ヲノサトル責任編集・渋東ジャーナル 改

音楽家 ヲノサトル のブログ

「装飾」展

2010年02月25日 | レビュー


『MOTアニュアル2010:装飾』展
(東京都現代美術館)


洋服の話から始めよう。

ぼくは実は、細かい「模様」「紋様」といったものが苦手だ。細かい小花模様とか、オーガニックで曲線的な柄とか、ビーズや刺繍を散らした小細工物とか。インドとかバリとかのあの美しいテキスタイルや民族衣装も、感心して眺めはするけれど、うっとりと感動したりはできないタチだ、実のところ。

女性服にはそういったデザインが多い。それを眺めるのは嫌いではない。けれど自分の服となると、どうもね…。クローゼットを見てみても、ボーダーとかストライプとか無地とか直線的なデザインばかりだ(アロハシャツは例外だが、あれは柄というより"絵"だからね)ペイズリーのシャツなんか着ると、細かい柄が自分を覆っているのが、小虫にでもたかられているような感じで、何かこうチクチクしてくる。

そういえば風景にしても、海と山を比べると圧倒的に海の方が好きだ。海のあのスカーン!ボーン!とあっけらかんと単純な風景(いや砂粒とか細かくみればそうは言えないけど、遠目に眺めた場合の話ですよ)に比べ、複雑かつ精妙に植物が生い繁り草や木や岩や山が重層的に折り重なる山の世界って、何か疲れる。リラックスできない。



そんなぼくが今回行ってみたこの展覧会は、もう「紋様」「柄物」「細工物」のオンパレード!

青木加克世さんの展示室から、もうクラクラしてきた。髑髏のような獣のような禍々しい物体やら、半宙吊りにされた巨大な剣やら、なまめかしく白い陶磁でつくられたオブジェがシンメトリカルに配置され、ゴス少女の妄想館みたいな完全に「あちら側」の空間になってしまっている。

山本基さんの作品は、展示室の床に塩を盛ってつくられた曲線が這い回る。細かい迷路や脳細胞の表面のような文様が、遠目にみれば白い砂丘のような平面を形づくっている。これはもちろん、搬入時に少しずつ手で盛っていったんだろうな。そのプロセスを想像するだけで気が遠くなり、ふらふらと倒れそうに…いやいやいや倒れちゃいかん!ちょっと息をふきかけただけで塩が飛散しそうで、傍を通り抜けるのも緊張する!



他にも、木を彫って文様をつくった作品、巨大な紙細工(細かい穴をカッターで切り開けたもの)に照明をあてて影絵のように壁に紋様を浮かび上がらせた作品、石けんの表面にカッターで細い線の紋様を切りつけた作品、キルトのように布で細工した作品、油彩で偏執狂的に反復するモチーフを描いた作品……と、これでもかこれでもか紋様装飾のオンパレード!しかもどれも、おそらく尋常ではない時間をかけて作業を細かく細かく細かく続けないと作れないような、過剰に巨大な作品ばかりなのだ!紋様紋様紋様!!!装飾装飾装飾装飾装飾装飾装飾装飾!!!!!!!!!!

既に述べたように、こういった細かい柄モンは苦手なのだ。観てるうちに俺が紋様を観てるんだか紋様の中に自分がいるんだか?よくわからなくなり?頭の中がチクチクチクチクしてきて耐えきれずウワァーーーーッ!!!!と叫びながら作品の真っただ中にジャンプし作品をひきちぎって全身にまとわりつかせながら地べたをゴロゴロしてみたくなったりするのだが、その程度の狂人など想定内なのか、いつもの展示に比べて監視員さんの目はキビシく、気がつくと背後3mほどのところに音もなく張りついているのだった。

これまで「装飾」と言えば飾り物、つまりは表面を飾り立てるだけのものであり、なにか内なるものを表現する行為とは違う、となんとなく考えていた。だが本展の作品群を目にして、常識を超えた過剰な装飾はその過剰さ自体が十分「表現」(というより狂気や過剰な情念の放出)にあたると思い直した。

ひらたく言えば、「量」そのものが「質」であるような表現、ということなのだが。ある種のナイーヴアート、精神病患者の作品などにも通じる、「意図」や「文脈」に全く依拠しないやみくもな欲望のむき出しが、ここにはあった。

動物も装飾はする。外敵を惑わす蛾の羽とか、異性をひきつける孔雀の羽とか。しかし人間が行う「装飾」は、そういった本能や自然に結びついた行動とは、種類が違うのではないか。岸田秀ふうに言えば「本能の壊れた動物」としての人間ゆえの、際限なく歯止めのきかない行為。プログラムが壊れて停止できなくなった機械のような、ノンストップの狂気。

我々がふだん「普通」と考えてるこの世界を違った角度から照らし出し、「感動」の一撃で我々の固定観念を揺るがすのがアートの役割だとしたら、洋服の柄や壁紙ていどにしか考えていなかったぼくの「装飾」観を足下からグラグラさせてくれた今日の作品たちは、まさしくアートそのものであったと言わざるをえない。

だからと言って、柄物の服を好んで着るようにはならないと思うけどね。



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