座に変換して偽の文章を作り直して表示し続けるシステム…とか。無理矢理ひとことで言えば、ネット空間そのものをハッキングによって可視化する企て、といったところか。
センボーくん本人は「これって、メディアアートじゃないスよね」とつぶやいていたので「え、じゃあ何だろね?ジャンルとしては」と尋ねると、「うーん…ファインアートですね」と答えていた。
確かに、ニューメディアや先端テクノロジーをこれみよがしに使ったアートこそが「メディアアート」なのだとしたら、これはメディアアートではないかもしれない。だがメディアそのものに対する批評性を前面に出し、メディアそのものについて考えさせてくれる作品もまた「メディアアート」なのだとしたら、これはやはりメディアアートの一種と考えても良いのではないか。
明和電機は、例によって「オタマトーン」のデモ演奏(社長めちゃめちゃオタマ芸がコナれてきてます)そしてもはや伝統芸能の域に達している「パチモク&コイビート」演奏。なんと会長(社長の実兄)とのデュオという、懐かしい光景がみられた(ちなみに会長が明和電機を"定年退職"した後、コイビート演奏は代々の工員によって引き継がれてきたわけだが、今夜の会場には会長以外に3人もその演奏経験者がそろっていた。"コイビート4重奏"とか観てみたかったな)
だが今夜のハイライトはそのデモ演奏後。歴代の楽器がマネキンと共に展示されているショーウィンドウに、社長と会長がやおら入り込んで、微動だにせずポーズを決め、「ギルバート&ジョージ」よろしくリビング・スカルプチャー(人間彫刻)のパフォーマンスをし出したことだろう。当然アドリブだろうけど。こういう時の「あうんの呼吸」はさすが、実の兄弟。
その「コイビートを演奏できる男たち」の1人、スズキユウリくん(明和電機のDVD『メカトロニカ』でも演奏してます)は、いつのまにかロンドン在住のアーティストになってて、今回は招待作家の1人として来日していた。作品は、レコード針を底につけた小さな車が、床に敷かれたアナログレコードの断片の上を走り回りながら音を拾うというもので、本人のたたずまい同様、なんというか実にオシャレかつクールな雰囲気でした。あとクワクボくんのは、実は会場では作品にも人にも会えずじまいだったんだけど、後できいたら当夜も大汗かいてメンテナンスにかかりっきりだったとのこと…
↑と書いたら、あとでクワクボくんから ちょっww 「大汗かいてメンテナンスにかかりっきり」ってまるでこれじゃ壊れてて展示できてないみたいじゃないっすか(時にそういうこともありがちですが..)。その日はちゃんとお客さんにシッポ装着したり説明したり外したりしてましたよ!!とtwitterでツッコミが入りました(汗)作家の名誉に関わることなので訂正しておきます(笑)ぼくが会えなかっただけです
そもそも"アルス・エレクトロニカ"というのは、毎年リンツで開かれるメディアアートやテクノロジーアートの祭典で、日本からの応募者や受賞者も多く、毎年けっこうな話題になっている一大イベントだ。
しかし今回のこの展覧会は、「なぜ"アルス"の名を冠していながら音楽部門の受賞者は完全スルーなのか?」という事で、twitter界隈でもいっとき波紋を巻き起こしていた。(ちなみに日本人としては三輪眞弘さん、吉田アミさん、ユタカワサキさん、Sachiko Mさん、刀根康尚さん、池田亮司さんらが"デジタル・ミュージック部門"でグランプリにあたるゴールデン・ニカ賞を穫っている)
もちろんキュレーションとは恣意的なものである。コンピレーションCDのプロデュースと同じで、作家を「選ぶ」ところからキュレータの仕事は始まるわけだから、誰の作品を展示し誰は展示しないという取捨選択が行われるのは当たり前だろう。しかし今回は「"アルス"展と銘打ってるのに、なぜ音楽部門はスルーしちゃうの?」という点に、抵抗を感じた人も多いのではないか。
音楽で賞をとった中では唯一、池田氏の作品(ただし音楽ではなく、シルクスクリーン作品2枚を額装したもの)を展示しているのも中途半端な印象。(あわてて付け加えるが、これは池田作品が中途半端という意味ではなく、この展覧会の"アルスの音楽部門に対する態度"が中途半端ということ)
もしも理想的なソリューションがあったとすれば、デジタル・ミュージックに造詣の深い組織や施設が中心となって、同時期にこの展覧会とタッグを組み、「デジタルミュージック・ジャパン アルスエレクトロニカの30年」とでも称した音楽フェスティヴァルを開催することだったかもしれない。
だが残念ながら、上に挙げた方々のように実験的で、先鋭的で、横断的で、それゆえ既存の音楽ジャンルの枠にはまりにくくて、だからこそ可能性のある音楽を、積極的にサポートしオーガナイズしていくような公的組織は、日本には存在しない(もちろん個人のレベルでは、そうした志を持つプロデューサーは存在すると思うが)。少なくとも「東京都現代美術館」に匹敵するような規模では。
そんな「先端アートと先端ミュージックの非対称性」についても考えながら会場をうろつき、まあこういう展覧会なので必然的に会う友人知人旧知の方などに挨拶だけはしてから、レセプションパーティが始まる前にそそくさと引き上げた。
会場を出ると外は雪だった。
行けばお逢いできたのに、残念。
展示会は昨日(2/4)、拝見してきました。
芸術もテクノロジ。
テクノロジも芸術ですね。
そんなことを感じた次第です。
お互いの活動範囲を考えれば、いずれどこかでまた遭遇できるかと思います
楽しみ!